ショートケーキ①
秋貞の取り調べは遅々として進まなかった。
仲崎幸太郎を殺害したと認めているのだが、細かな点になると、証言が二転三転するからだ。
「刑事さん。当たり前ですが、人を殺したのなんて初めでした。動転していたので、記憶があやふやなだけです」秋貞はあっけらかんと言った。
高島は質問を変えた。「どうやって仲崎のことを知ったのですか?」
「僕はずっと総督の遺言を探していました」と秋貞は言う。
総督の遺言が中村家の家宝であった。それが父親の失踪と共に無くなった。父親は人の良い人間だった。お人よし過ぎて、他人に恨まれていたとは考え難い。事件に巻き込まれたのだとしたら、それは総督の遺言絡みだろう――そう秋貞は考えた。
総督の遺言を見つけることが、父親の行方を知ることに繋がっている。「父が僕たちを捨てた――なんて、思いたくもありませんでした。でも、ある日、突然、いなくなってしまった。僕たちが嫌になって、家を出たのだと、そんな風に考えることがありました。お袋は、『あの人はそんな人じゃない!』と言っていましたが、失踪した事実を考えると、その考えを捨てることができませんでした」
先ほどまでの、どこか能天気な明るさとは打って変わって、暗い表情で切々と言った。「母や妹の為にも、父が僕たちを捨てたのではない――それを証明しなければなりませんでした。ですが、そうなると、父は何か事件に巻き込まれて、既に亡くなっていることになる。そういう結論になってしまうのです。父の行方を知ることは、僕たちにとって、辛い現実を受け入れることになるのかもしれない。それでも、僕は知らずにはいられませんでした。どうしても、知りたかったのです」
「それで、どうやって仲崎さんのことを知ったのですか?」
「暇がある時に、都内の骨董屋を訪ね歩いて、総督の遺言がないか、どこかで見たという噂を聞いたことがないか、聞いて回っていたのです。でも、ダメでした。噂どころか、その存在さえ知らないような骨董屋ばかりでした。それが、三か月くらい前だったでしょうか。突然、総督の遺言が売りに出されて、しかも高額で売れたという噂をあちこちで耳にするようになりました。あまりに高値で売れたものですから、業界で噂になったようです。苦労しましたが、西浦竜玉堂というお店が総督の遺言を取り扱ったらしいということが分かりました」
「それで、どうしたのです?」
「西浦竜玉堂さんを尋ねました。何度か尋ねたことがあって、西浦さんとは顔馴染みでした。総督の遺言のことも、西浦さんはちゃんとご存じでした。昔、尋ねた時に、僕の話を聞いて大変気の毒がり、もし噂を聞いたら、教えてあげるよ――とそんな風に言ってくれました。西浦さんが取り扱ったと聞いて、これで誰が持っていたのか分かると思って、直ぐに尋ねました。そして、何処で、どうやって手に入れたのか尋ねました。ですが、西浦さん、総督の遺言を取り扱ったことは認めてくれたのですが、その出元については、個人情報なのでダメだ、教えることはできない――の一点張りでした」
「それで、どうやって西浦さんから仲崎さんが総督の遺言を売ったことを聞き出したのですか?」と高島が問いただすと、「そうですねえ~今更、罪がひとつ増えても、たいしたことはないでしょう」と寂しそうに笑うと、「西浦竜玉堂さんに忍び込んだのです。夜中に入口の鍵を壊して、お店に侵入しました。奥の事務机の引き出しから、取引先を記した帳簿を見つけて、総督の遺言を所有していたのが仲崎幸太郎という人物であることを知りました。やつの住所もそこに書いてありました」と秋貞は答えた。
秋貞の指紋を採取し、西浦竜玉堂の事務所の机から採取した指紋と照合したところ、一致した。自白通り、秋貞は西浦竜玉堂に忍び込み、帳簿を盗み見たのだ。
「西浦竜玉堂に不法侵入した訳ですね」
「はい」と秋貞は素直に頷いた。「そして、仲崎幸太郎の存在を知りました」
「仲崎幸太郎があなたのお父さんの家宝を持っていたからと言って、あなたのお父さんを殺害した犯人だと決めつけるのは早計なような気がします」と高島が言うと、「だから、あの夜、それを確かめに行ったのです」と秋貞は答える。
「確かめる? 夜中にベランダから侵入して、仲崎さんを問い詰めるつもりだったのですか?それも、彼を殺害する準備までして」
秋貞の供述は支離滅裂だ。
「そう言われても、そうなのですから、そうとしか答えようがありません。人間は常に理性的に行動している訳ではありません」と至極、まっとうなことを言った。
「それで、仲崎さんがあなたのお父さんを殺害して総督の遺言を奪った。そう認めたのですか?」という問いかけに、「はい。彼は父を殺害して、池の底に埋めたことを認めました。だから僕はあいつを殺して、バラバラにして、池に捨てたのです。あなたがた警察は、やつの頭を探して池を総ざらいしてくれました。案の定、父の白骨遺体が見つかりました。これでやっと、父の恨みを晴らし、やつの犯行を明るみにすることができました。僕は満足です」と滔々と述べると、秋貞はひとつ、ふたつ頷いた。
「うむ・・・」死人に口なしだ。
これが高島から聴取した秋貞和義の取り調べの詳細だった。




