表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
map 私の父は誰ですか?  作者: 光咲羽香
2/13

1 犬吠埼


 東京都内から犬吠埼へ向かうためには、電車かバスのどちらかを選択することになる。リコと玲奈は料金の安い電車を選択した。東急田園都市線の池尻大橋駅から徒歩五分の賃貸マンションに住む玲奈と、同じく東急田園都市線の駒沢大学駅から、徒歩八分の賃貸マンションに住むリコ。

同じ沿線に住んでいるので、明日に、時刻表で自分たちが乗り込む電車を検索して、同じ電車に乗り、千葉県千葉市の犬吠埼駅を目指すことにした。

「リコは、明日の午前七時十分、駒沢大学駅発の電車、先頭車両に乗って。わたしも同じ電車に池尻大橋駅から乗るから」

 玲奈は乗換案内で検索してスマートフォンに表示された【駒沢大学から犬吠埼】までのルートと時刻表の画面をリコに見せて明日の予定を確認した。

「わかった」

 リコの同意を得た玲奈はスマートフォンの画面をスクショして、画面に並べられたアイコンの中から緑色の英字でLINEと書かれたアイコンをタップした。トーク画面が最初に開かれた。トーク画面の中から、上から二番目に表示されたリコのアイコンをタップした。

「スクショした画像、ラインで送っておくね」

 玲奈はスマートフォンの画面を数回タップして、最後に青色の紙飛行機のマークを中指で軽くたたいた。

「はい、これで、OK」

 玲奈は独り言のようにつぶやくと、スマートフォンをテーブルの上に置いた。

「ねえ、玲奈」

 リコが玲奈の目の奥を見つめて、思いを伝えようとしている。再びリコが良からぬ発言をする。

「明日、モーニングコールお願いしてもいいかな?」

 リコは雨の中捨てられた子犬のような目で玲奈を見つめた。リコからモーニングコールを依頼されることは珍しくはない。高校時代にも何度か経験しているリコのモーニングコール発注は、玲奈にとっては想定内だ。

「えーっ、また?」

 玲奈は今までの会話よりも一オクターボ高い声をあげた。

「ごめん、大丈夫だと思うけれど、念のため」

 リコは自分の小さな顔の前で両方の手のひらを合わせて、頭を少し下げて、眉間にしわを寄せた。

「しょうがないなー」

 玲奈の脳裏に、高校時代の二人の関係が回想された。

 不仲な父親と二人暮らしだったリコの母親代わりは、玲奈だった。学校に遅刻しないようにリコを起こしたり、時にはお弁当を作っていた時期もあった。高校を卒業してから四年の月日が経過している。四年の歳月は二人の容姿やステイタスを変えてはいたが、二人の関係を変えることはなかった。


 翌日、予定どおりの電車で落ち合った二人は、錦糸町駅でJR総武線に乗り換えて、千葉駅を目指した。千葉駅到着時刻は午前八時二十七分。乗り換え時間は十二分ある。千葉駅からは約一時間半掛けて、銚子駅へ向かうことになる。移動時間は三時間四十分。特急電車を利用すれば三十分ほど短縮できるが、三十分のために特急料金千三百七十円を追加することを二十二歳の二人は選択しなかった。

 千葉駅で銚子駅行きの総武本線へ乗り換える。千葉駅は千葉県千葉市にある県庁所在地の駅だ。千葉市からの下り電車になるためか、乗客は少ない。

 電車が進むにしたがって、車窓の景色はのどかなものへと移りすぎていった。

 田んぼの景色から、潮の香りの景色へ。

「あの、銚子電鉄に乗るには、どうすればいいですか」

 銚子駅の改札口で駅の職員に玲奈が訊ねる。

「銚子電鉄は、二番線と三番線ホームの先に乗り場があるので、そこから乗ってください。あっ、交通系ICカードは使えませんから、切符を買ってください」

 駅員はめんどうくさそうに答えた。

「切符はどこで買えばいいですか?」

 リコがいつもよりも声を張って訊ねた。

「そこの券売機で買ってください」

 駅員は玲奈に答えたときと同じトーンでリコへ返答した。いつもと違うリコの様子に玲奈は息を止めてリコの顔を凝視した。

「リコどうしたの?さっき、恐かったよ」

 券売機で二人分の乗車券を購入したリコへ玲奈が小声で話しかける。

「うん、なんか、玲奈が馬鹿にされたような気がして、ちょっと、ごめん」

 少しばかりの怒りを表す表情の後に、リコは反省をした表情を見せた。

 リコと玲奈。年齢は同じで、高校からの親友。いつもは玲奈がお姉さんで、リコが妹分なのだが、時々その立場は逆転する。どんな世代にも起こりえるパワーバランスの変化は潮位の変化と同じで、普段は目にすることのできない底を出現させることで、お互いの関心を高めることもある。

