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45 アルティア王国2



「国王陛下、お目にかかれて光栄にございます。レックス・アシュリー・ルデイア、ただ今無事に帰国いたしました」


「うむ。出立の際は知らせだけであったが…顔を見れて私もうれしく思うぞ。随分と久しぶりではないか?」


「…はい、大変申し訳ございません…」



厳かな雰囲気の謁見室、高台の玉座に座る国王クライスは、にこやかにアシュリーを迎える。

ラスティア国の大公になって以降、アシュリーはアルティア王国の王宮へ足を踏み入れてはいなかった。



「今回、私はラスティア国の者として初めて国外へ出ましたので…帰国のご挨拶とご報告にまいりました」



ゴードンは、報告書類一式を国王の側付き事務官へと手渡す。ルブラン王国よりも前に訪れた国の分も含め、二週間分の書類となる。



「ゆっくりと旅の報告を聞こう。別室を用意する」



国王は黄金の瞳を光らせ…ニヤッと笑う。

どうやら、レティシアを伴って帰国したという第一報が耳に届いているようだ。





──────────





「レイが不在の間は、叔父上が張り切っていたぞ」


「あの方は、まだ隠居なさるおつもりはありませんからね。お陰で私は自由にさせていただいております」



室内には国王クライスとアシュリーの二人きり。兄は弟を愛称で呼び、気兼ねなく話す。



「女性を連れ帰ったそうだな?」


「…やはり…ご存知でしたか…」


「入国担当者が血相を変えて飛び込んで来た、美人秘書官が結婚相手では?!とな。同行するかと思って楽しみにしていたのだが、なぜ私に会わせない?」


「彼女は、貴族や身分の高い者との接触を好まないのです」


「ん?…それはつまり、平民ということか?」


「…一体、何からお話をすればいいでしょう…」




    ♢


 


「…期間…限定…?」



話を聞いた国王は、残念そうにガックリと肩を落とした。



「同じ馬車に女性を乗せていたと聞いて、勝手に浮足立ってしまった。今ごろ、知らせを受けた父上たちが騒いでいるかもしれん。大事になる前に、私から一言伝えておこう」


「すみません…私も、レティシアを見つけた時は同じような感じでした。彼女が抱える事情を何も知らなかったもので…」


「…そうか…そうだよな、私たちよりもお前が一番…」



弟に気遣いを見せる心優しい国王に、アシュリーは申し訳なさそうな表情を向ける。



「ずっと女性を避けて生きるしかなかった私が、初めて興味を持ったのがレティシアなんです。彼女と触れ合い、会話をして…女性について考えたり知ろうとするだけでも、今の私には十分刺激になっています」


「確かに、大きな変化だな。そのレティシアという女性を側に置きたいのか?」


「はい。主従関係ではありますが、レティシアは特別で…私にとって大切な人です。この世界に慣れるまで、私なりに手助けをしながら彼女を守っていきたいと考えています。できれば、ラスティア国でずっと暮らして欲しい…そう強く望んでおります」


「ほぅ、彼女の幸せ優先ではあるようだが…さては、もうしっかり囲っているな?…ふむ…状況次第では“異世界人”として丁重に扱うことも、我が王国ならば可能だろう。もしかすると、聖女様と同じ世界の者かもしれんからな」



国王がレティシアの存在を認めれば、身分に関係なく最上級の待遇を受けることができる。王国領内での暮らしやすさは、他国の比ではない。



「陛下のお心遣いに、感謝申し上げます」


「彼女も、レティシアという殻に籠もるより“異世界人”として好きに生きるほうが楽ではないのか?」


「…それは…私の口からは何とも…」



普通は、より優遇されるほうへと気持ちが流れていくものだが…レティシアの価値観はアシュリーにもはっきりとは読み取れない。



「先ずは、彼女を聖女様に引き合わせたいのですが」


「確か、今朝から東の結界を張り直しに出掛けると聞いたな…もう夕刻だ、間もなく戻っていらっしゃるだろう」



アシュリーは“聖女様との面会許可”を手に入れ、レティシアの待つ部屋へと急いで戻った。





──────────





「何だ?…この可愛らしい生き物は?」



窓際に置かれたソファーに寝転がり、丸まってスヤスヤと眠るレティシアの無防備な姿に…アシュリーの心の声が漏れ出た。


胸に真っ白なぬいぐるみを抱きかかえ、フワフワした毛に顔を埋めている。その幼い寝顔は天使のよう。『急いで帰って来たのに』と文句を言いながら、眠るレティシアの髪に触れるアシュリーの口元は緩んでいた。



「殿下、お帰りなさいませ」


「あ、あぁ…今戻った。チャールズ、レティシアはどうしてこうなったんだ?」


「それが…庭で突然クオン様が飛び出して来られて…」



“クオン様”と聞いたアシュリーが、レティシアの胸に抱かれている真っ白なぬいぐるみに視線を移す。

ぬいぐるみの正体は“神獣クオン”、白い虎の姿をしている。




    ♢




「あっ、クオン様!」




─ ぺシッ!ぺシッ! ─




ムクリと起き上がった神獣クオンは、レティシアの髪を撫でていたアシュリーの手を『邪魔だ』と言わんばかりに…白い前足で何度も叩く。



アシュリーとチャールズは、王国の護り神である神獣を前に跪く。

クオンは二人をチラリと見ただけでプイッとそっぽを向き、レティシアの頬を前足でプニプニと押し始めた。


レティシアにしか興味がない様子に、アシュリーとチャールズは顔を見合わせ…ソファーからそっと離れる。



「…ぅん…くすぐったい……や……ん?」



ようやく目を覚まし、ノロノロと身体を起こしたレティシアの膝の上へ、間髪を入れずクオンが乗っかった。



「あれ…私寝てた?」








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