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31 忠犬2



「お姉さんか…ゴードンよりも年上なら、もう敬語はやめて好きに話したらどうだ?」


「それは問題があるでしょう?…でも、あなたとこうして気楽に話すのは別に構わないわよね」


「まぁ…()()()は俺と同じ17歳だ、おかしくはない」



“見た目”という部分を妙に強調された気がしたレティシアは、ジロリとルークを睨んだ。

ルークは右のこめかみにある古傷を指でなぞりながら、いたずらっぽい笑みを浮かべている。



(…ムムッ…!)



「…お話は終わり?」


「誠心誠意、アッシュ様にお仕えする心積もりはあるようだな」


「では…戻っていいかしら?」



腰を上げたレティシアの手を、ルークが掴む。



「お前を、何て呼べばいい?」


「レティシアでいいわ」


「ふぅん…“レティ”じゃなくて…?」


「それは、ジュリオン様が……元・兄が使う愛称を、どうしてあなたが知っているの?」



レティシアの手を離したルークは、何か物言いたげな表情で椅子の背もたれに寄りかかって両腕を組んだ。



「…その兄ってのは、商店の前で絡んでいた男だよな?」


「商店の前…?」


「馬車から見えてた。男に飛びつかれて…目立ってたぞ」


「…っ…?!」



(嘘!アレを見てたの?…待って、伯爵様にも見られた?!)



「元・兄とは、どういう関係だ?」


「…ど…どうって…」


「例えば、禁断の恋の相手とか?」


「禁断?まさか…変に勘繰った言い方はやめて。ジュリオン様は、妹のレティシアに深い愛情を注いできたお兄さんよ。過度なスキンシップも、妹を溺愛し過ぎているせいで…私は今その妹の姿なの、無下にはできない。侯爵家にいたころは、不本意ながら…いつもああいった感じに…」


「つまり、一方的に追い回されている」


「ジュリオン様は、私が除籍して平民になるのを強く反対していたから…縁が切れても、彼は妹を放っておけないのよ。まだ、気持ちの整理がついていないんだと思う」


「…妹を…二度失ったようなものか…」


「今の私が妹ではないと分かっているはずなのに“レティシア”を守ろうと躍起になっているわ。ジュリオン様は周りが見えていなくて、自分が空回りしていることに気付かない。この状況を早く終わらせないと…だから、先日お別れを申し上げたところよ」


「…お別れね…」



ルークは、ジュリオンの熱く甘い眼差しを思い出す。あれはどう見ても、妹を守ろうとする兄の目ではなかった。簡単に諦めるとは思えない。



「レティシアお姉さんは、かなり鈍感な……」




─ ルーク ─




突如、ルークの耳に自分の名を呼ぶ主人の声が響く。

ルークの身体が急にブルリと大きく震えたように見えて、レティシアはハッとする。



「ちょっと、どうしたの?」


「…アッシュ様が…」


「え?…伯爵様?」



(どこ?…どこに?)



ブルーグレーの瞳が、広いロビーの奥にある大階段の中程に立ったアシュリーの姿を素早く捉える。


レティシアはというと、自分が座っている周りをキョロキョロと見回していて、ルークが指し示す親指大サイズのアシュリーに気付くのがかなり遅れてしまう。



「…あっ、あんな遠くに…」





──────────





「レティシア、おはよう」  


「おはようございます、伯爵様」


「…ルークがまた迷惑を?」


「いいえ、これからは同僚になりますので……親睦を深めていただけですよ。お陰で仲良くなれました」


「…それならよかった…ルーク、下がっていいぞ」


「はい、アッシュ様。失礼いたします」



足早に立ち去って行くルークの後ろ姿を、アシュリーは少し長めに見送っていた。



「朝食を一緒にどうかと思って…レティシアを探していた。個室を用意したから、気兼ねなく食べれるはずだ」


「是非ご一緒させてください。そうだ…伯爵様、お洋服をたくさん用意していただきまして、ありがとうございました」



アシュリーは軽く頷くと、ニコニコするレティシアから少しだけ視線を逸らす。



「服選びはここの係の者に頼んだのだが、よく似合っている。髪は自分で?」 


「えぇ、そうです」


「器用なんだな…結んでいるのも可愛い。今日、出掛けるついでに髪留めを一緒に買いに行こうか」


「…ありがとうございます…」



レティシアは、サイドの髪をまとめてハーフアップにして紐でくくっていた。前世では自分で手早くやっていたことを褒められ、少々擽ったい気持ちがする。



(…伯爵様は、本当にいい方だわ…)




    ♢




案内された個室のテーブルに、これでもか!というくらいに並べられている皿の数を見て、レティシアは仰天した。



「こんなに?これ、二人分の朝食ですかっ?!」


「いい部屋に宿泊していると、大抵こんな感じかな…ハハッ」



目が点になっている様子がおかしかったのか、アシュリーが笑う。

実は、二人きりでの食事を楽しもうと…食事の世話をする給仕係の出入りをアシュリーが断った結果、順序よく出されるはずの料理が全てテーブル上へ並んでしまっていたのだ。

どの皿にも魔法がかかっていて、メイン料理やスープは温かく、デザートは冷たい。



「んっ、とっても美味しいです!」


「たくさん食べるといい」



最初こそ量に驚いていたレティシアだったが、手際よく肉を切り分けパスタをフォークで上手く巻き取り、次々と料理を口へ運ぶ。

アシュリーはそれを満足気な笑顔で眺めながら、じっと観察する。









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