「そう。ありがとう」

 玲奈は短い言葉でリコへ礼を言った。その礼が自分の分の乗車券をリコが購入してくれたことへなのか、駅員からの敵意をリコが払しょくしてくれたことへなのかはわからなかった。しかし、リコと玲奈の間では礼の意味は理解されている。そんな二人の関係なのだ。

 犬吠埼へ向かう電車は銚子電気鉄道が運行している銚子電気鉄道線。総路線距離は六・四キロメートルと短い。銚子の街がにぎわっていた昭和の時代にはそこそこの乗客数があったが、平成に入り銚子から東京都近くの街、市川や舞浜などへ人口が流出しだしたあたりから、乗客数は減りだした。リコと玲奈が乗車した電車の乗車率は、平日の昼間ということもあり二十パーセント。栄えた町が時代とともに衰退していく。恐竜がこの地球上を支配していた時代から避けられない現実である。

 リコと玲奈が乗車した電車は二両編成で、外装は薄いブルーと濃いブルーのツートンカラー。海の近くを走る電車としては定番カラーだ。車両と車両をつなぐ連結部分の蛇腹が所々やぶれている。これは、地方の赤字電鉄としても珍しい。東京のおしゃれな街では、古着ファッションが流行っているが、千葉県の東端では古生地蛇腹が流行っているのかもしれない。

「リコ、この電車の広告すごいよ」

 玲奈が電車の中吊り広告を指さす。都心の中吊り広告は、きれいにデザインされて、商品やサービスを魅力的に見せることに工夫がされているが、この銚子電鉄の中吊り広告は、中学生や高校生が美術の時間に制作したポスターのようなデザインだ。

「わたし、こういうの好きなんだよね」

 玲奈が瞳を輝かせながら、車内を見回す。リコも玲奈の視線を追いかけるように車内を見回す。

「あれ?」

 リコが小さく声をあげて、視線の移動を止める。

「どうしたの?」

「あのポスター………、いや、広告、どこかで見たことある」

 リコが玲奈の問いに答える。

「どれ?」

 玲奈が車内に吊り下げられた広告をゆっくりと、なめるように見る。

「あれ」

 ゆっくりと伸ばされたリコの指先から二メートル先に吊り下げられた広告は、千葉県主催で行われた観光キャンペーンコンクールの入賞作品だ。デザインとして犬吠埼の灯台が描かれている。

「この広告?」

 玲奈がいすから立ち上がり、広告の作者へ目を移す。

「犬吠埼小学校二年生。千葉れいな。だって、知っている子?」

「千葉れいな………」

 リコは玲奈の質問に答えるため、記憶をさかのぼった。

「ごめん、知らない」

 リコの答えを聞いた玲奈は「やだー、いつものリコらしいボケ」と言いながら笑った。

「この灯台、お父さんが亡くなった場所の近くの灯台なんだよね。リコは灯台を写真で見て記憶されていただけじゃないの?」

 女性は右脳と左脳で情報伝達を男性に比べると活発に行う。過去の記憶と現在の記憶が瞬時に入れ替わるデジャブ現象がリコの脳内で起っても不思議はない。

「そうかも、ごめん」

 リコが照れ笑いを浮かべる。玲奈もつられて、口角をあげる。ぎこちない振動が冷房の効いた車内にノイズする。


 電車は終点ひとつ前の犬吠の駅に到着する。

#お降りの方は、前方の扉からお降りください#

 女性のアナウンスの声に従うように玲奈とリコが席を立って、前方の扉から降車していった。切符は女性運転手が回収した。

「この電車、おもしろいね。なんか、遊園地のアトラクションに乗っているみたいだった」

 玲奈が興奮したように、銚子電鉄の感想を語りだした。

「駅のアナウンスのキャッチコピー、聴いた?のぼり調子、ほん調子、次はもと銚子でございます。とか、こんな小さな駅なのに、駅舎がイルミネーションで装飾されていたり。ウケるよねー」

「玲奈、地図アプリ開いてみるね」

 観光気分の玲奈の話をさえぎるように、リコは活舌よく次の自分の動作を告知した。浮かれ気分の自分の行動をリコが嫌ったことを察した玲奈は、「あっ、地図そこにあるよ」と言いながら、壁に掛けられた広域地図を指さした。リコは「うん」と言いながら、左手に握ったスマートフォンの液晶画面を数回タップして、グーグルマップを開いた。

