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4話 仕組まれた召喚と特典


 レクスが難しい顔で昔話を始めた。


「これはシルヴァ様から聞いた話しなのですが、昔、ある賢者がダンジョンのボスと最終決戦の最中、ダンジョンと共に忽然と消滅したと聞いております……」


 レクスの話は続いた。その賢者とシルヴァ父さんは元パーティーメンバーで、賢者と冒険者はダンジョンへ、シルヴァ父さんはクラビス父さんと交戦中だった。

 ひとりだけ難を逃れたシルヴァ父さんは、メンバーと賢者の行方を探したが見つからず、争いにも嫌気が差して、聖剣士を辞めたという。

 

 シルヴァ父さんが黒魔術師(ネクロマンサー)になったきっかけは、クラビス父さんの影響もあったが、死霊を呼び出して仲間たちの行方を探すためだった。

 今も尚、諦めていないとレクスは切実に話す。そしてその時のラスボスがレッドドラゴンだという。


「……そうか、そんな事が……」

「我が魔人とて、その様な出来事は聞いたことがなく、それでも、今ここに居るドラゴンがラスボスではないか、シルヴァ様の願いが届いたのではと……思う次第です」


 レクスが戸惑うのもわかる気はする。もしも、時空間に囚われていたとしたら、ドラゴン、あるいは賢者なら耐え得ることも可能だろう。

 この事態をどう捉えるべきか――


「レクス、今はまだ憶測に過ぎない、くれぐれもシルヴァ父さんには内密にな」

「そう……ですね、畏まりました」


 俺はさっそくドラゴンの眠る樹海へ向かった。とその前に、結界を強固なものに張り替えた。シルヴァ父さんは勘がいいからね。


 ドラゴンの側に寄ると、どうやらだいぶ回復したようで、死霊たちと(たわむ)れている。呑気なものだ。


『よう火龍、だいぶ元気になったな』

『お主は……まだ名前を聞いておらんかったが、何と礼を言ったらよいか……』

『俺はジニアス、礼なんかいらないよ。それより、ちょっと聞きたいことがあるんだが』

『吾輩はフォボス、上位龍の神龍で火を操る。して、聞きたい事とは?』


 上位だとは思ったが神龍かよ。その神龍がなぜ手負いだったのか――


『フォボスか、で、その神龍がどうして傷だらけなんだ? それと、どこから来た?』

『吾輩は洞窟に住んでおった、そこへ人間たちが訪れるようになり、いつしか邪気によって魔物が棲み付き、ダンジョンと呼ばれるようになった』


 なるほど、大体の原因は人間が関わっている、冒険者という職業が大半の時代だったからだろう。

 だとすると、フォボスがラスボスってことになるが、果たして賢者と戦ったのか――


『ふーん、そうなんだ――ある昔話があってね、ラスボスと戦った賢者が、ダンジョンごと消えたってことらしいんだけど、それってもしかして、フォボスが関係してたりする?』


 フォボスは暫し沈黙する――

 

『昔話か――あれは、冒険者がいきなり戦いを挑んできおってな、この傷はその時に負ったものだ。確かエルフォルクという賢者も居たと思うが……』


 レクスの予想は的中した。しかし、どうも記憶が曖昧みたいだが、もう少し情報が欲しい。


『その賢者はその時どうなったか、覚えてる?』

『……あの時、吾輩より先に、賢者は杖をかざし別の異空間へ消えたように見えたが……』

『異空間?』

『ああ思い出したぞ、吾輩は咄嗟に転移魔法を使ったのだ。だがここまで時間の空白が生じるとは思わなんだ、これは異空間による影響やも知れんな』


 神龍が言うんだ、信憑性はある。だとすると、賢者も冒険者も生きている可能性があるってことだ。

 ん? ちょっと待てよ。その賢者って―


『なあ、その賢者って、杖に嵌め込まれた黒い石がこう、ピカっと光ったりした?』

『ああそうそうピカッとな。それが?』


 そいつは俺を召喚した奴に間違いない、まさか賢者だったのとは……。

 もしかして、女神と繋がってる?


『ちょっといいか、フォボスはイリーガルハンターって知ってる?』

『また随分とレアな職種だな。確か"非合法の狩人"だったか、相当なスキル保有者でないと務まらん、チートすぎる厄介な代物だったはずだが』

『……ふ〜ん』

 

 だから特典なのか――クソ、何が加護付きだよ、売れ残りを押し付けやがって!


