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30 忠犬



「おい!」



部屋を出たところで、待ち構えていたルークに呼び止められる…が、レティシアは安定のスルー。



「おいおいおいっ、無視すんな!」



目の前をスーッと通り過ぎて行くレティシアの腕を掴んで、ルークが無理やり引き止める。



「おはようございます、ルークさん。何度呼ばれましても…私の名前は“おい”ではございませんよ?」


「またそんなっ…いい、ちょっとこっち来い。話がある」


「…話?」




レティシアの部屋のクローゼットには、綺麗なワンピースなどの衣類が何着も用意されていた。装飾品や靴まで、至れり尽くせり。

レティシアは久しぶりに洋服を選ぶという楽しさを味わい、上機嫌で部屋を出た途端…ルークに捕まる。




    ♢




「ほら、そこに座れ」



促されるまま、ロビーの一番端に置かれた椅子に座るレティシアは、仏頂面で不機嫌。



「はぁ…朝から一体何でしょう?」


「人の顔を真正面から見て、ため息をつくな」


「どうぞ、お早くご要件を」


「…お前の話、アッシュ様から聞いた…」


「…そうですか…」



ルークはブルーグレーの瞳を少し曇らせ、無駄に長い足を組みながら…右手で真っ赤な髪を雑に掻き上げた。



「初めて聞いた話で…正直、かなり驚いた。この世界の人間ではないから、知らないことや理解できないことがあって当たり前…考え方や物の見方は根本的な部分から全く違うはずだと、アッシュ様が仰っていた。確かに、お前は何かこう…いろいろとスゴいからな。

俺が従者として他国へ出掛けても、異文化には戸惑うし困る状況はよくある。だが、多分それとはわけが違うんだろう?」



ロビーの広く大きい窓の外には、忙しなく歩く人の姿が見える。

話を聞いているのかいないのか…レティシアは、行き交う人々をぼんやりと眺めていた。



「私のいた世界とは違い過ぎて、生きにくいのは確かです。でも、だからどうすべきなのかが分かりません。この世界の貴族にはなれないし、一度死んだ身では元の世界へ戻れませんからね」




─ ガタン! ─




レティシアの視線が、椅子を弾いて立ち上がったルークへと向く。



「どうしました?」


「…死んだ?…は?…お前が…?」


「えぇ…私はレティシアの前世、現世には存在していません」


「前世って…そうか、そうなるのか…」



ルークは“前世”の意味を理解した様子で椅子に座り直すと、口元を手で覆い…チラリとレティシアの顔色を窺う。



(ゾンビだとでも思っているのかしら?)



「死んだようにとまでは言いませんが…私は、このまま極々平凡に生きていく運命のはずだったんです」


「そこを、邪魔されたと?」


「いいえ、仕事の話は大変有り難いものでした。いつか、この王国を出たいと考えていましたから。

ただ、私は…唯一だとか…特別扱いを受けるべき存在ではなかったので、伯爵様には本当に申し訳なかったと思います。その分は、これから仕事で挽回します」


「一応、アッシュ様のことを気にしてくれているんだな」


「それは…当然です」



ルークは両手で顔をゴシゴシ擦るようにしながら、大きく息を吐き出す。



「アッシュ様は、ああ見えて落ち込んでいるんだと思う。でも、お前の事情を最大限に理解したいと仰った。いつだって俺たち従者を大切にしてくださるお方だからな、きっとお前のことも守って行くおつもりだ」


「…私も、従者sの仲間入り…」


「従者ズ?」


「…これからは同僚ね…って言ったのよ」



ポツリと呟いた言葉を耳のいいルークに拾われてしまい、笑顔で誤魔化した。



「伯爵様は、とてもいい方だわ」


「俺たちはアッシュ様に拾われたんだ。皆、いろんな国で地獄を見てきたヤツばかりだぜ…」



各国から集まった五人の従者は、元は皆アシュリーに命を助けられた者たち。主人に忠誠を誓う私兵だという。

つまり、従者sのお給料はアシュリー個人の財布から出ている。


そこから始まった、ルークのプチ思い出話。

レティシアは、彼がより一層くだけた口調になっていくことも…そう悪くはないと感じていた。



「伯爵様は優しい感じに見えるのに、意外と男気があるのね」


「そうなんだよ!お前、話せば分かるヤツだな!」


「あなたは…少しクセが強いけれど、伯爵様が大好きだって分かったわ」 



(まぁ、呪いの人形に名前を書くのはやめてあげる)



「だけど、私のことを“お前”って呼ばないでください」


「…あぁ、悪い…」


「因みに、ルークさんのご年齢は?」


「17だ」


「…17…」



ルークはレティシアと同じ17歳、従者の中では最年少。

ガッシリとした大きな身体は幾分育ち過ぎか…若者特有の勢いに溢れた言動も、17歳と言われれば納得できる。



「ルーク()、私…外見は17歳だけど、中身は28歳なんです」


「……は?…はぁっ?!…お前が、28?」


「そう、かなりお姉さんでしょう?」



ルークは驚きのあまり口をパクパクとして、まるで金魚のよう。



「…ゴ…ゴードンだって、25歳だぞ…?」


「え?…ええぇぇ!!」



(なぬーっ!ゴードンさんは、私より年上ではなかったの?!)










※お読み頂きまして、誠にありがとうございます。


ブックマークや評価、いいねなど…大変励みになっております。重ねてお礼申し上げます。


なかなか上手く書き進めることができず停滞したこともあり、本当に本当に悩みの多い作品なのですが…ゆっくりでも、休んでも…最後まで頑張って書きたいと思います。


見捨てず、読んで頂けましたら幸いです。


              ─ miy ─

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