「犬吠埼灯台を目的地に設定」

 リコの独り言を吐いた顔の近くに玲奈の体温は感じられなかった。

「リコ。わかった。その道を左へまっすぐ行って、突き当りを左へ行くと十分くらいで灯台につくみたい」

 玲奈の声はリコから数メートル離れた壁に掛けられた広域地図の隣から聞こえた。

「うん、グーグルマップでも同じ案内が出てる。行こう」

 リコはグーグルマップアプリから、経路案内の文字をタップして、音声案内を開始した。

 鼻腔の奥に潮の香りが忍び込んできた。海が近いことを知らせてくる。

「ねえ、なんか、変なにおいしない?」

 玲奈が鼻をクンクンと犬のように鳴らす。

「変なにおい?」

 リコも同じように鼻をクンクンと鳴らす。

「あっ、解った。おばーちゃん家の近くでかいだ臭いと同じだ」

 玲奈が何かを思い出したように、声をあげる。

「あっ、なるほど。家畜のにおいだね」

 銚子は漁港の街だが、畑や田んぼも広がっている。家畜を飼っている酪農家が存在しても不思議はない。

「あっ、あれ!」

「玲奈、今度はなに?」

「灯台。あれが犬吠埼の灯台?」

 玲奈が一つ目のT字路に差し掛かって、声と右腕をあげた。あげられた右腕の先から延びる細いゆびさき。その先端が向けられた先には境界線を作るように空を区分けしている電線が見える。

 電線と、電柱と、道路標識とフェンスで区分けされた台形型の空色の中に、白い突起物がまっすぐに背筋を伸ばして立っている。

「あれが、灯台」

 リコはうなずき、両足のゆびさきに力を入れた。玲奈も後に続いた。緩やかな上り坂をゆっくりと力強く登っていく。左手には水族館と観光ホテルが、右手には太平洋の海面とゴツゴツとした突起物が広がっている。リコは時々右手の方角へ視線を移して、岩が隆起した海岸をにらみつける。自分の父の体が叩きつけられた岩を想像しながら………。

 道が二又に分かれていく。リコと玲奈はグーグルマップの経路案内に従って右手の道を進むことにした。

「この道でいいんだよね?」

「たぶん」

 玲奈の問いかけにリコはあいまいな返事をする。

「リコ、地図アプリはこの道だって言っているの?」

「えっ、地図アプリって?」

 リコの返事にあきれた顔をする玲奈。一つのことに集中すると、他のことが頭に入ってこないのが、リコの特徴である。これでも、高校時代に比べれば、成長した方である。

「いま、リコがスマホで見ているのが、地図アプリです」

「でも、そこに灯台が見えるから、この道だと思う」

「ほら、お城だって、この道を進めば天守閣と見せかけて、実は行き止まりだったってこと、よくあるでしょ」

 戦国武将やお城好きな玲奈が、城の作りに例えて情報入手の大切さを力説した。

「ああ、でも、そこに」

 リコの言い訳を最後まで聞かずに、玲奈はリコの手に握られているスマートフォンの画面をのぞき込んだ。

 目的地まで五十メートルと書かれた文字の下に、直線の矢印が表示されている。二人が選択した道が正しいことが確認できる。

「うん。この道で間違いはないみたいね」

「あっ、あそこに、地図がある」

 玲奈の確認作業の結果報告を聴き終わらないうちに、リコが視界に入った立体的な地図情報を口にする。立体的な地図情報は敷地内に設置された案内板だ。

「水郷筑波国定公園って、いうんだね」

 リコが案内看板にひときわ大きな字で書かれたこの場所の総称を読み上げた。

 灯台は岬の先端に建てられている。公園内の案内看板の中でも、リコのスマートフォンの中でも。地図上には灯台以外にもトイレやレストラン、お土産直売所が表示されている。水郷筑波国定公園という名称なので、公園に必要なものは一通り配置されている。

「あそこに、防犯カメラあるね」

 玲奈が公園の入り口と、お土産直売所入口に設置された防犯カメラの場所を確認した。

「うん、警察の人の話だと、防犯カメラにはお父さんが一人で歩く姿が映されていて、誰かが後を追うような姿は確認できなかったみたい」

「じゃ、お父さんはこの場所に一人で来た?」

「うん、そういうことだと思う」

「でも、ここで待ち合わせをしたとか、考えられない?」

「誰かと?」

「そう、誰かに呼び出されたとか………」

「うん、それは判らない。スマホの履歴とかは警察も調査していないみたいだし」

「えっ、そうなの?なんで、なんで?」

「順番があるんですって。事件性があるかどうかを最初に捜査して、事件性があれば被害者の持ち物や交友関係を調査するとか。今回は防犯カメラの映像は確認したみたいで、お父さんは一人で灯台の方へ向かっていったから、事件ではなく、事故か自殺だろうって。そして、遺書がなかったことから事故だろうって」

