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83 レティシアという人2



「思ったより…ん…重い処分だったよなぁ」



昼食の時間、宮殿内のアシュリーの私室で大きな窓から外を眺めるカインが、サンドイッチを口に咥えた状態で…喋りながらモゴモゴしている。



「カイン、座って食べろ。落ち着かない」


「俺と一緒じゃ、ランチもつまらないと思ってるくせに」


「全くその通りだが」



チャドクの襲来から10日程が過ぎた。

アルティア王国は、ザハル国との貿易を制限し経済制裁を加える。この王国の行動がきっかけとなり、チャドクへの不満が各国から続々と寄せられ、ザハル国にとって非常に大きな損害となった。


チャドクは、ラスティア国のみならず多くの近隣国で同様の犯罪まがいな行為を繰り返し、魔法石ばかりでなく、宝石や女性までも賭け事の景品のように扱っていたため、見逃さずにいて正解だったのだ。

ザハル国国王もチャドクを庇いきれなかったとみられ、国王クライスとアシュリーの下へ直接謝罪に訪れた。



「チャドクはレティシアを愚弄した。映像をご覧になった聖女様がかなりお怒りで、ザハル国からの謝罪も断固として受け入れなかったと聞いている。私も、ザハル国の者とレティシアを面会させないように…強く言われたよ」


「それじゃ、許さないと言っているも同然だな。聖女様の妹君に、とんだ無礼を働いたもんだ。入国しようとしたら聖女様の結界に八つ裂きにされるだろう。

ザハル国の国王は、鼻つまみ者になった息子の婿入り先を探し始めたらしい。…でも、難航しているってさ」



アルティア王国が聖女の名の下にチャドクを永久入国禁止者リストに加えたため、どの国もこれに倣った。



「大金を背負わせて、遠い国へ飛ばすんだろう」


「それでもどうかってところじゃないか?他国から入国拒否される王子なんて、何の使い道もない。

あの時のレティシアちゃんは、本当にスゴかったな。害虫(チャドク)のことを知っている奴らや、俺の話を聞いた騎士たちも、すっかり見る目が変わったみたいだぞ。…ほら見ろよ、今日も大人気だ」



カインが窓の下を指差すのを見て、アシュリーも覗き込む。




    ♢




『レティシア様、今日はここで食べましょう!』


『私、デザートに“シャペル”のミニケーキを持って来ました!是非レティシア様に食べていただきたいの!』


『私は、美味しいフルーツを!』



宮殿勤めの女性たちは、レティシアを取り囲んでキャアキャアと騒ぎながら昼食(ランチ)タイムを楽しんでいる。


木陰に広げた大きなシートの上に座って笑顔で話すレティシアの姿は、二階の窓からでもよく見えた。




    ♢




レティシアと毎日昼食を共にしていたアシュリーは、近ごろカインかゴードンとばかり過ごしている。

アシュリーとレティシアが一緒ならば安心して昼休みを過ごせていたルークも、今では昼食(ランチ)タイムの護衛に勤しむ。



「…結局、レティシアが来る以前の状態に戻ったか…」


「ほら、あの『ミニケーキ』って言ってる娘が…秘書官補佐の文官をしてる若い男の妹なんだってさ。可愛いよな」


「…ん?どこかの男爵令息にしつこく言い寄られて困っていたという…例の」



宮殿内で働く者たちの色恋沙汰など、正直山程ある。

そのため、行く先々で困っている女性を見かけては、レティシアが相手の男性を諌めて立ち去るという案件が多発していた。アーティファクトの一時的な浄化作用を効果的に活用するレティシアならではの行いで、最早男女の諍いを見ると素通りができなくなってしまったレティシアは『セクハラが多過ぎです』と言って憤慨している。


一週間前、急な腹痛により廊下でうずくまる男性をレティシアが医務室まで運び介抱した。

その男性が若い文官のセオドアで、セオドアの妹ヘイリーが以前レティシアに助けられていたと後々話が繋がったことから交流が始まり…現在、レティシアは飾らない人柄で女性たちに慕われている。


レティシアの人となりを身を以て知ったセオドアは、難しい言語の文書を個人秘書官室へ持ち込んでは何かと頼るようになった。



「レティシアちゃんはさ…分厚い本を抱えてずっと部屋に籠もってたけど、最近は文官たちがよく来てるんだ。…秘書官がどう思っているかは知らないけど」



セオドアを皮切りに、他の文官たちもチラホラ出入りする姿を見かけるようになったとカインが話す。



「文官に上手く仕事をさせれば、結果として秘書官の評価も上がる。秘書官たちはどっしりと秘書官室に座っていればいい。…レティシアの所に皆が殺到しては困る」


「レイがいるから、男たちは表立って寄りつかない。今のところ、強敵(ライバル)は彼女たちだね。すっかりレティシアちゃんを取られちゃったな?」


「…いや…別にいいんだ…」


「え、いいの?俺なら、ヤキモチ焼くなぁ。二人っきりで食事した後は、甘いデザートにレティシアちゃんを…こう……痛いっ!!」



カインはアシュリーに頭を叩かれる。



「私の前で、イヤらしい手つきを二度とするな。カイン、お前…黒コゲになって、さらに八つ裂きだぞ…」


「えぇっ!死ぬじゃん?!ごめんなさい!!」


「……相変わらずの尻軽男っぷりだな。私が女なら、お前にだけは抱かれない」


「抱かれるとか…おかしなこと言うなよ、想像しちゃっただろう」


「……何をだ?」


「…確か…前にあったよな?そんな噂…」


「「…………」」



 

アシュリーは、レティシアとの昼食の時間を一緒に過ごせなくなってしまった。

しかし『友人ができた』と、うれしそうに毎晩話すレティシアを見てしまっては…我慢する他ない。









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