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気の毒な男  作者: Zu2
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第二章 番長

 班長は、異動前に電話をいただいたときは、非常に良い印象であった。声に落ち着きを感じ、今回の異動者は一人のみで、引き継ぎいただく仕事も基本的に残っているメンバーが把握しているので、わざわざ三月中に引き継ぎのためにお越しいただく必要はありませんので、とおっしゃっていただけた。

 しかしながらこれは『嘘』だった。


 正直私は最初の印象に騙された。いや、よくよく思案してみると結構一貫して同じ印象だったかもしれない。何だか矛盾した表現だが、この為人(ひととなり)については不思議と同じである。ただ、あの物言いから私が勝手に想像していた人物であれば、事実と異なるようなことを平気で言う方ではないと思っていた。少なくとも私が先の台詞から解釈した『全員が同じことができるから』という状況とは、およそ現実は到底及ばず、この班長含めて周囲は皆、全ての事務処理の内容を把握しているわけではなく、詳細を聞き出すどころか、概要すら教えていただくには情報が不足していたのだ。

 この課は所謂『主管課』というやつで、現場を担当する『事務所』と相互に連携を必要とする部署となるが、工事行うのも当課への書類合議を強いられる。確かに回ってくる書類は酷い。日付ひとつとっても決してその重要性を起案承認者たちがきちんと見ているとは言いがたい状態である。とはいうものの、急ぎの書類はあるわけで、少し相手に寄り添う方法があると思われるが、この班長は何かにつけて書類を止めたがるきらいがある。耳の悪い私には詳細は聴き取れぬが、馬鹿僧の回す書類も事務所から来たものだが、常に止められている。

 「事務所が言うからと言って、どうして緊急性があるかが明らかにされていないよ。それを説明できないと上を説得して支出の承認なんてできないでしょ?」

 全くもって『当然』の台詞である。だが、馬鹿僧は『自分がやりてえって言ってんじゃねえよ』と言いたげなふて腐れた面でうなだれている。こういうときに奴が切れ始めるなら、私に言わせれば一貫性があるが、奴は黙って班長には逆らわない。だから余計に私は馬鹿僧が嫌いになっていく。まあ、それはどうでも良い。馬鹿僧のことは別として、どうも本当に緊急性を帯びた内容と判断したなら、本当に自分の仕事に誇りを持って臨んでいるなら、私なら馬鹿僧への叱咤はほどほどにして、直接事務所に書類の指示をすれば良い。なんか異動した若い子(私の代わりに他の部署へ転出した子)に対して言う台詞でも、書類の保管に難があってどこにあるか不明なので、『彼のためにも一度呼び出して捜させないと』などと言っていたりした。いや、そうではないだろう。そもそもその大切な書類、情報だって、あんたが上司なんだから、あんた自身が管理、把握をしておくべきことでしょう。これがその子個人が一人で勝手に外部とやりとりしていた書類とかなら分かる。だが、その書類は課として汎用性がある重要な情報なのだ。担当とやらをその彼に指名して、それ以降一切干渉していないだけなのだ。それに対してこんな台詞を平気で吐くものだから、私は事務所が、この班長が書類を止めていると常套句として言われていても、合点がいくところである。だのに班長は、『どうですか?この職場は?』と私に尋ねながら、結局私からの不平不満を聴きだすどころか、『事務所の奴等、俺が書類止めてるとか工事業者の人たちに言ってるんですよ。こっちがどんだけ尻拭いしてるかも知らずに。』と自身の愚痴をこぼし始める始末である。尻拭いは本当なんだろうが、物事の円滑な動きを促進させることこそ優先させ、相手への駄目出しは後とするべきである。これがこの班長の最悪の欠点であろう。

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