「なるほど。警察も大変だものね」

 玲奈はリコの説明を聴きながら、目の前に迫った灯台入口に取り付けられた防犯カメラを見上げた。

 灯台は高さ二メートルほどの白い壁で覆われた敷地に建てられていて、一階建ての建物と二階建ての建物がそれぞれ一つずつ、そして灯台以外には電波塔のようなものが一つ建てられている。白く塗られた観音開きの金属製の門は、片側だけが解放されている。

「中に入る?」

「ん~ん」

 玲奈の問いにリコは首を横に振る。父親がこの灯台内へ入場してはいないことと、入場には料金三百円必要なことが理由だ。

「お父さんは、この道を歩いて行ったみたい」

 リコは灯台の敷地を周回するように作られた遊歩道を時計周りに歩き出した。幅二メートルほどの遊歩道の左側には、大人の胸の高さくらいの位置に、金属製の柵が設置されている。

 五メートル程度の均等な間隔で支柱が植えられて、支柱と支柱の間を金属製のポールが横向きに三本橋を渡すように掛けられている。初期工事はここまでだったのだろうが、柵をくぐらないようにするため、後に補足工事で取り付けられた網目状のネットが、安全性を確保している。

 遊歩道を五十メートルほど歩いてくると、リコが足を止めた。そして、がけの方向を指さした。

「お父さんがなくなった場所は、ここ」

 夏の終わりの風が、リコの耳にボワン、ボワンと、入り込む。リコの発した声よりも、風の音が大きく玲奈の外耳道から耳の奥に入り込む。

「えっ、何?リコ、いまなんて言ったの?」

 玲奈は腹筋を使って、腹の底から大きな声を出した。玲奈の声はリコの耳に届いた。

「お父さんは、このがけから、落ちたの。お父さんが亡くなった場所はここ!」

 リコの声は風の音に負けないくらい大きな声へ変わった。おなかの底から出された声は、なにか邪悪なものへ立ち向かうような大きな声だ。

 今度は玲奈の耳へも届いた。

「ここから落ちたんだ」

 玲奈はリコの指さす方角へ視線を移動させて、小さくつぶやいた後にリコの顔色を確認した。リコの唇は小さく震えていた。夏の終わりの風がリコの唇を震えさせたわけではない。リコの唇が震え、網膜が潤っている理由は、むなしさと、悔しさと、せつなさが、ブレンドされて体内で化学反応が起こり、感情を制御するダムが決壊したからだ。リコの唇の震えは、外的要因ではなく、内的要因から起こった症状なのだ。

「このがけから、落ちたら、たいへんだ」

 玲奈が柵の内側から、がけの方向へ目をやる。柵からがけの渕までは十メートルほどある。柵の中にいて、バランスを崩してがけ下へ落ちることはない。三十メートル下には波をくだくゴツゴツとした岩肌があるのだが死角になって見えない。

「この先から落ちたの?」

 玲奈のつぶやきにリコは「そう、この先から落ちたの」と、答えると、胸の高さほどの柵をポンと飛んで、がけっぷちへ向けて十メートルほどの滑走路をゆっくりと歩いていった。

「リコ、ダメ」

 高校時代から七年間の付き合いがある玲奈は、リコの異様な背中に不吉を感じた。玲奈も柵を飛び越えて、リコの後を小走りに追いかけた。灯台を囲う高さ二メートルほどの塀から離れていくと、風をさえぎる遮へい物がなくなる。筋力の少ない女性がかかとの高いバランスの取りにくい靴を履いていれば、よろけてしまうかもしれない風圧がある。しかし、二人は俳優のレッスンで鍛えた脚力を持っている。靴は歩きやすいスニーカーを履いている。一歩ずつ確実にがけっぷちへ進んでいける。

「リコ、ダメ!」

 玲奈はリコの体を背中から抱きしめた。リコは足を止めて三十メートル下界に見える波打ち際へ目を細めた。がけの渕までは二メートルほどの距離がある。

「おとうさんは、どうしてここまで歩いてきたんだろう」

 リコの唇から玲奈の耳までの距離は十センチメートル。リコがつぶやいた声は玲奈の左耳に確かに届いた。

「玲奈、がけの下、行ってみよう」

 リコの言葉に玲奈は両腕と両足に力を込めた。

「ダメ、リコがここで死んだら、お父さん悲しむよ」

 玲奈の言葉は強い風の中であったが、リコの耳に届いた。

「死ぬ?だれが?えっ、えっ、わたし?死なないよ」

 後ろからハグしている玲奈の腕を、リコはほどきながら振り返る。

「違う、違う。このがけを下から見てみたいの。ほら、あっちに砂浜が見えるでしょ。灯台の入口近くに砂浜へ降りていく道が見えたの、その道を下れば砂浜へたどり着けると思うの。そうしたら、お父さんが落ちたがけの下も見ることができるでしょう」

