第四章 除け者
七月二十日、番長が昨日の飲み会の話を始め、『俺何を思い出したんだっけ』、と大声で嬉しそうに叫び始めた。しかももうすぐ産休に入ろうとしている妊婦に向かって尋ね始めているので、そんな無茶苦茶な振りを見てこの人は面白い人だと思った刹那、その妊婦は昨日の飲み会に参加していたことが判明し、愕然とした。つまり本当に女性陣含めて文字通り、「私以外」全員参加であったのだ。
七月二十五日、私は風邪をひいていたが、局長出席の会議があるので出勤した。まずガチョウには今回直接帰れ、という台詞は言われずに済んだ。しかしながら、周りにも拡散するからという台詞は言われた。馬鹿僧は遅れて出勤して、妊婦にうつすといけないから早く帰ってください、とはっきり言ってきた。これを聞いて帰る決意をした。更にエレベーター待ちの番長にお会いして声をかけたが、何か嫌なものでも見るように無視された。人事課にでも寄れば良かったと後から多少悔いたが、最早即刻立ち去りたい気持ちが勝りそんな余裕はなかった。
そして十月十九日、とうとう私はそれまで張りつめていたものが全て千切れて、出勤時の自宅の玄関先で倒れてしまった。あとはもう闇しかなかった。過去の記憶すら無くなり始めた。外に出るのが怖くなり、これ以降職場の方角を向くことさえ、できなくなった。誇張ではなく本当に全てが消えてしまった。もう終わってしまったのだ。