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総督の遺言  作者: 西季幽司
第一章「バラバラ殺人」
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最低の人間②

 部屋の観察を終えて外に出ると、同僚の高島嘉雄(たかしまよしお)から「おう、佐伯。一人か? 俺たち、今から行方不明の部屋の主の長男から話を聞きに行く。お前も一緒に来るか?」と声をかけられた。

 高島は四十代。油の乗り切った年代だ。丸顔で一重瞼、頭髪は薄くなっているが、髭の剃り跡が濃い。目から鼻に抜ける聡明さは持ち合わせていないが、粘り強く地道な捜査を厭わない。

 祓川に置いてきぼりにされた佐伯を気にしてくれているようだ。

 高島の隣で小笠原祐介(おがさわらゆうすけ)が朴訥な笑顔を浮かべている。小笠原は高島と同い年だが、一度、民間企業で働いてから、警察官となったため、経歴は高島の方が古い。そのせいか極端に無口で、色が黒く、ほうれい線がくっきりと刻まれた顔は働き者の農夫を思わせる。

 佐伯にとっては大先輩の二人だ。

「はあ、良いんですか? ご一緒して――」

「じゃあ、行くか」と三人でマンションを出た。

 マンション前に停めてあった警察車両に乗り込み、大田区を目指した。仲崎光輝の兄、勇次は大田区にある工場に勤めており、平日の昼間なら、そこに行けば会えるという。

 佐伯がハンドルを握った。助手席に座った高島から、仲崎光輝から聴取した勇次に関する情報を教えてもらった。

 仲崎勇次は高校を卒業後、大田区にある町工場で働いている。既に結婚し、三人の子供がいる。子供を三人抱えて家計は火の車だった。だが、勇次はギャンブル好きで、少しでも金が手に入るとパチンコ、競馬、競艇に注ぎ込んでしまうようだ。

 勇次は常に金に困っていた。

 ある日、町工場で一緒に働いている黒田から、幸太郎が大金を持っているという話を聞いた。黒田は幸太郎の古くからの友人だ。

「この間、幸太郎さんと久しぶりに会って飲みに行ったんだ。そしたら、『お宝が売れて結構な金になった』と言っていた」と黒田が勇次に伝えたようだ。

「結構な金って、いくらなんだ?」と勇次が尋ねると、黒田は「はっきりと教えてくれなかったけど、ありゃあ~相当な大金のようだ。数百万円なんて単位じゃなくて、一千万円くらいじゃないか」と答えた。

 黒田から話を聞いた勇次は、早速、「金が手に入ったそうだけど、俺にも少し貸してくれないか?」と幸太郎のもとに頼みに行ったと言う。

「ところが、あのクソ親父。『金はない』と兄貴を門前払いにしたそうだ。兄貴は『シラを切るな!黒田のジジイから、親父が金を持っていると言う話を聞いたんだよ!』とゴネたが、親父は『例え金を持っていたとしても、お前になどにやらん! どうしても欲しければ俺が死ぬのを待つんだな』と言って兄貴を追い返したそうだ」と光輝は言った。

 そして、光輝自身も勇次から話を聞いて、やはり父親から金を借りようと幸太郎のマンションにやって来た訳だ。

 高島の話によれば、仲崎光輝は高校を卒業してから職を転々としており、現在は独身で無職、勇次と同じように金に困っていた。光輝は勇次に貸さなかった金も、自分には貸してくれるはずだと信じていた。光輝には甘いところがあったのだろう。

 勇次、光輝以外に兄弟、姉妹はいない。

 金を貸してくれない父親に腹を立てた勇次が、幸太郎を殺害したのだと光輝は主張していたが、確たる証拠がある訳ではなかった。

「何だか、複雑な家庭環境のようですね」と佐伯が言うと、「複雑と言うか、破綻した家庭と言った方が良いかもしれんな」と高島がため息交じりに答えた。

「祓川さん。仲崎のやつから話を聞いていたはずですよね。何も教えてくれませんでした。放っておくと、直ぐに単独捜査に走るし・・・」と佐伯が愚痴ると、「佐伯。あの人は本庁の捜査一課で辣腕を振るっていた刑事だ。お前、あの人に食らいついて、捜査のやり方を少しでも盗んだ方が良いぞ」と忠告された。

「そんなものですかねえ~」佐伯は興味無さそうに答えた。

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