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57 神力と聖力



サオリは“鑑定”という固有スキルを使うと、相手の個人データを可視化できる便利で優れた能力を持っていた。



(…何?そのゲームみたいな機能は…)



今のところ、アシュリーの魔力香だけが分かる微妙な能力?を持つレティシアからすれば、大変に羨ましい話。



「じゃあ、見させて貰ってもいい?」


「…はい、お願いします…」




    ♢




レティシアの頭上、20センチ程の空間を…サオリは真剣な面持ちで眺めていた。



「魔力はないけれど、それ以上のものを持っているわ。回復と癒しの恵みまで…流石“10人目のエルフ”ね」


「レイヴンは、この娘が相当大事なんだ。ガチガチに守っているだろう…?」



サハラは、少し面白くなさそうな口調で話す。

彼にとっては、サオリを愛でることのほうがよっぽど重要らしく…黒髪を撫でては掬い取って口付ける。



「レイヴンが世話を焼いて、長年あいつの魔力に慣らされていた身体だが…魂を失った。今度はこの娘を守るために、何やら加護を混ぜた別の魔術を使ったらしい。そのせいで、娘に触れた大公は影響を受けてるようだな」


「影響?」


「あぁ。魔力に変化が感じられた」 


「それって…彼女が髪に触れたせいかしら?」



レイヴンの施した加護や魔術が、レティシアを介してアシュリーに作用したかもしれない。

サオリが難しい顔をしてサハラと話をしている間、口を挟めないレティシアはただジッと待っていた。





──────────





「あなた、もう少しだけ私と彼女に時間をちょうだい」



サオリはサハラを扉に押し込むようにして部屋から追い出し、内鍵をかけると…レティシアと向き合う。その表情は明るい。



「話に出ていた“知り合いの魔術師”って、レイヴンだったのね?」


「はい…そうです」


「ルリちゃんは、彼から“エルフの加護”を与えられているの」


「…エルフの加護…ですか?」



レティシアは、レイヴンが『エルフ』という神に近い種族の血を持ち、高貴な身分であるとサオリから聞かされる。



「レイヴンは人間とのハーフで、唯一無二の存在。エルフ族の長の一人でもあるし、魔術師でもある。もうすぐ、帝国魔塔の主になるのよ。加護は、神力を宿す“神樹”に認められたエルフのみが与えることのできる…要するに、強力なお守りね」



レイヴンが施してくれた魔術は“加護”と同義だったのかと、レティシアは思わずレイヴンの触れた額を撫でた。



「つまり…レイヴン様はエルフで、私を守るために神力を使ってくださったんですね」


「そうよ。今のルリちゃんの身体には、回復や癒しの()()()がタップリ詰まっているってこと」



レティシアの身体は、レイヴンにより二重三重に保護されていた。

万が一、不測の事態が起きて保護が外れ怪我をしたとしても…すぐに回復するレベルであるらしい。



(あれ?…レイヴン様は、私を不死身にしたのかな?)



「それでね、サハラが大公の魔力の流れに変化があったって言うの。ルリちゃんが髪に触れたからよ!すごいわ!」


「えっ!…何か干渉しちゃったってことですか?!」


「ほんのわずかだけど、影響を与えたのよ」


「本当ですか…まさか、()()()が…?!」



『きっとそうね』と、サオリはレティシアを抱き締めて…泣きながら笑った。




    ♢




「隠し金庫?」



室内の壁一面に設置されている書棚。

サオリが棚の一部を大きく横にずらすと、中から重厚な扉が現れる。煌びやかな装飾も取手もないその扉は、黒くどっしりとしていて、見た目はまるで大型の金庫だ。


サオリが指先で軽く触れると、扉の表面に雪の結晶のような美しい紋様がくっきりと浮かび上がる。数回不規則に光った後、扉はゆっくりとスライドして自動で開いた。



「…わあぁ…」


「聖具室よ。さぁ、中へどうぞ」



扉の奥は、クローゼットと小部屋になっていた。

灯りや窓がないのに、壁が発光していて明るい…澄んだ空気がひんやりと感じる摩訶不思議な空間。


サオリ個人の聖具室には、儀式で身に着ける真っ白で輝く衣装や大ぶりな宝飾品などが多く収納されている。


サオリは小物入れの引き出しをいくつか開け、取り出したものをレティシアに差し出す。



「ルリちゃん、あなたにこれを」


「指輪ですか?」


「古い神殿から出てきたアーティファクト…遺物よ」



サオリの手の中にあるのは、青い石のついた銀色の指輪。

知識のないレティシアでも“遺物”と聞いただけで、特別な指輪であると分かる。

受け取っていいものかどうか…その判断がつかない。



「ルリちゃんを邪気から守ってくれるわ。この指輪は、古くから伝わる聖なる石が使われている神聖力の塊。石は、ラピスラズリだと思っているんだけれど」


「ラピスラズリ?」


「そう、和名は“瑠璃”…仏教でいう七宝の一つね。ルリちゃんの名前と、その綺麗な瞳の色と同じよ。これは運命じゃない?」



誕生石にもなっているラピスラズリが、古代より“聖なる石”として崇められていたパワーストーンなのだと…レティシアは初めて知る。



「この神聖なる青い石の指輪は力が強い。私でも聖気のようには手軽に扱えないから、保管していたものなの」


「それを私がいただいて、大丈夫でしょうか?」


「加護持ちのルリちゃんなら心配ないわ。イメージとしては、加護の上に聖力をトッピングする感じかな?」


「ト…トッピング?」


「魔力のないルリちゃんには、これがピッタリだと思う」



レティシアが戸惑っている間に、サオリはレティシアの右手中指に指輪を押し込む。




─ 契約(コントラクト) ─




サオリがレティシアの指を握って呟いた瞬間、青い光がパッと部屋中を眩しく照らす。同時に、レティシアの指に指輪がキュッと嵌まり込んだ。



「わっ…!」


「これで、聖力を纏った状態が維持できるわ。レイヴンの与えた加護や魔術と、似たようなものよ…ふふっ」


 

口をポカンと開けて指輪を眺めるレティシアを、サオリは優しい眼差しで見つめる。

今後はお互いのことを『サオリ』『レティシア』と呼び合う約束をして、レティシアはサオリの部屋を出た。







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