 リコの返事を聴いた玲奈は「はぁ」と、小さく息を吐いた。

「よかった、なんか今日のリコ殺気立っているっていうか、いつもと比べてどんどん先に進もうとするから、心配しちゃった」

 玲奈の意見を聞いたリコは、小さく口角をあげた。

「玲奈、ありがとう」

 リコの小さな声は玲奈の耳には届かなかった。


 灯台入口近くまで戻ってきたリコと玲奈は、灯台を周回する遊歩道とは別の砂浜へ続くあぜ道を進んだ。高低差三十メートル、曲がりくねったあぜ道は百メートルの距離で三十メートルの高低差をつないだ。

「ここで、キャンプをしていた人が、がけの方向からする物音に反応してリコのお父さんの遺体を発見した。ってこと?」

 たどり着いた砂浜から、がけ下の岩石海岸へ向かうリコの背中へ玲奈が話しかける。

「うん。警察の人の話だと、そういうことになるみたい」

 足場の悪い岩場を一歩ずつ、慎重に進みながらリコが答える。リコの答えを片耳で聴きながら玲奈は後方を振り返る。砂浜には三台の車と三つのテントが見える。

「ねえ、リコ、あそこのテントの中に当日もいた人がいるかもしれないね。あとで、聴いてみる?」

「うん、そうだね」

 リコは玲奈の提案に同調しながら、足を止めた。

「たぶん、このへんだね」

 リコの視線の先には、年数を掛けて形成されて出来た岩石が、いびつな平面を空へ向けている。

「あのがけから、ここへ落ちた」

 玲奈がリコの言葉を聞いて、がけ下からがけの上へ視線をゆっくりとはわせた。

 がけの岩肌は所々植栽がはげている。岩肌がむき出しになっている部分もあるが、壁のほとんどが緑色で覆われている。リコの父親、和明ががけから落下したのが二か月前の六月下旬。きょうのこの景色は、リコの父親が落下した時と、ほとんど変わらないことが想像できる。

「このがけから落ちて、岩に生えている草や樹でバウンドして、この岩盤浴で使うような岩の上に落ちてきた。痛そうだね」

 玲奈が視線をがけの上から、海岸線の岩場へ振り落とした。波打ち際から離れたところに、折れた木の枝が転がっている。リコの父親が落下した時に折れた樹であるかどうかはわからないが、もし、キャンプをしていた人に発見されなければ、リコの父親和明も折れた樹の枝と同じで、誰にも知られずにこの場所に放置されていたかもしれない。

「玲奈、キャンプの人に声かけてみようか。当日のこと、何か知らないか」

 気持ちの整理がついたのか、リコが止めていた足を動かした。

「うん、そうね」

 きびすを返すリコの後を玲奈が追いかける。風は海から砂浜の方へ、がけの上ほど強くはないが吹いている。がけ下から砂浜でキャンプを張るテントまでの距離は、五十メートルほど。あの日風下に位置する砂浜に落下音が届いても不思議はない。

「ここ、砂地の駐車場だね」

 遠くから見たら砂浜に見えていた場所は、床面の固さから駐車場であると玲奈が考察した。砂地の駐車場には、車が三台とテントが三つ張られている。三つのテントの持ち主に二か月前の転落事故の件を知っているかと訊ねたが、三人とその同行者のすべてが知らないと答えた。

「ここ、そんな、事故があった場所なの、恐いね」

 一家族の言葉ががけに生えていたツルのようにリコの首に巻き付けられた。

「人が死んだ場所か。ここへ来るのは、もうやめよう」

 別の家族の言葉が、リコの首に巻き付けられたツルを締め上げた。海から吹く風の水分がツルに吸収されて、リコの肩に重くのしかかる。肩を落とすリコの心境を察知した玲奈が三家族に礼を言って、リコの肩を抱いた。

「行こう」

 帰り道、足取りは重い。理由は、坂道を登っているからだけではない。キャンプをしていた三家族の言葉が、遺族であるリコに重くのしかかったのだ。

「おとうさん、死んだのに、あんな言われ方して、かわいそう」

 坂道を登り切ってリコが小さくつぶやく。

「うん、そうだね」

 玲奈も小さくうなずく。

 夏の終わり、潮風がベタベタと肌と髪にまとわりつく。リコの首に巻かれたツルは玲奈がリコの感情に同調したことにより、ゆっくりとはがれ落ちていった。

「あっ、お花。お花添えるの忘れた」

 リコが何かを思い出したように声をあげる。

「お花ね。そうね。添えた方がいいかもね」

 玲奈とリコは周囲を見回した。公園入口付近にお土産販売場がある。お土産というものは地域の産物を販売する場所だ。千葉県銚子市周辺で栽培された花を販売していても不思議はない。

