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98 夜会は中止?2



「……ん……」



レティシアは白い天井を見上げ、ぼんやりした頭が覚醒するのをゆっくりと待つ。どうやら意識を飛ばしてしまっていたらしく、目覚めたのはベッドの上だった。



「…あれ?」



急いで身体を起こすと、ドレスは脱がされてガウン姿。時間は感謝祭まで後20分、レティシアのお披露目までは一時間ある。

ベッドから飛び降りて、鏡の前に立つ。



「あぁ…よかった!魔法のお陰でメイクは崩れていないわ…ドレスを着て、髪を整える時間くらいならありそう」





──────────





「…驚かせてすまなかった…」



ベッドサイドのソファーに座るアシュリーの全身から、どんよりした感情が滲み出ていた。おそらく、サオリに叱られたのだろう。



「レティシアが側にいてくれるのは親切心であって、私と恋仲になるつもりなどないと分かっている」


「…………」


「…私に対して恋愛感情を持っていないことも、告白が迷惑であるということも…」



何も知らなかった一度目の告白の時とは状況が違う。触れ合える期間には、確実に終わりがやって来るとアシュリーは理解している。



「一度でいい、話をする時間を貰えないか?」


「話…?」


「…今日、夜会を終えたら…」



以前のように『勘違い』と言われて簡単に引き下がりたくないアシュリーは、気持ちを抑え込んで努めて落ち着いた口調で話す。

しかし、レティシアは顔を背け、いい反応を示さない。



「…殿下…」


「私の気持ちや、想いを聞いてくれるだけで構わない」



アシュリーの切実な願いに、レティシアは表情を曇らせた。




    ♢




アシュリーと触れ合える唯一の存在として心の拠り所となり、癒しの時間を共有して一ヶ月。こうなる事態を全く考えなかったわけではない。

ただ、この先嫌悪感を抱くであろう相手を恋人にしようとするのは、あまりにも非現実的で起こり得ないと思っていた。


レティシアは、お互いに情が芽生え、良好な関係を築けている今の状態を壊さず続けたい。いつか完全に同化するまで、このまま維持できれば一番いい。

『話をしたい』と申し出て来たアシュリーは、レティシアの望みとは逆方向へ向かってしまっている。



(話を聞いて、その後は…どうなるの?)



アシュリーの気持ちには応えられない…応えるわけにいかない。

つまり、そうなる先が見えていても、彼には玉砕覚悟で伝えたい想いがあるということ。




    ♢




「…でも…」


「レティシア、私が求めることは隠さず話す…そう約束したのを覚えている?」



アシュリーの心身の健康を保つ上で、問題点を解消するために交わしていた最初の約束。

これは、レティシアを肯かせるための最終手段に違いなかった。



「勿論、覚えております」


「頼む。君に…正しく伝えたいんだ」



レティシアは、頑なに断ることができなくなる。そもそも、彼の求めを拒絶するなど…無理なのかもしれない。



「…分かりました、殿下のお話をお聞きいたします…」


「……ありがとう…」


「パーティーへの参加は短時間でいいと言われていますが、終わったらもう気力が残っていないはずです。今日は難しいかと…」


「そうか…それなら、パーティーの途中で一緒に休憩しよう。控室なら話も食事もできて、いつでもすぐ会場へ戻れる」



(えぇぇ…せめて…今日ぐらいは見逃して貰えないの?)



いい案だと言わんばかりに笑顔をみせるアシュリーは、少しも譲歩しない。

ここまで来れば、尻込みしても先延ばしにしても意味がない話だとレティシアも分かっている。最早諦めるしかなかった。



「合間に休憩ですか?」


「皆、バルコニーや控室などで自由に休憩を取る。パーティーは長時間だから、休めないほうが逆に困るんだ」


「休憩できる場所が、ちゃんと会場内に用意されているんですね。パーティー中は、殿下のご指示に従います。それから、エスコートもよろしくお願いいたします」


「…うん…」



アシュリーは立ち上がってレティシアの長い髪を一房掬い取ると、うれしそうに口付けた。

姿勢、指先の動き、腰を折る角度、表情、所作の全てが美しい。経験不足と言っても、やはり生まれながらにして王子様…レティシアはアシュリーの姿に見惚れる。



「カインやパトリックは、それぞれ伯爵家から参加をすると言っていた。きっとパーティーで会えるだろう。あぁ…会場内では、ゴードンとルークが給仕係に紛れて護衛をしている。私も側にいるから心配はないよ」


「護衛?…私のですか?」


「そうに決まっているだろう」



(パーティーって、そんなに危険なところ?)





──────────





─ コン…コン……ガチャ! ─




「お姉様!」


「レティシア、心配で様子を見に来たわ。大公は、そろそろ戻ったほうがいいのではなくって?国王陛下と王族の皆さま方は、控えの間へ移動されたわよ」


「申し訳ありません、すぐに戻ります」



扉の前に立つサオリは、先程よりも身に着ける装飾品が多くなったせいか、輝きが増して見える。



「レティシア、私が会場を抜けて迎えに行くまで待ってて…また後で」


「…はい…」



アシュリーは、サオリが室内に入るのと入れ替わりに足早に去って行く。



「体調はどう?」


「もう大丈夫です。パーティーの前にご迷惑をおかけして…本当にごめんなさい」


「何を言ってるの、レティシアは悪くないでしょう。無理せず、会場に出る時間を遅らせても構わないのよ?」


「いいえ」


「そう?じゃあ、手を出して。元気を分けてあげるわ」



主催者であるサオリは、感謝祭が始まるギリギリの時間にも拘らず、レティシアを気遣ってわざわざ来てくれた。

笑顔で手を擦って安心させてくれるサオリの優しさに、レティシアは瞳を潤ませる。



「大公も仕方がないわね、お兄様方に嫉妬して…まぁ、焦る気持ちも分からなくはないけれど。ところで、国王陛下やアフィラム様から魔力の香りはしたの?」


「…しませんでした。能力じゃないみたいです…」


「…運命ね…」



サオリはポツリと呟いて、レティシアの手を一度強く握った。



「私は行くわ。身支度は、エメリアに任せておけばいいから。会場で会いましょう!」











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