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71 ユティス公爵邸



ユティス公爵邸は、立派な邸…いや城だった。とにかく敷地が広い。


『着いたよ』と、アシュリーがレティシアを膝から座席へと移動させ、門番に名を告げてから…ガタゴトガタゴト…どれくらい馬車に揺られただろうか?

邸内は間違いなく迷路だ!と、レティシアは震えていた。




    ♢




「よく来てくれたね、当主のダグラスだ」



ユティス公爵は、落ち着いた鈍色の短髪にアシュリーより淡い黄金の瞳をした、大柄で細身の優しそうなイケオジ男性。



「お待ちしていましたわ、私は妻のクロエです」



ユティス公爵夫人は、スタイルがよくて背筋のピンとした知的な雰囲気の女性。目元にあるホクロが色っぽい。


公爵夫妻の後ろには、宮殿から姿を消していたルーク、小柄で赤毛の若い侍女が立っていた。



「叔父上、叔母上、紹介いたします。彼女が私の新しい秘書官、レティシアです」


「ユティス公爵閣下、公爵夫人、はじめまして…レティシアと申します」



レティシアが90度に腰を曲げてお辞儀をすると、公爵夫妻はそれを真似たように…ペコリと頭を下げた。



(…あれ…これは?)



おそらく、貴族の振る舞いを知らないレティシアを気遣ってのことだろう…公爵夫妻が合わせてくれているのだ。



「………とても…美しいお嬢さんだね」


「お…恐れ入ります。どうぞよろしくお願いいたします」


「いやぁ、聞いていた以上で驚いたよ。ルークの表現力では…ちょっと?かなり?足りていないな」



後ろを振り向いて、わざとルークに聞こえるように話すユティス公爵。

ルークは器用に目線を外して、目を合わせない。



「毎日が楽しくなりそうだ。…ね?クロエ」


「そうですわね、本当に愛らしいお嬢さんだわ。今でも三日に一度は宮殿に行っていらっしゃるあなたが、毎日通うようになるのではないかと…心配になります」


「お、美人秘書官に会うためにか?ふむ…それもいいな」


「あなた…本当におやめになって。レイにも彼女にも嫌われましてよ?」


「そうか?…おや…レイは、嫌だったのか?」



『レイ』=アシュリーのファーストネームである“レックス”の愛称。

身内からはそう呼ばれていると、レティシアは彼の話す自己紹介のどこかで聞いた気がした。



「叔父上のお陰で大変助かっております。まぁ…週に一度でも大丈夫ですけれどね?」


「おいおい、美人秘書官の前だと…随分と言うなぁ」



和やかな雰囲気で()()感はゼロだった…のだが、侍女から鋭い視線を感じる。睨んでいるのではなく、警戒している。



(異世界人だものね…こればっかりは仕方がない。ご夫妻は穏やかでいい方みたいだわ)



邸での暮らしに多少難はあるだろうと思いつつ…過度な心配が杞憂に終わりホッとしたレティシアは、アシュリーをチラリと見て微笑む。

アシュリーは、レティシアの腰に軽く手を当て、寄り添うようにして微笑み返した。


そんな二人の自然な様子に、ユティス公爵は『ほぅ』と小さく声を漏らす。



「レイ、話はルークから粗方聞いているが…茶でも飲みながら話そうではないか」


「はい、叔父上。…一時間程度なら問題ありません」




    ♢




「さぁ、どうぞ…こちらにおかけになって」



クロエ夫人が、アシュリーとレティシアを席へと案内してくれる。

全員で移動した先は、応接室ではなくガーデンテラス。…というより、植物園の温室といったほうがしっくりとくる場所。お茶を飲んで寛げる広いスペースを設けた、緑溢れる巨大ドーム型施設だ。


ここにたどり着くまでの間、アシュリーはユティス公爵と、レティシアはクロエ夫人と…それぞれ話をしながら歩いていた。

その後を、ルークと侍女が静かについて来るという状態。



(邸内なのか外なのか?分からないわ。全てが規格外…広過ぎて、どこを突っ込めばいいのやら…)



それにしても、鍛錬の賜物というのか…アシュリーはクロエ夫人が近くにいようと辛そうな様子をおくびにも出さない。

これならば、パーティーの参加を決めたのも肯ける。



「レティシア嬢、歩き疲れてはいないか?」



普通に歩いて五分少々。

ズボン姿でスタスタと軽快に歩くレティシアが疲れる距離ではない。レイヴンの魔術があれば、例え一時間歩いても疲労回復は早そう。



「大丈夫ですわ、公爵閣下。お気遣いありがとうございます」


「私は、ここで過ごすのが好きなんだがね…」



レティシアの返事に、ユティス公爵は向かいの席で満足そうにニコニコとしていて…クロエ夫人は、その隣で汗一つかくことなく涼しい顔をしてドレス姿で座っていた。


ユティス公爵は、時折このガーデンテラスに客人を招く。

中には…テラスへ着く前に息が上がって顔色を悪くしたり、疲れてしまって喋らなくなる令嬢たちがいるらしい。



「熱い紅茶を出して、何度嫌な顔をされたことか」


「ふふっ…歩くのは平気ですし、熱い紅茶も大歓迎です。どうぞ、私のことは“レティシア”とお呼びください」



(…令嬢たちは、アイスティーをご所望だったんでしょうね…)



そこからは、超高級紅茶とパイやタルト、サンドイッチなどのボリューミーなお茶菓子をいただく“アフタヌーンティー”を楽しみながら時間を過ごした。







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