表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/211

49 聖女



二人が部屋へ戻ると、ゴードンが夕食の準備を始めていた。


アシュリーの機嫌は、すっかりよくなっている。

従者たちは胸を撫で下ろし、鶏を焼いた香ばしい香りと、煮込まれたシチューの食欲をそそる匂いに鼻をひくつかせるレティシアを…笑顔で迎え入れた。




「殿下、食事の後に聖女様とお会いする予定となっております。サハラ様もご同席されるそうです」


「サハラ様が…?」



ゴードンの話を聞いたアシュリーは、首を傾げる。

神獣サハラは花嫁である聖女にしか興味がなく、聖女以外の女性との接触を好まない。自ら進んで人に会う機会も少なかった。



「クオン様はレティシアに懐いておりますし、多分…異世界人であるという話が、お耳に入ったのでしょう」


「なるほど、分かった」




その後、皆揃って食事をする。

王宮でのアシュリーは、従者にも自分と同じ料理を振る舞う。給仕係をつけないため品数は多くないものの、豪華で美味しい。

こうして気取らず賑やかに食事ができることを、レティシアは密かに喜んでいた。




    ♢




「え?…あれ?…待ってください…」



先程クオンを送り届けた…見覚えある宮殿の入口を通過しようとするアシュリーの背中に、レティシアは思わず声をかける。



「もしかして…聖女様は、クオン様とは別のところにいらっしゃいます?」


「あぁ、今から向かうのはもう少し奥にある“聖女宮”だ。サハラ様と聖女様のお住まいになる。クオン様とは…住み分けといった感じになるだろうか」



(聖女様と会うなら、クオン様にも会えると…単純にそう思っていたわ)



親子で別々の宮殿に住んでいるとは、凡人レティシアは考えもしなかった。後ろ髪を引かれる思いでクオンの宮殿を通り過ぎ、アシュリーについていく。






ポーン!





「…っ…キャーッ!!」


「レティシア?!…っ…クオン様っ!」



アシュリーが振り向くと、レティシアの後頭部にクオンがしがみついていた。



『レティシア!!待ってた!!』


「…クオン様?!……ぬぉっ…く…首が…」

 


アシュリーは、よろめくレティシアをしっかりと支えて胸に抱き、フワフワの虎を後頭部から引き剥がす。



「ク…クオン様ったら、びっくりさせないでくださいよ」


『レティシア!レティシア!』



ビー玉のような青い目をキラキラさせたクオンが、レティシアの名を呼ぶ。アシュリーに捕えられながら、前足をバタつかせてレティシアの胸に必死にしがみつこうとする。



(ずっと待っていてくれたの?…甘えん坊のトラちゃん)



レティシアがクオンを抱き、頭をヨシヨシと撫でると…気持ちよさそうに喉を鳴らす。

そこへ、世話係が走って来た。



「クオン様は、また逃げ出したのか?」


「申し訳ございません、大公殿下。クオン様が突然こちらへ向かって…あぁ、秘書官様のところでしたか」


「これは、離れないおつもりだろうな」



しっかりとレティシアに爪を引っ掛け、掴んで離さないクオン。ジロリと…アシュリーと世話係を見ている。



「私たちは聖女様の下へ急いでいる。仕方がない、このままクオン様は預かろう」


「承知いたしました。何かあればお呼びください」





──────────





「サハラ様、聖女様、レックス・アシュリー・ルデイア大公殿下と秘書官レティシア様がお見えでございます」


「あぁ、やっと来たのね!待っていたわ、入っていただいて」



聖女と思われる明るい女性の声がした後、部屋の扉がゆっくりと開いていく。室内へ足を踏み入れたアシュリーとレティシアは、一度深く頭を下げた。




    ♢




調度品がキラキラしていて、光っていない物を探し出すのが難しい。全体が金色に輝く黄金の間。


その部屋の中心に置かれた巨大なソファーには、肩までの真っ白な髪に青い瞳、白磁のように滑らかな肌をした美しい男性が座っていた。上半身裸で、腰に布を巻いただけの色気ムンムンのその男性は、黒髪黒眼の美女の腰をガッチリと抱え込んでいる。


男性は神獣サハラ、女性は聖女。まるで、ヨーロッパの有名な絵画を見ているのかと思うくらい…絵になる二人だった。



(うわぁっ…サハラ様って、神話に出てくる神様みたい!聖女様は…日本人かも?!)



「サハラ様、聖女様、お久しぶりでございます」


「あぁ、久しぶりだな」


「大公、ご機嫌よう…あら、クオン?」



クオンは、レティシアの腕から飛び降りると、サハラと聖女の側へ一目散。両親である二人に抱き締められ、キスをされたり撫でられたりしている。



『父上、母上、あの子がレティシアだよ!母上と同じで僕と話せるし、可愛いんだ』


「…そなたが、異世界人という娘か…?」



サハラの青い瞳がレティシアを捉え、透明感のある声が耳に響いた。



「初めてお目にかかります。レティシアと申します」


「よく来てくださいました。レティシア…お名前も外見も、この世界の女性に見えるわ。私とは違うみたいね」


「私は、理由(わけ)あって“前世の記憶”だけを持って生きております」


「…前世?」


「はい。中身は日本人なのです、聖女様」


「まぁっ!私……ちょっと、あなたっ!」



ソファーから立ち上がろうとする聖女の細い腰を抱えて離さないサハラは、腕をつねり上げられ…黒い瞳に睨まれている。

不満気な顔をするサハラの腕を無理やり解くと、聖女はレティシアの側までやって来て潤んだ瞳で手を握った。



「私も日本人よ、同じ異世界人に会えて…しかも日本人だなんて!うれしいわ!!」


「ほ…本当ですか?!私もうれしいです!」



(ヤッターーーッ!!)



「大公、彼女…少しの間お借りしてもよくって?」


「えぇ。レティシアをよろしくお願いします」



アシュリーは、瑠璃色の瞳をキラキラさせ…興奮した様子のレティシアを見て、眩しそうに目を細めた。



「あら?…大公がそんな顔をするだなんて。あなた、私がいない間よろしくね。クオン、いい子にして待っているのよ?」


「…………」


『はい、母上!』



サハラとクオンにしっかりと言い聞かせ、聖女はレティシアを連れて黄金の間を出る。

クオンは、聖女の手編み毛布が入ったお気に入りの“カゴ”の中にすっぽりと収まり、丸まってすぐに寝息を立てた。



「…レイヴンを呼べ…」



側付きの者に静かにそう命令したサハラは、アシュリーをジッと眺めて『どこか変わったな』と呟く。









※ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。


まだまだ新しくお話の続きを書かなければ…という中で、書き終えたお話の手直し→投稿…に、一人アタフタしております。

明日までは、随時投稿したいと思います。


その後はペースダウンしてしまうと思いますが、まだ現在書いている最中のお話をゆっくりと投稿してまいります。(滞らないよう極力頑張ります)


どうぞ宜しくお願いいたします。


           ─ miy ─



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