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65 翌日2



『レティシア!待ってた!!』


「クオン様…?!」



夕食前の小腹が空く時間、一緒にお茶をしましょうと…サオリに招かれたアシュリーとレティシアは、聖女宮の手前で四本の足で仁王立ちするクオンの待ち伏せにあう。


レティシアはフワフワのトラを抱き上げ、昨夜遅くなってしまったことを詫びながら…サオリの下へと向かった。




    ♢




「わぁっ、素敵な薔薇園…」



昨夜とは違った部屋に案内され、大きな窓の外に見事に咲き誇る大輪の薔薇を見つけたレティシアは、感嘆の声を上げる。



「ふふっ、私は薔薇が大好きなのよ。自慢の薔薇たちを是非ゆっくりご覧になって」


「ここから外に出てもいいんですか?」


「えぇどうぞ。クオン、あなたも行きなさい」


『はい、母上。…レティシア、抱っこして?』




赤や黄色…淡いピンク色などの花と、瑞々しい緑の葉が絡まるようにアーチ状になった薔薇を鑑賞しつつ、レティシアはクオンを抱いて進んで行く。




「…これ…めちゃくちゃ豪華なトンネル。薔薇のいい香りがしますね、クオン様」


『レティシアもいい匂いがするよ…可愛くて柔らかくて…好き』


「………柔らかくて…?」



(それは私の肉質?…肉食獣目線かな?)



「…ありがとうございます…」


『えへへっ』


「クオン様こそ、可愛いです」



クオンはレティシアの胸に顎を乗せ、少し潤んだクリクリの大きな青い瞳でうれしそうに尻尾を揺らして見上げてくる。


長い薔薇のトンネルを抜け、庭園奥の噴水に出たレティシアは、アシュリーやサオリに向かって大きく手を振った。




    ♢




「人化しないと思ったら…全く」



レティシアに抱かれ、ピッタリとくっつくクオンの姿を目にした後…サオリはボソッと呟く。



「クオンは誰に似たのか、おっぱい星人なのよね。レティシアが気に入ったんだわ」




─ ブホッ!! ─




サオリとの会話をスムーズにするため…聴力強化の魔法を発動していたアシュリーが、熱い紅茶を盛大に吹き出す。





──────────

──────────





「殿下はどちらへ?」



クオンを世話係に預け、レティシアが聖女宮へ戻ると…アシュリーがいなくなっていた。



「ラスティア国へ帰るからって、大公は陛下にご挨拶をしに行ったわ。準備が済めば、迎えに来てくれるはずよ」


「え、もう?…じゃあ…サオリさんとは一旦お別れですか…」


「王宮やラスティア国の宮殿には魔法陣があるもの、いつでも来れるじゃない。でも、当分は秘書官業務が忙しくて無理かしら。大変…あまり時間がないわ、急いで採寸をしないと!」


「採寸?」



(…あれ?私の優雅なティータイムは…)



「そうよ、ドレス制作のために必要でしょう?…あっ、費用は気にしないで。その代わり、デザインは私に任せてね」




    ♢




サイズを測っていたサオリが、レティシアの細く引き締まった腰に注目して、ピタリと手を止める。



「……レティシア、あなた…身体を鍛えているの?」


「あ、分かります?私、筋トレをしているんです。少しは効果が出てきたのかな?」


「…え?」


「侯爵家にいた時は暇で、毎日筋トレしていました」


「えぇ?」


「記憶では父親が警察官で、子供のころは空手や剣道を習っていたから…意外と武闘派?」


「意外過ぎ!」



サオリは、アシュリーの筋肉美を褒め称えていたレティシアの様子を思い出し『道理で』と…納得する。



「サオリさんも、筋トレどうですか?」


「私は、夜の営みだけで十分だわ」


「………全身運動ですもんね…」


「冗談よ。…それより、大公にパーティーの話をしていなかったんじゃない?かなり驚いていたわよ」


「…あっ!…忘れてた…」



採寸が終わるタイミングを見計らって、アシュリーがレティシアを迎えに戻って来る。





──────────





サオリとしっかり抱き合って別れの挨拶をしたレティシアだが、サハラには会うことができなかった。



「サハラは、普段…この地を護るために力を使うから、覚醒は頻繁ではないわ」



“神獣”は、聖女宮で眠るように王国を護っている。王宮内にいても、その姿を見る機会は決して多くない。


帝国魔塔の中心人物であるレイヴンにも会えず、昨夜の集まりはもう二度とやって来ない“レアキャラ祭り”であったのだとレティシアは知る。




    ♢




飲まず食わずで聖女宮を後にしたレティシアは、そのままアシュリーに連れられて転移魔法陣のある地下室へと向かった。


地下の入口では甲冑姿の屈強な騎士が門番として立っていて、アシュリーとレティシアの身分確認をする。


魔力なしのレティシアは“魔法掌紋”という、各種セキュリティを通過するには必須の腕輪型の身分証アイテムを手首につけて貰う。これで、いつでも魔法陣を利用することが可能。

魔力のないレティシアでも、魔法使いのガイドが常駐しているので問題はない。しかし『一人では絶対に駄目だ』と、アシュリーにキツく言いつけられる。



「ゴードンたちは、荷物と一緒に先にラスティア国へ行かせた。後は…私とレティシアだけだよ」


「ゴードンさんたち、先に行ってしまったんですね」


「私とでは不服か?」


「…いいえ…」



(…殿下…ご機嫌斜め…?)



「転移魔法陣は人間なら三人まで、理想は二人での利用だが…100%の安全などないからな。身体が真っ二つになっても、見知らぬ僻地へ飛ばされても文句は言えない」


「…へっ!」



(いや、待って?!真っ二つじゃお陀仏でしょう!!)



目を丸くするレティシアの手を、アシュリーは強く握った。



「何があっても…私が守る。だから、離れるな」


「絶対に離れませんっ!」



レティシアは必要以上に?アシュリーにギュッとしがみついて、魔法の詠唱を聞きながらラスティア国へと飛んだ。




ラスティア国側の魔法陣前でアシュリーの到着を待っていたルークは、抱き合って現れた二人を見て苦笑する。


後で聞いた話によると、定員オーバーや転移魔法陣の不具合によって…全く違う場所へ飛ばされた死亡事故の事例がいくつかあるとのこと。


極々稀に起こる出来事らしい。


アシュリーの言葉足らずが原因で…レティシアは、魔法陣を使う度にちょっとドキドキするようになってしまった。








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