『だがな、加護があれば天下無双の職業だ。まあよっぽどでない限り、なろうと思う奴はおらんよ』


 おっ?

 

『へー、加護ねえ……その加護ってどんな?』

『戦神の加護だ。あらゆる非合法を無効化、負傷無効化、能力強化、つまり無敵ということだ』


 ちょっと、何そのおいしい話。これってやるっきゃないやつでは?


 ということで、フォボスにこれまでの経緯と俺の正体を暴露した。するとフォボスはカッカと笑い、俺の転生話を興味津々に聞いていた。

 どうやら神龍でも俺の繰り返し(リプテーション)スキルは知らないようだった。


 この先フォボスは必要な存在になる――

 

『どうだろう、俺と交友関係を結んでくれない? フォボスの知恵と力を借りたいんだ』

『――良かろう、吾輩もこの世を観てみたい。交友とは友ということで良いか? 吾輩はずっと友を望んでいたのだ、もうひとりは嫌なのだ……』


 だよなあ、神龍といえど、洞窟や時空でひとりは寂しかったろう、俺なら発狂しちゃうかも。

 

 それから、俺の正体はフォボスにしか明かしていないと言うと、フォボスは大層よろこんで、俺を友から親友に昇格させた。それなりに信頼は得られたらしい。

 それと、俺の家族構成も話しておいた。当然と魔王の存在は承知していたが、シルヴァ父さんについては、ダンジョンで見かけたくらいにしか覚えていないという。


『そうか、彼奴(あやつ)は賢者の仲間か……』


 俺が思うに、賢者は神龍を逃がすために自ら異空間を作ったのではないか。そう考えればダンジョンが消滅した訳も理解できる。

 もし女神と繋がりがあるとしたら、俺の転生の件も、イリーガルハンターの件も承知していた。

 

 俺をシルヴァ父さんの(もと)に召喚したのは、偉業の助っ人が欲しかった、だから女神は特典付きのハンターを俺に押し付けた。

 仕組んだのは賢者、理由はどうあれ、この先を任されたってことなんだろう。

 

 とにかく、フォボスには明日の朝また来ると言って樹海を離れた。


 イリーガルハンターか……少々腹立たしい気もするが、ハッピーライフと両親のためなら、仕組まれたハンターロードに乗ってやろうじゃないか。


 さて、レクスにどうフォボスのことを話そうか、流石にノンフィクションはキツイだろうから、脚色を交えて話すことにしよう。



 翌朝――


 俺は朝食の時に、レクスにフォボスのことを話すと、少し驚いた様子だったが、そのあとはただ黙って聞いていた。きっとシルヴァ父さんのことを考えていたのだろう。


 食事が済むと、俺とレクスは樹海へ向かった。見れば死霊に囲まれた人間の姿があった。


「……ゲッ! マジ?」


 おそらくフォボスと思われる、妖艶でピッカピカのイケメン野郎が俺に手を振る。

 おいおいおい、どうしてそうなった?!


「もしもしフォボスくん、その姿はいったい……」

「やあ、吾輩の親友ジニアス、おはよう。人間に化けた方が良かろうと思ってな」


 レクスはあんぐりと口を開けて放心状態、まあそうなるよね。


「ほ、ほらレクス、神龍のフォボスに挨拶して」

「あ、ああ、は、初めまして、執事のレクスでございます。この度はシルヴァ様にご協力くださるとの事、誠にありがとうございます」


 そうレクスには、消えたダンジョンの真相を探りにフォボスはやって来た、という設定にして話た。

 フォボスには伝えてないけど察してくれたようで、上手く話を合わせてくれた。


「吾輩はジニアスに協力するのだ、間違えるでないぞ。其方(そなた)は魔人と聞いたが、もしやマギの世界の魔人か?」

「あ、はい、良くご存知で。マギの世界でも神龍の方々は神秘で有名でございました、そのお方に認知されていたとは、恐悦至極に存じます」


 だからさ、マギだかなんだか知らないが、名刺交換的な挨拶はやめろって、営業マンかよ。


「ほらふたりとも、レクスはいつも通りで、フォボスはもっとフレンドリーに話すこと」

「了解した。ではレクスよ、暫し面倒になる、よろしく頼むな」

「お任せください」


 やれやれ、ようやく一歩前進だ。


「坊ちゃま、そろそろクラブのお時間です」


 半歩後退……。


 


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