【短編】無スキルなのでパーティ追放されました〜筋肉魔法で最強の物理アタッカーを目指します〜
「グラファ、お前はパーティ追放だ。新たなメンバーはもう見つけてきた」
パーティリーダーのソフィアにそう言われても、俺はやっぱりな、としか思わなかった。
俺、グラファ、スキル無し、16歳。
やっと見つけたパーティから、3ヶ月で追放処分、下されました。
現在のメンバーは、リーダー兼剣士のソフィア、ヒーラーのフィリア、ウィザードのケーラ、そして俺。
何故この中に俺が紛れているかと言うと、数合わせの為だ。
ダンジョン攻略には、ソロで行く人もいる。別に、攻略自体は1人で全然構わない訳だが、ギルドに所属するとなると、実は話が変わってくる。
ギルド所属の冒険者は、必ず2人以上でパーティーを組まなければならないという決まりがある。大分昔、まだその決まりが無かった頃、ソロで高難易度ダンジョンに行った奴が死んだから、安全の為作られた物だと説明された。
そういう訳で、活動するにあたり、問題の無い人数で行こうと決めたパーティーから、たまたま俺に声がかかり、チャンスだと思って入れてもらった訳だ。
とは言え、上の方のランクのパーティー……Eを1番下とし、1番上はSランクだが、Sランクやその1つ下のAランクでは2、3人のパーティーが多い。
ただそれは、ギルド側からその人数でも大丈夫、と認められている為だ。ギルド的には、冒険者に死んで欲しく無いのだろう。理由は知らん。
で、どうして無スキル者の俺が冒険者になったかと言うと、お金稼ぎの為だ。
お小遣いが欲しい訳ではなく、俺の弟──ロイズに金銭援助をしてやりたいから。
俺の家は裕福でも何でも無くて、俺もロイズも欲しいものが買えなかった。同年代の子が、新しい剣を買ってもらったり、珍しいアクセサリーを買ってもらったりしているのが羨ましかった。けれど、家にはそんな金が無い。
そして、俺は無スキル者だからソロ攻略は厳しい。
だが、ロイズは俺と違い、かなり強力なウィザードスキルを得ていた。
【四弦魔法】というスキルで、火、水、風、土の四属性魔法を、自由自在に操れる、という効果。たった一つのスキルに4種類も詰め込まれているのだ。普通ならば1人1つのスキルで、与えられる内容は1つ。それを我が弟は1つで4つ。4人分の力を持っているのだから、俺としてはその才能を見過ごす訳にはいかない。
ロイズ程のスキルであれば、ギルドの即戦力からのダンジョン踏破も簡単かもしれないが、前述した通り金が無い。武器も防具も揃えられなければ、意味が無い。
ロイズは現在13歳、ギルドに登録出来るようになるのは16歳。
後3年で、なんとしても装備を整えられるだけの金を稼がなくてはならない。
ちなみに親というのは非情で、俺になんのスキルも無いと知ってからは冷たくなり、12歳の時に家を追い出された。
ロイズは最初知らなかった様だが、部屋の机の引き出しにしまってあった家族写真を見て、俺の行方を問い詰め両親が俺を捨てた事を知ると、家を飛び出した様だ。それからは近所の親切なお姉さんの家に置いてもらっているらしい。
とまあ、経緯はここまでにして。
お分かりいただけただろうか。
今の俺の状況を。
ここを追い出されたら終わる。だが、メンバーに迷惑はかけられない。
そりゃそうだ、ソフィア達はボランティアじゃないんだから。
置いてくれ、なんて無茶苦茶だよな。
「分かった。今までありがとう」
「じゃーねー、また会えたらいいね」
「お元気で〜」
別れを告げ、ケーラとフィリアの声を背に、荷物を持って今まで過ごしてきた拠点から離れる。
良い奴ら、だったな。
─────
さて、ずっとこのギルドにいるとソフィア達の活動範囲と被る。
となれば、違う街のギルドに行くのが無難か。
そう思って、俺は受付嬢に声をかける。
「すみません、冒険者登録の取り消しをお願いしたいんですけど」
「登録取り消しですね、それではカードをこちらにお渡しください」
言われた通り、カードを渡す。
カードを手に、受付の中で両手を動かし何やらやると、俺に一枚の地図を差し出した。
「お待たせ致しました。グラファ様の冒険者情報を削除致しましたので、当ギルドからは脱退の形となります。……ところで、この後はどうなさるおつもりでしょうか?」
俺の荷物を見詰める嬢。多くもない金とポーションと換金出来そうなアイテム少ししか入っていないのが分かるのだろうか。
俺は誤魔化すのを諦めて、正直に言う。
「違う街に行こうと思って。どこか、オススメの場所、ありますか?」
「そうですね……」
暫く地図と睨み合ったかと思えば、一点を指で指し示した。
「ここはいかがでしょうか?」
そこは、この大陸で最も栄えていると言って差し支えない街、『ルクル・グリムシウス』だった。
「ここ……ですか」
「はい。この街に比べ、武器や防具が多く揃っているので、支度をしていくのも良いですし、その街のギルドを拠点にし、活動するのも良いと思いますよ」
「あ、ありがとうございます……」
地図を受け取り、ギルドを出る。手元に目を落とし、目的の場所までの距離を何となく想像してみても、徒歩なら5日はかかる。
うーん……
馬車?
