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64 翌日



寝ている間に抱き枕と化していたアシュリーは、レティシアの柔らかで無防備な胸の中で目を覚ます。


女性の豊満な胸に顔を押し付けるなど、思春期の男の妄想かと思わせる息苦しい目覚めに…幸せが過ぎて心臓に悪い。


アシュリーは、やっとの思いでベッドを抜け出した。




    ♢




15歳から三年間、アカデミーで学業を共に学んだ友人の中に、恋人との甘い関係を逐一報告して来る者がいた。

女性嫌いで有名な人間に、恋の素晴らしさを伝えるためだと言って…余計なお世話にも程がある。


聞いたところでそれを活かす場がなく、実践のしようがない。半分は聞き流していたが、知識と興味は人並みに増えていった。



あの自慢話にもっと耳を傾けておくべきだったのか?と…そんな雑念を取り払い洗い流すかのように、熱いシャワーを浴びる。


ついさっきまで、レティシアの胸の弾力とぬくもりを感じていた鼻や頬へ手を滑らせた。

パジャマが薄布でなかったことには、感謝しかない。



「…全く、困った人だ…」





──────────





「「「殿下、おはようございます」」」


「皆…すまない、随分と起きるのが遅くなってしまった」



アシュリーが部屋の外へ出ると、そこにはゴードン、チャールズ、マルコが不安気な表情で並んで立っていた。


部屋の外にいても、従者たちは室内の動きにある程度勘が働く。今朝は、いつも早く起きるアシュリーが目覚めた気配を感じられない。

それでも、午前中には何かしら動きがあるはずだと…朝食もそこそこに待ち続け、現在に至る。



「ゴードン、昨夜は特に何も起こらなかったか?」


「はい、問題はありません」



やっと部屋から出て来たアシュリーは、服装も髪もいつも通りきちん整っているのに“心ここにあらず”という様子。



「朝早く、聖女宮より使いがまいりました。『ティータイムにお待ちしている』との言伝でございます」


「そうか」


「…お二方揃って、というお話でしたが…レティシアは?」


「彼女は、まだ寝ている」


「まだ?」



ゴードンたちは、二人が同室で一晩過ごすことも、レティシアが“エルフの加護”に守られている話も知っていた。



「あぁ…言い忘れていたな。レティシアにとって、睡眠は身体と同化するための大事な過程だと分かった。寝ている時は気を配るよう聖女様から言われている。他の者にも伝えておいてくれ」


「…あ、そういう…」



ゴードンは、思わずホッと言葉を漏らした。



「ゴードン、お前には私が黒コゲに見えるのか…?」


「いいえ!」





──────────

──────────





アシュリーとレティシアは“おやつの時間(ティータイム)”に再び聖女宮を訪れた。



聖女宮には、手入れの行き届いた美しい庭園がある。

庭の手前は薔薇園、奥側は季節の花々と噴水やガゼボのある憩いの場となっていて、数多くの品種の薔薇を取り揃え、開花時期を魔法でずらすことにより年間通して色とりどりに咲くよう工夫しているのだという。


その芳醇な香りは、テラスから薔薇園を少し見下ろすようにしてお茶を楽しむサオリのところにまで届く。



サオリはクオンを抱いて庭園を散歩するレティシアを遠目に見ながら、アシュリーの話に耳を傾け…薔薇を贅沢に使ったハーブティーをゆっくりと口にする。

アシュリーはテラス脇のガーデンソファーに座って、サオリとは適度な距離を保っていた。



「…分かったわ。添い寝係という名目はなくてもよさそうね」


「はい、住まいの問題もありますから」


「…それで、昨日はどうだったのかしら?」


「レティシアに髪を撫でられても、刺激がほぼなくなりました」



昨夜、ベッドでレティシアに髪を“ナデナデ”されたアシュリーだったが…魔力の源に響いてくる感覚はあっても痺れはなく、非常に心地よくて安らいだ。



「もうそこまで変わったの?!」


「えぇ、何がどうなっているのかは分かりませんが」



エルフの加護と聖物は相性がいい。神の力を掛け合わせた即効性に驚いたサオリが、珍しく大きな声を上げる。



「悪夢も見ませんでしたし、今日起きた時は…いろいろと…幸せだったといいますか…」


「それは何よりね。レティシアは…まるで、彼女自身が触媒になっているみたい。大公の身体がすんなりと受け入れているもの」



期待感を抱くサオリの黒い瞳が、輝きを増す。

その気力漲る表情は、治療に取り組んでいた昔と変わらず…アシュリーは懐かしく思った。



「ところで、聖女様。金の指輪を持つ私は…(ペア)である銀の指輪の効果を打ち消しているのですか?」



シャラリ…と、チェーンに通して首からぶら下げた指輪を徐ろに取り出し、サオリに見せる。



「あら、そんな質問が飛んでくるってことは、一晩中欲情して大変だったのかしら?」


「…ゴホッ、からかうのは…よしてください…」


「少なくとも、大公はレティシアのパーソナルスペースに入れる男性だと確認できたわ…彼女が心を許しているからよ」


「うれしい話ですね」


「えぇ、あなたたちはこれから毎日触れ合って…一ヶ月後にはどうなっているかしら?パーティーが今から楽しみね!…あぁ、今回は大公も参加するでしょう?…ちょっと、あそこを見て…」



サオリは、クオンを追いかけて走り回るレティシアを指差して『あの子、本当に28歳?』と、クスクス笑っていた。



「………はい?…パーティー?…」








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