【ギリシャ物語】巡る思い。
春が巡り、夏が過ぎて、秋が来る。
秋の終わりに、いつも陽気なヘルメスが、慇懃な使者のそぶりで、私のところにやってくる。
「ペルセフォネ様。冥府からお迎えに上がりました」
跪いて重々しくそう言いながら、エメラルド色の瞳でこっそりウィンクしてみせるので、私はぷっと吹き出さないようにするのがやっと。
「…ああ、コレー。また春まで会えないのですね」
私と同じ長い金髪を振り乱して、お母様は悲しげに言うけれど、私は、本当はこの日を心待ちにしていたの。
「大好きよ、お母様。どうか、体を大事にしてね」
最後に抱き付いて接吻を贈ると、震える腕が私を抱きしめた。
丁重に戦車に乗せられて、私は何度も振り返り手を振る。
輝かしい、美しい地上よ、さようなら。
私はこれから、地母神の娘ではなく。
冥府の王の妃になるわ。
戦車は夜の闇よりも深い、漆黒の帳を抜けていく。私は横にいるヘルメスに尋ねた。
「あの方はお元気?」
「ええ、今日の日を心待ちにしていらっしゃいましたよ」
クスクス笑いながらそう言われ、私の心は高鳴っていく。
やがて、太陽の光ではない、蛍のような燐光が辺りを照らし出した。
紫水晶で出来た壮麗な神殿の前に、戦車が止まる。
この中にあの方がいる、とそう思うだけで足取りは軽くなる。
「あ、ペルセフォネ様だー」
「よくお戻り下さいました、ペルセフォネ様」
ヒュプノスとタナトスの姉弟が、嬉しそうに私の傍に駆け寄ってくる。
「うふふふ、広間も飾り終わってるよー」
「コラ、それは言っちゃいけないんだろ!」
タナトスがコツリと、ヒュプノスの頭を叩いた。
「そうだったー。秘密、秘密ー!!」
はしゃいだ様子で、クルクル回るヒュプノスに手を取られて、私は神殿の奥深くに入っていく。
広間に入ると、私は思わず息を飲んだ。
そこには、冥界には咲かない筈の花が、溢れるほど飾られていたからだ。
スミレ、水仙、ヒヤシンス…一面の花の中で、長い黒髪を垂らした姿が、金色の眼差しを私に向ける。
けして笑わないと言われているあの方の瞳が細められ、その唇が優しく微笑むの。
「…お帰り、ペルセフォネ」
「ハディス様……!」
その黒い衣の胸に、私は飛び込んだ。
愛する地上の何よりも、大好き、大好きなひと。
その腕が私の肩に回り、そして、私達は最初の口付けを交わす。
冥界は、今、春です。
一番大好きな、ハディスとペルセフォネ御夫婦を書いてみました。
今までで最短編。
…好き過ぎて、これ以上何も書けません。
きっと他のギリシャ神話ファンの方々がもっと素晴らしいものを書いておいでですから!
(以下、物語とは関係ない語り)
実は、ハディス様には特別な思い入れがあります。
私(前にも書きましたが)ギリシャ神話は星占いや星座から入った口で。
私の星座の守護星は冥王星で。(これで大体星座がばれる)
冥王星の守護神は、言わずと知れたハディス様です。
…しかし、このハディス様、あんまり神話には出てきません。
ゼウス、ポセイドンの兄(本によっては弟)と書いてあるのみ。
「…どんな神なんだろう?」
で、唯一、記載があるのが、ペルセフォネ強奪!なわけですよ。
姪っ子をかっさらって冥界に連れ込んだあげく、石榴を食わせて地上に居られなくした?!おいおい。みたいな。
年齢一桁のお子ちゃまには、少々、刺激が強すぎます。
他の神様の方が良かったなーと考えていた時期がありました。私にも。
しかし、よーく考えていくと、いつも冷静で地上には干渉せず、他の神が何やらかそうと我関知せず、な態度のハディス様が、ただ愛しい少女のために、見せる一瞬の激情!
その秘められた熱さ、ミステリアスな横顔に秘められた恋心はどうでしょう!
段々この神に好意を覚えていくわけですよ!
…少なくても、浮気ばっかりされているヘラよりも、ペルセフォネは幸せなんじゃなかろうか。
そう、最初は彼の想いを理解できず、絶望に陥るばかりだった彼女も、その優しさに触れて、心溶かしていくんじゃないか。
そういえば、こんな話あったな…そう、美女と野獣!まさにあれだわ。ハディス様は最初から王様だけど!!
などと盛り上がり、彼は結局私の最愛の神になりましたとさ。
まぁ、蠍座気質で親近感があるのも確かですが…。(書いちゃったよ)
あ、ちなみに。
通常の12星座って、太陽がその位置にあったって話なんです。
でも、星占いって、本当は太陽以外の惑星がどこにあったとか、その角度とか、はたまた、その入っていた星座の支配星はどこにあったとか、かなり総合的なことを合わせて占います。
私は、太陽以外の殆どの惑星もぎゅーっと蠍座に集まっているので、相当、蠍座の影響が強そうな感じ。
はい、占いにまったく興味のない方にはつまんないお話でしたね。すみません。
さて、次はしつこくヘルメス主役の話。
どうぞ宜しくお願いします。