でも金足りるか?そもそもここで使ってもいいのか……?もっと何か買う為に、今は貯めるべきでは……?
よし、無ければ諦めよう。あったら乗ろう。
そう決意を固め、ギルドの裏手へ回る。
ちょうど、残り1台の空の馬車があった。
あったら乗る。
そうだ。鍛えて強くなって仲間に入れてもらえば良いだけの話。これも必要経費だ。
と、自分の罪悪感に言い聞かせながら話しかけた。
「すみません、『ルクル・グリムシウス』まで行きたいのですが……」
「おう、乗ってきな兄ちゃん!」
「あ、ありがとうございます」
馬車に乗り込むと、流れる様に走り始める。やっぱ快適だ……
「兄ちゃんは、何しに行くんだ?」
唐突に、運転手のお兄さんが話しかけてくる。なかなか声が若いな……
「えっと、別の街を拠点にしようかと思って……」
「あの街じゃ不満か?」
「いえ、不満はありませんが、パーティーから脱退したので……」
「あー、そういう事か。大変だなあ」
真剣に話を聞いてくれる。ついつい嬉しくなって、俺が冒険者をやっている理由、親との事、ロイズについて……などなどを話してしまった。それでも、お兄さんは面倒臭がらず話を聞いてくれて、本当に感謝だ。
自分の身の上について話し倒していると、突然馬車が止まった。
何事かと外を覗いてみると、3人の盗賊が座り込んで道を塞いでいる様だ。
「そこのお前ら、道を開けろ」
お兄さんに声をかけられた奴らは、こっちを睨みつけると立ち上がった。
そして、短剣を振り回し威嚇してくる。
醜いな。色々と。
「あぁ!?通りたきゃ有り金全部置いてけよ!」
「荷物も全部こっちに寄越せ!」
「金目の物は全部置いて行け!」
あまりにも煩い奴らに、流石のお兄さんも怒りのボルテージが上がって来た様だ。
手は腰辺りに添えている事から、間もなく武器を取り出す頃かもしれない。
「チッ、話が通じない……悪い兄ちゃん、ちょっとアイツら締めてく──」
「いや、俺が行きます。大丈夫です」
「んな無茶な!?スキルが使えないって言ったのは……」
「大丈夫ですよ、本当に。それに、あんな風に卑劣な手段で金やら装備やら揃える奴には──
──反省してもらわないと、困るんで」
俺はお兄さんの制止を振り切り、外に出る。
バッグには金、ポーション、換金アイテムしかない。
けれど、見た感じ相手はいい武器を持っている訳でも無さそうだし、適当に奪ったものを身につけているだけだろう。
ギルドに入らず、ましてやダンジョン攻略すらせず、こんな所で脅して所有物を奪る様な奴らより弱いとは思わない。
俺は無スキル者だが、雑魚ではない。
ただ、それ以上にソフィアとケーラが強く、フィリアが有能なだけだ。
「荷物が欲しいなら相手してやる。ただし、お前らが負けたら……分かるな?」
俺の含みのある言い方で、十分伝わったらしい。盗賊の1人は、振り回していた短剣を握り締めると一直線に俺に向かってきた。
「舐めるなガキがっ!」
お世辞にも、使い慣れているとは言えない短剣捌き。
回避は簡単だが、敢えて正面から受け止める事にした。
振り下ろされる短剣に、右腕を差し出す。
本来ならば刺し貫かれるであろう鋭さの短剣を、俺の腕は弾いた。
「なっ!?」
驚く相手。
その様子を見て、俺はニヤリと笑った。
スキルを持たない俺なりに考えた戦闘法──否、マナを充てるスキルが無い俺だからこそ出来る事──
原理は簡単。
常に持て余すマナを、一点に集中させて防御を固め、拳をカバーする様に纏わせクッション代わりにし、硬化した手足で相手を殴る。
俺が編み出した、筋肉魔法だ。
ふと思いついたので書きました。
思いついて書きたいところだけ書いたので、連載になるかは分からないです。あとこんな不完全体を世に解き放つな。
いつも書いているのはこちらです。連載ですが、お読み頂ければ幸いです。
異世界転移系なので、大分違う系統です。
下の方に貼っておきます(リンクの貼り方全然違った…)