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55 気になること2



「…殿下は何も仰らなくて…知りませんでした…」



サオリから、王族の髪は魔力の象徴で安易に触れてはならないものだと聞いた瞬間、レティシアは頭の中が真っ白になった。

確実に二回…アシュリーの許可なく髪を掴んだり撫でたりしていた記憶がある。



(殿下は、なぜ私に何も言わなかったのかな?)



レティシアは自分の勝手な行動を猛省しながらも、アシュリーに咎められなかった理由をひたすら探した。


最初に髪に触れた時、知らなくても仕方がないと…優しい彼は大目に見てくれたのかもしれない。二度目は、慰めようとするレティシアの好意を汲み取ったと考えられる。



(…あれ?…じゃあ、昨夜は…)




    ♢




「大公が、ルリちゃんに頼んだの?」


「頭を撫でて…癒して欲しいご様子でした」


「癒し?…魔力量の多い大公の髪は敏感なのに、なぜそんなお願いをしたのかしら…」



髪と魔力の源との繋がりは深い。治療のために治癒師が髪に触れても、強い刺激と全身倦怠感を伴う。

レティシアは魔力がないため大きな影響を与えるとは考えにくい、かといって…ゼロという確信もサオリにはなかった。



「…前に一度殿下の頭を撫でたことがあったので、そのせいだと思うんです…」


「え?二度目だったの?!」


「…髪に触れたのは、三度目です…」


「……あらあら?…もう二人は付き合ってる?」


「違います」



サオリの冷やかしを真顔でバッサリと否定するレティシアはさておき、アシュリーは明らかに今までと違う姿をレティシアだけに見せている。



「どうやら、刺激を感じたわけではなさそうで…安心したわ」


「刺激ですか?…昨夜の殿下は、私には気持ちよさそうに見えました」


「それなら、きっと癒しを得たんでしょう。ルリちゃんのことを相当気に入っているのね」



サオリは、甘い恋の予感を感じ取っていた。





──────────





「…魔力香?」


「えぇ、感情によって変化するのは魔力の香り。髪から一番強く匂うのなら間違いないわ。感情の昂りに合わせて魔力が増幅して、香りも濃くなる」


「魔力に香りがあるなんて…やっと謎が解けました」


「魔力香を嗅ぎ分ける能力は存在するけれど、本当に極稀よ。それも、うっすら匂いが分かる程度だと聞いたような…」


「もしその能力だとしたら、私だけが殿下の香りに気付いた説明もつきますし、今後新たに香りを持った人と出会う可能性だってありますよね」


「ここは魔法の国だもの…でも、大公の従者の中にも魔力持ちがいるでしょう?」


「あ…」



言われてみれば…ゲートを通過した時、倒れていたのはルークだけ。つまり、他の従者たちは魔力持ちだ。

魔力のないルークを除いた従者sから、香りはしない。



「ん…?」


「例えば、強い魔力の香りしか感知できないとか?」


「あぁ…」



強い魔力といえば大魔術師レイヴン。しかし、従者sと同様に彼からも香りを感じた記憶はなかった。

レティシアは頭が混乱して来る。



「んんっ…?」


「…この世界の魔力や魔法って意味不明よね。ちゃんと確かめたいなら、大公と似た魔力を持つ王族の方々に会ってみるといいのかもしれない。そこで香りがしなければ、ルリちゃんには大公の魔力香だけが分かるということになるわ」


「殿下()()…ですか?…えぇ…」


「ふふっ、そういう香りもあるのよ」



サハラの香りは、彼が運命の相手だとサオリに知らせるものだった。今でもほのかに匂う魅惑の香りだ。



「そうだわ、一ヶ月後に王国で大きなパーティーを開くの。私が主催する聖なる集まり“感謝祭”よ。そこで、ルリちゃんを異世界から来た私の妹としてお披露目するのはどう?」


「ちょっ…ちょっと待ってください、パーティーにお披露目?」


「公にすれば姉としてあなたを守ってあげられるし、感謝祭に参加する王族の方々にもご挨拶ができる。一石二鳥では?」


「異世界人であっても、それを公表したいとは考えていなくて…そもそも、私はパーティーの場に相応しくありません」



この世界でパーティーといえば当然ドレス着用。レティシアは礼儀作法を知らず、ドレスだって着こなせない。

ルブラン王国で国王に会った時の苦い経験が、嫌な予感となって蘇る。



「私は、殿下の秘書官として生きていければ十分だと思っています。サオリさんが、私のことを妹みたいだと思ってくださるだけでうれしいです」


「この王国で暮らすなら、私と同じ異世界人という立場を明確に周りに示すほうが利点が多いと思わない?」


「…でも…」


「聖女を後ろ盾を持つ意味は大きいわ。貴族を牽制して身を守るためにも有効だし、異世界人だと認識されれば、貴族令嬢みたいな振る舞いをわざわざする必要もないのよ」


「…それは…いいかも…」


「決まりね、そうしましょう!」


「…う…うぅん…」


「ルリちゃんのパーティードレスは私に任せてね。私、元々ドレスを作りたくて…その究極が、ウェディングドレスだったの!」



美しいウェデングドレスに憧れてブライダル業界に足を踏み入れたサオリは、自分の会社を立ち上げ、ウェデングプランからドレスのデザインまで…結婚式のトータルプロデュースを行うプランナーに行き着いた。



「だから、動きにくくて扱い辛いものなんて作らない。ルリちゃんにピッタリな美しいドレスをご用意するわ!」


「…た…楽しみですぅ…」



サオリはレティシアのお披露目にかなり乗り気で、目が活き活きと輝いている。こうなっては断れない。








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