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22 平民レティシア



「アッシュ様、お仕事中失礼いたします。“レティシア”を調べた中間報告があります、お聞きになりますか?」



ホテルのテーブルに資料を広げていたアシュリーは、従者のゴードンがひょっこりと顔を出した扉を見る。

すると…ルーク、続いてチャールズ、マルコ…と、今回の旅に同行している従者たちが次々と顔を出した。



「最優先事項だ…構わない、入れ。ところでゴードン、他の者まで連れて来たのか?」


「ルークから話を聞いて…皆、気になっているようです」


「…あまりレティシアに興味を持つな…」



レティシアについては、当然ながら従者たちと情報を共有しておく必要がある。…にも拘らず、従者たちの前のめりな姿勢が目について、アシュリーは何となく面白くない。



「「「「…え?」」」」


「……アッシュ様、独占欲強過ぎませんか?」


「ルーク…昨日も言ったが、彼女は私の唯一の女性だ」



アシュリーにギロッ!と鋭く睨まれたルークは目線を逸らした。



「あー…っ、すいません」


「分かればいい。ゴードン、報告を聞こう」


「はい」



ゴードンは『余計なこと言うな!』と、いつも一言多いルークを窘める。




    ♢




アルティア王国は魔法大国。

国民の多くが大なり小なり魔力を持つ特有の国。


王族は黄金の瞳をしており、魔力量が多いのが特徴。

特に強い魔力を有する新国王のクライスは、知勇兼備と高く評価されていた。



当然、アシュリーも魔力持ち。強い魔力を持つ者には、独特の威圧感がある。




    ♢





「“レティシア”があの商店に勤め始めたのは、二ヶ月半前。元はトラス侯爵家の令嬢。除籍され、平民になったという話です」


「「「えーーっ!!トラス侯爵令嬢?!」」」


「この王国の中枢を取り仕切る大貴族ではないか…除籍されたから、家族はいないと言っていたのか…」



アシュリーに仕える従者たちは、他国についてそれなりに予備知識を持つ。

トラスという名を聞いて、大騒ぎをしていた。



「髪や瞳の色なども一致していますし…トラス侯爵家の“レティシア嬢”で間違いはありません。

感情表現が乏しく、社交界では『お人形』と呼ばれていた彼女は、その美しく気品ある姿が…とにかく有名でした」


「え?…感情表現あり過ぎだったぞ?」


「全てが噂通りではないのかもしれん…ルーク黙れ」



大きな声での独り言を咎められ、ルークは両手で口を押さえてコクコクと頷く。



「12歳で王国の第二王子フィリックスの婚約者になり、妃教育も順調、礼儀作法も完璧だったそうですが…最近…三ヶ月ほど前に関係を解消しています。

フィリックスは王族から追放されていますから、この婚約解消の原因は王族側にあったと考えていいでしょう」



確か、ルブラン王国には王子が五人いたとアシュリーは記憶している。 



「ふむ…一人脱落したようだな。いろいろとひっかかる部分はあるが、つまり…王子との婚約が破談になった後、平民になった元侯爵令嬢か」


「はい。あの商店はトラス侯爵家の縁者が経営しております。平民となった後、預けられているんです」


「妃教育を受けた侯爵令嬢ならば、他の王子と婚約を結び直す道もあったはずだ。平民になることを認められたというのが…腑に落ちんな。

それに、トラス侯爵家は輸入業をしている。あれほど語学堪能な彼女を、なぜ除籍してしまったのか?」


「そこまでは…まだ。その語学堪能という話ですが、今のところ情報が全く見当たりません。能力を隠していた可能性もあります」


「言われてみれば、あまり知られたくなさそうな雰囲気ではあった…不可解だ」



『そうですね』と言って、ゴードンも首を捻る。



「でも、貴族と関わりたくない理由は…元の高い身分に加えて、王族と婚約解消をしたからですよ。あいつ、令嬢らしく生きるのに疲れたんじゃないですか?」



ルークは両手で口を押さえていたはずなのに…また喋り出し、若干レティシアに同情したような表情を見せる。



「一緒にいた男のほうは?」


「あの貴族男性は、トラス侯爵家の後継ぎであるジュリオンでした」


「ん?…兄だったのか」


「はい。ただ…これには妙な噂話がありまして…」


「何だ?」


「ジュリオンが妹を溺愛しているのは、侯爵家では周知の事実。ところが…王子との婚約解消前辺りから二人の関係が変わったというのです」


「どう変わった?」



昨日見たジュリオンの様子から概ね想像はつく、と思いつつ…アシュリーは話の続きに耳を傾ける。



「“恋人関係”に、です」


「だろうな。アレは…そうにしか見えなかった…」


「その原因ですが、突然の事故で“レティシア”が記憶喪失になったというものでして…妹がそのままの姿で別人になった『禁断の恋』であると、専らの噂でした。

私が見ている間も…抱き締めて腰を撫で、手を握り、暇さえあれば髪や頬へ口付ける…あの兄は本気ですよ」



現場を見ていたゴードンは、やや呆れ気味に話す。



「しかし、その兄が後継ぎなら…婚約者がいるのだろう?」


「はい。婚約者との結婚は公表されています。妹を嫁にする気はなさそうですが、兄という枠はすでに飛び越えている気がしてなりませんね…」



『たった三ヶ月で波乱万丈』『ルークは話が下手くそだった』と、チャールズとマルコが感想を口にしていた。



「話を聞いていると、兄には心を許しているようだな。ゴードンは引き続き彼女について調べてくれ。その記憶喪失という…気になる噂の真相も…だ」



アシュリーは深くため息をつくと、コートを手にして立ち上がる。



「私は、レティシアに会いに行く」








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