「そのお店のぞいてみる?」

 玲奈の提案にリコは、首を縦に振った。リコと玲奈はお土産販売所の中へ足を踏み入れた。

店内には千葉県や銚子市のお土産物が多く陳列されていたが、店の一角には産直コーナーと題した、農作物を販売するコーナーも設けられていた。

「あっ、お花、あった!」

 気落ちしているリコを励ます意味も込めて、玲奈が大きな声で明るく花の存在を告げた。花は束になっているものもあるが、一輪ずつ販売されているものもある。

「どれにする?お父さんの好きな花って、あったの?」

玲奈の質問に押し黙るリコ。

「そうだよね。男の人だもんね。好きな花は、無いか」

 玲奈は無言のリコに変わり、適当に花をみつくろう。

「こんな感じでどう?」

 ひまわりを中心に、十輪の花を束ねた玲奈はリコへ感想を求める。

「うん、ありがとう。これでいい」

 リコは玲奈に感謝を告げて、花束を受け取り、会計と書かれた看板の元へ向かった。

「これ、ください。現金で払います。あっ、領収書ください」

 リコは財布を開いて、千円札を二枚取り出した。

「お花、添えられるんですか?」

 レジに金額を打ち込んだ女性スタッフが事務的に質問してきた。

「えっ、あっ、はい」

 リコは動揺しながら答えた。

「多いんですよね、あそこ。自殺」

 女性スタッフは小声で迷惑そうに告げた。

「あっ、済みません」

 リコはなぜか、謝罪の言葉を口にした。

「自殺ではなくて事故です!」

 リコの後ろから玲奈が割って入ってきた。玲奈の声は店中に響き渡るような大きな声だ。店内にいた数人の視線が玲奈へ向けられた。

「早く、お釣りください」

 玲奈は自分で束ねた花束を左手でつかみ取ると、右手で釣銭を要求した。

「あっ、ああ、はい」

 玲奈の威圧にたじろぎながら、店員は釣銭を玲奈の右手へ渡した。

「領収書も!」

 玲奈が追い込みをかける。

「あっ、宛名はどうされます?」

「こっちで書くからいいです」

 リコの面倒を玲奈がみる。高校時代に戻ったような瞬間だった。

 花束と釣銭、領収書をリコへ渡した玲奈は「リコ、行こう」と小さく声をかけて、二人一緒に店を出た。

「あんないい方しなくてもいいのに、感じ悪い店員だったね」

 玲奈が腕組みをしながら怒りを表す。

「玲奈、ありがとう」

 リコは小さく礼を言った。

「でも、わたしたち、芸能系の仕事だから、もう少しおしとやかにしようか」

 リコのたしなめに、玲奈は「そうね。済みません」と、体を小さくした。

 灯台裏側の和明が落ちたがけの上へ戻ってきた二人は、花束をがけ下へ投げ落とした。

 花びらが風に吹かれて、重力に逆らいながら、舞い上がってくる。そのいくつかは天に召される魂のように見える。いくつかの魂をそぎ落とされた花束は、小さな音を立てて岩礁に着地した。

「リコ、これで気持ちは落ち着いた?」

 玲奈がリコの右肩に左手を掛ける。

「うん、玲奈ありがとう」

「あーなんか、おなかすいたね。お昼過ぎてるから、何か食べよう」

 玲奈はリコの右肩に掛けた左手を自分のおなかに移した。キュルルルと小さな音が玲奈の左手は感じた。

「そうね。でも、ここまでくる間に、ご飯屋さんあったっけ?」

「そういえばなかったかも」

「検索してみる?」

「あっ、そうだね。その前にここから少し離れよう」

 玲奈はがけの端から二メートルの距離にいる恐怖から早く逃れたかった。

 二人は、いびつな形状に侵食された岩の上をゆっくりと、灯台が立つ遊歩道へ向けて歩いた。柵を乗り越えて、安全地帯へ身を移した二人は、自分のスマートフォンの検索機能で犬吠埼周辺のレストランを検索した。水郷筑波国定公園から犬吠駅へ向かう途中にはヒットしたお店はなかったが、駅を通り過ぎて五百メートルほど進むと、蕎麦屋がある。

