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46 神獣



アルティア王国の護り神“神獣サハラ”は、白い虎の神姿をしている。そのサハラの花嫁として、異世界より召喚されたのが聖女。

クオンは、二人の間に生まれた子供だった。


神獣は人化することができる。

日ごろ、サハラは人化した状態で生活をしているが、クオンはまだ幼獣の姿でいる時間のほうが長い。



今日は両親が揃って出掛けていたため、退屈だったクオンは世話係の目を盗んで自分の宮殿から脱走し、偶然レティシアに出会った。




『レティシア、起きた?』


「はい…申し訳ありません。どうして寝ちゃったんでしょう?クオン様がフワフワで温かいから?」


『レティシア…抱っこ…』



首元から背中へかけて優しく毛並みを撫でられたクオンは、透き通った薄いブルーの大きな瞳でレティシアを見上げ、甘えた声で抱擁を強請る。

レティシアの胸に抱き締められると、喉を鳴らし擦り寄った。



「ふふっ…これでいいですか?」


『…うん…』



(…もう…めちゃくちゃ可愛い、トラちゃん!)




    ♢




「レティシアは、クオン様と会話をしているな」


「…そうなんですよ…」



人化すれば言葉を話せるクオンだが、獣化している今…その声は、小さな鳴き声にしか聞こえない。



「今のお姿でも、言葉を交わせるとは」


「やはり、聖女様と同じ能力を持っていますね。あの通り、クオン様が離れなくて。困ったマルコが、世話係を呼びに行きました」


「気難しいクオン様が…心を許されたか」



クオンと楽しそうに戯れるレティシアは、さっきまで強張っていた顔が嘘のように明るい。アシュリーはホッと胸を撫で下ろす。

とはいえ…クオンに夢中になり、煌びやかな衣装を身に纏ったアシュリーですら視界に入っていない状況は少々歯がゆい。




    ♢




「レティシア」


「…っ…殿下っ?!」



突然名を呼ばれて驚いたレティシアは、アシュリーと目が合った瞬間、パァッと花開くように愛くるしい笑顔を見せる。

帰りを待っていたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべて走り寄って来られては、もう堪らない。



「お帰りなさいませ!」


「…んっ…た…ただいま…」


「一体いつの間に?」


「君が寝ている時に戻って来た」


「ヒェッ!…すいません…」


「疲れていたんだろう、休めと言ったのは私だからな。

それはそうと、陛下から聖女様とお会いする許可をいただいた。外出先から戻られたら、私と一緒に訪ねてみよう」


「本当ですか?!…ありがとうございます!!!!」



レティシアがクオンを抱えたまま飛び上がって歓喜していると、ゴードンとマルコが世話係を引き連れて戻って来た。





──────────





「大公殿下へご挨拶を申し上げます。私は、クオン様のお世話を仰せつかりました養育係のミゲルでございます。この度は、許可なく庭園に立ち入り大変お騒がせをいたしました、心より深くお詫び申し上げます」


「クオン様は活発なお年頃、ミゲル殿も大変でしょうが目を離さないことです。お気をつけください」



クオンの養育係ミゲルは、元神官で温厚な人柄。

成人した孫もいる年齢だというのに、頼られれば断れない性格故に…引退が毎年延長され続けている。



「はい、大公殿下の仰る通り…世話係には……」



扉付近で頭を下げていたミゲルと後ろに控える世話係たちの視線は、クオンを抱いて微笑むレティシアに集中していた。



「………女神?」


「ミゲル殿、どうされました?」


「…っ…申し訳ありません。お前たち、早うクオン様を…」


「はい!失礼いたします。…クオン様、こちらへ…キャッ!」



世話係の女性が慌ててレティシアからクオンを預かろうとするが、勢いよく振り回された尻尾にピシャリと手を叩かれてしまう。



「…殿下…」


「ゴードン、マルコと一緒だったのか?」


「はい。クオン様を総出で探していた現場に遭遇いたしましたので、私も少しお手伝いを。そこへ、マルコがやって来ました」


「私が連れて行こうとしても、クオン様が嫌がりまして。世話係に知らせるのが一番だと思ったんですよ」


「しかし、誰が来ても結果は同じに見える」



三人いた世話係たちは、クオンの尻尾にビシビシと叩かれ…誰も近付けない。



「ミゲル殿、クオン様は普段からあの様に?」


「いいえ、いつもより気が荒ぶっておられます。皆様にこれ程のご迷惑をおかけしてしまっては、私もいよいよ引退でしょうか。…ところで…大公殿下、あちらの女性は一体?」


「私の新しい秘書官だ」


「…秘書官様…ですか?また随分とお若い女性を…」


「彼女は渡しませんよ」


「ほっほっ…急に何を仰います、私は別に……くぅっっ」



ミゲルはアシュリーに容赦なく釘を刺され、意気消沈する。

結局、レティシアの胸に張り付いて離れないクオンを抱いたまま宮殿まで送り届けるしか方法がなく、アシュリーが同行した。




    ♢




「今夜は聖女様とお約束があるので、またお会いできるといいですね、クオン様」


『レティシア、明日も会える?』


「私は、大公殿下と行動を共にしております。ですから、お約束はできませんわ」


『レティシアは大公のモノなの?』


「大公殿下は、従者をモノ扱いなさいませんよ。私は、とても立派なご主人様にお仕えしているのです」


『…………』



クオンが何を言っているのか分からなくても、話の内容は大体想像がつく。アシュリーは、クオンからの鋭い視線をさり気なくやり過ごした。





──────────





「クオン様に懐かれてしまったな」


「私とは言葉が通じますから。まさか神様が虎のお姿だったなんて…クオン様は、ちょっとワガママなところも可愛いです」


「…ハハッ…ちょっと我儘か…」



元いた部屋へと戻るため、ピカピカな大理石の長い廊下を二人で話しながら歩いていると…紫色の長いローブを身に纏った大勢の人が、反対側から団体で押し寄せて来る。



「レティシア、少し端に寄ろう。帝国魔塔の連中だ」


「えぇ」



アシュリーに促され、レティシアは廊下の端で足を止め…行列が流れていくのをやり過ごす。



(魔塔の魔術師や魔法使いね。帝国の人たちが何の集会?)










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