「五百メートルか………」

「ちょっと遠いね」

「どうする、あそこの二階にする?」

 玲奈は花束を購入した土産物店が入る建物の二階を見上げる。二回は軽食・喫茶と書かれた展望レストランだ。

「そうだね、さっきのお土産物屋さんとは、経営別だと思うから、ここにしようか」

 玲奈の提案にリコは賛成した。

「リコはなににする?わたし、オムライス」

「わたしは、食欲ないからサンドウィッチ」

 二人は入口に設置されたメニューボードを横目に、入口の自動ドアに手を近づけた。小さな電子音が響いてガラス製のドアは左右に開かれた。

「いらっしゃいませ」

 入口隣の会計所から先ほどの女性の声がする。リコと玲奈は視線を合わせることなく、左手に見える階段から二階へ上がっていった。階段を登りきると、社員食堂を想像させるような無機質なテーブルと椅子が百席ほど用意されている。

「どこにする?」

 玲奈がリコに訊ねる。

「海の見える席がいいよ。あそこにしよう」

 眺望のいい窓際の四人掛けのテーブルが三席空いている。玲奈はリコの希望するテーブルに異論はないので、「うん」と、うなずいて窓際の席へ向かった。

「わー、いい眺めね」

 玲奈が自分の座る椅子を引きながら、窓の外の景色に目を奪われる。

「うん、そうね」

 リコもつぶやきながら窓の外の灯台を注視する。

「防犯カメラ、無かったよね」

 リコの言葉に玲奈は視線を窓の外の景色から、室内のリコの顔へ移す。

「公園の入り口と、灯台の入口にはあったよ。あと、この建物の入り口にも」

「ん~ん、違う。灯台の反対側。お父さんが落ちた方向」

「ああ、そう言えばなかったかも」

 玲奈はリコの疑問に記憶をさかのぼって答えた。

「お父さんが自殺するとは思えない。事故だとしても、なぜ、ここに来たのかも不思議。きっと誰かに呼び出されたのよ」

「えっ、お父さんは、訪れたことのない県を旅行してたんじゃないの?千葉県も来たことがなかったから、この日本で一番最初に初日の出を観ることができる犬吠埼へ来た。とか?」

「お父さんは千葉県出身」

「えっ、えっ、じゃあ、この犬吠埼が思い出の場所だったとか」

「それは、分からない。でも、お父さんの自殺はない」

 リコはお土産売り場の店員に言われた言葉が、胸に突き刺さっているのだろうか。自殺ではないことを盛んに強調する。

「うん、解った。自殺じゃないよ。事故だよきっと。警察の発表もそうだったんでしょ」

「うん、そうだけど」

 リコは言葉をにごしたが、玲奈にはリコの気持ちが手に取るように分かった。

【柵を超えて、突端までなぜ進んだのか】

 二人の間に数秒間の沈黙が続いた後に、ウエイトレスが「ご注文はお決まりでしょうか?」と、訊ねてきた。

「あっ、私はオムライスで、リコはミックスサンドでいいの?」

 玲奈が慌ててメニューを開きながら、リコに確認をする。

「はい、わたしはミックスサンドで」

 リコは玲奈が開いたメニューを見ながら、品名と金額を確認する。

「お飲み物はいかがしますか?」

 ウエイトレスは手のひらサイズの電子端末を操作しながら、追加注文の確認をする。

「わたしは水で、リコはオレンジジュースだっけ?」

 玲奈が高校時代の感覚で、リコの意思を確認する。

「いえ。わたしはこの梨ジュースで」

 リコはメニューに書かれた【千葉県産梨使用 梨ジュース】の文字を指しながら自分の分の飲み物を注文した。 

「梨ジュースがあるんだ。珍しいね。私もそれにしよう」

 玲奈もリコの欲求に同乗した。

「こういう旅行って、現地のおいしいもの食べるのも、楽しみの一つだよね」

 玲奈がメニューを閉じながら、注文をチェンジした理由を口にする。現地のおいしいものを食べることが楽しみであれば、海鮮丼を注文するべきなのだが、海鮮丼とオムライスでは倍近く値段が違う。相手に対しての気づかいで、メインの食事は安いものにした。しかし、飲み物の梨ジュースとオレンジジュースは、二百円しか違わないので、飲み物は現地のおいしいものにこだわった二人だった。

「玲奈、付き合ってくれてありがとうね。ここは、わたしが払うよ」

「えっ、いいの?ありがとう」

「うん、で、玲奈」

「んっ?なに?」

「明日、空いてる?」

「えっ、えっ、え!なんで?」

「付き合ってほしいの」

「どこへ?」

「青森」

「あ・お・も・り?」

「そう、青森。いいよね」

「ちょ、ちょ、っと、待って。青森って、なんで?」

「お父さんの友達から聞いた話。犬吠埼を訪れる前に、お父さんが訪れたのが、青森なの。お父さんが犬吠埼を訪れた理由は青森にあると思うの。だから、お父さんが訪れた場所を廻って、どうしてお父さんが殺されたのか調べたいの」

「いや、あの、なんでお父さんが死んだ原因が青森にあると思うの?」

「娘としてのわたしの感!」

 高校時代からリコを知る玲奈は、普段はのんびりしたリコがスイッチが入ると何かが憑依したように変貌することを知っている。そしてリコの感がよく当たることも知っている。しかし、今回の考えは突拍子もない。リコは自分の父親が誰かに殺されたと思い込んでいるのだ。

「スケジュールは、なんとか、調整できるけれど、お金が。青森までいくらかかるの?」

「お金は、大丈夫。わたしが払うから」

 リコが右手で小さくガッツポーズを作る。

「本当に大丈夫なの?お金?」

「うん。お父さんの遺産があるから。お父さんだって、自分の死因を娘に知ってほしいと思ってるはず。だから、わたしは青森へ行く。玲奈、昨日言ってたよね。わたしがついているって」

「う、うん。言ったけれど………」

 普段はおとなしいリコが、自己主張を強めているときは、何を言っても聞かない。玲奈はウエイトレスがトレーに載せてきた梨ジュースを横目で見ながら、小さな声でつぶやいた。

「いいよ」

「本当?ありがとう」

 リコの喜ぶ声を聴きながら玲奈は、グラスにささった紙製のストローを右手の親指と人差し指でつまみ上げた。梨の香りがほのかに鼻腔に入り込む。

『青森は、リンゴかな』

 玲奈の後ろ向きな感情を前向きに変えたのは、友情と食欲と、そして好奇心だった。玲奈は青森を訪れたことがなかったのだ。


 お会計。合計金額は、二千四百円。

「リコ、ごちそうさま」

 会計を済ませたリコを玲奈が建物入口前で迎えた。

「どういたしまして。つぎ、行きましょう!」

「えっ、えっ、つぎって?」

「最初にお父さんを発見した看護師さんの所へ行くわ。アポも取ってある」

 リコは思いつめた口調で玲奈へ告げた。

「それって、どこ?」

 玲奈は恐る恐る小さな声で訊ねた。

「佐原という駅の近く。駅から歩いて十分くらいの場所」

 左腕に巻かれた時計へ一度視線を落としてリコが時間を確認する。

「玲奈、今日は空いてるって言ってたよね。オムライスと梨ジュースおいしかったよね」

「はいはい。今日中に帰れるのであれば、お付き合いします」

 玲奈はあきらめたような声で、リコの提案に関して意思表示をする。

「さっ、急ぎましょう。つぎの電車発車まで二十分しかないわ」

 リコが犬吠駅へ向かう道をゆっくりと歩き出す。玲奈は「はいはい」とつぶやいて高校時代よりも頼もしくなったリコの背中を追う。しかし、リコが頼もしくなることは高校時代にも時々あった。それは、学園祭の時や体育祭の時など、普段はのほほ~んとしたキャラクターなのだが、スイッチが入ると一つのことに集中して普段と違う姿を見せる。奇をてらう行動を『計算してるの?』と、見る人もいるが、リコは計算しているわけではなく、その変異はリコにかねそらえられている本能なのだ。

 犬吠駅までは、歩いてきた道を戻るだけなので、迷うことなくたどり着いた。晩夏の午後。日差しは暑さを押し上げるが、自然植物の中を流れてきた風が涼しさを押し上げる。どちらも夏のわき役として、絶好の配役だ。

「佐原って、東京へ戻る途中の駅なんだね」

 玲奈がスマートフォンの乗換案内の画面を見つめながらつぶやく。

「うん?そうなの?」

 リコが玲奈のスマートフォン画面をのぞき込む。

「うん、ほら、銚子駅で成田線っていう電車に乗り換えて、一時間くらい」

「あ、ほんとだー」

 リコが初めて耳にした情報のように感動する。

「えっ、えっ、リコ、知ってたよね?調べてたよね?」

「ん~ん。知らなかった」

 リコはまだ成長途中。玲奈は『けっこう、おごってもらってるから、しょうがないか』と心の中でつぶやきながら、頭をクシャクシャと掻いた。

「リコ、住所は分かってるんだよね?」

「うん、ここ」

 リコは自分のスマートフォンの地図アプリを開いて、この後の目的地がマークされた地図を玲奈へ見せた。

「なるほど、地図アプリの使い方は覚えた。と、いうわけか」

 乗換案内は使いこなせていないけれど、地図アプリの使い方は覚えたと、リコの成長ステイタスを玲奈は考察した。


つづく



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