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204 婚約者レティシア



「…あれ?…どうして…」



レティシアは首を傾げて、見慣れた室内を見回す。


ラスティア国大公の婚約を祝うパーティーは概ね計画通りに進行し、予定時刻を少し過ぎた辺りで無事終宴。

喜びや安堵、感慨深さ、幸福感など…感情の余韻に浸る間もなくアシュリーと共に大勢の招待客を見送ったレティシアは、パトリックの計らいで早々に会場を後にする。そして現在、帰るべき公爵邸ではなく大公邸の魔法陣の上に立っていた。



「おや、私の邸では不服かな?…婚約者殿」


「……どうやら、手違いではないようですね。それならそうと先に仰ってくださればよかったのに…」



一瞬、魔法陣の不具合を疑ったレティシアは揶揄われてプウッと頬を膨らませる。『見知らぬ僻地へ飛ばされても…云々』と、最初に酷く怖がらせたのは一体何処の誰であったのか、忘れたとは言わせない。



「ハハッ…そんなに怒らないでくれ。レティシアとの関係を公にした後ならば、叔父上も一泊くらいは目を瞑ってくださるそうだ」


「お義父様が?本当に?」


「うん、まぁ…一緒に住むまで待てないのかとお叱りの言葉はあったが、甘んじて受けたよ」


「…アシュリー様ったら…」



そういえば…彼は先日の晩餐会で公爵家に泊まることをあっさりと諦め、義父ダグラスの機嫌を取ると言いながら笑っていた。


王族と婚約した女性は、王国の掟に従い妃教育を受けなければならない。将来大公妃となるレティシアは大公邸の内部管理も把握しておく必要があり、アシュリーとの同居は諸々を学ぶ環境として理に適っている。

建前がどうあれ、大公妃の職務とは邸へ届く招待状の選別や返信などの基本的な業務一つ取っても社交界を知らずには成り立たない。修行中とてその条件は同じ。レティシアの大公邸入りは、最短でもデビュタント後というのが決定事項だった。アシュリーの夢見る生活が現実となるには、まだ数ヶ月時間が掛かる。



「待てないのだから仕方がない。私は、毎晩君の代わりに白いトラを抱いて眠っているんだ…可哀想だろう?」


「……トラを?」



(まさか、ぬいぐるみを抱えて…?)



話が冗談だとしても“可哀想”ではなく“可愛い”と感じてしまう。淑やかに声を抑えて笑えば、ニヤけたアシュリーが髪や頬にチュッチュッと口付けをし始めた。



「…ん…ちょっ…」


「もっと笑って…レティシア」



少しお酒が入っているせいか?遅めの口調と甘えた声でグイグイ迫って来るのだから…堪ったものではない。



「コホンッ!えーー…旦那様、そろそろ私共の気配に気付いていただいてもよろしいでしょうか?」


「…むっ…セバス…」


「じ、侍従長!!」


「本日、トラのぬいぐるみは片付けてございます」


「パメラ?!…いつからそこにっ…」



魔法陣を守るように設置された特殊な壁の外側、出入り口付近で息を潜めて待ち構えていたのは侍従長セバスチャンと侍女長パメラ。

室内に見張りの騎士がいないことで気を抜いてしまっていたレティシアは、壁からひょっこり飛び出した二人の笑顔を見て仰天する。



「「レティシア様、ご婚約おめでとうございます。お待ちいたしておりました」」





──────────





「セバスたちは君が泊まると聞いて大層喜んでいたし、料理長も私たちの婚約を祝って自慢の料理に腕を振るうと張り切っていたよ」


「うれしい。明日のお食事が楽しみですわ」


「期待していると伝えておこう。…湯加減はどうだ?」


「丁度いいです。アシュリー様が造ってくださったお風呂は、やっぱり開放感がありますね」



久しぶりの混浴は、堂々と全裸で登場したアシュリーの逞しい筋肉美が眩し過ぎて卒倒しかけたものの…疲れを取るには最高だった。

レティシアは湯けむりが籠る浴室の広い湯船の中で、思い切り手足を伸ばしてプカプカと浮遊する。



「ここへ住めば毎日入れる、早く私の下へおいで」



近頃人前でも言動と表情が甘い彼は、以前にも増して心情を言葉に表すことが多くなった。今は片時も離れていたくないという、真っ直ぐな想いが伝わって来る。


楽しそうに湯面をたゆたうレティシアを捕え、湯に浸かったまま腰を跨がせて向かい合わせになるよう膝に抱え上げたアシュリーは、ふっくら盛り上がった胸に張り付く白い湯着の襟元へそっと額を押し当て『どんどん欲深くなる』と少々自嘲めいた口ぶりで呟いた。



「…来月がデビュタントであればいいのに…」


「私の誕生日をなくすおつもり…?」


「君の誕生パーティーの日なら、泊まっても許されるだろうか」


「私が初めてお酒を飲む記念日ですのに…側にいてくださらないの?」


「側にいる。一晩中離れないと誓おう」


「ふふっ、そうしてくださいませ。その日は、ラファエルのお披露目も兼ねた…公爵家にとっては大事な日になるのです」


「ラファエルは私の義弟になる。誰の後ろ盾を得たのか、改めて周りへ知らしめる必要があるな」



大規模なパーティーは良くも悪くも人の目が多いため、上流階級の上下関係や繋がりを誇示する場として利用しやすい。

華やかで見目麗しい貴族女性は身分や能力に関わらず注目される一方で、男性は家門や権力のほうが重要視される。ラファエルは現宰相セドリックの母方の遠い親戚筋を出自とし、情報は伏されているが、レティシアと同様に公爵家の養子である事実は隠しようがない。容姿の優れた彼の存在は、粗探しを生業とする輩の劣等感を刺激するに違いなかった。



「ラファエルにとって、アシュリー様の存在は頼もしい限りですわ。そういえば、私のデビュタントのエスコート役をお義父様からラファエルに変更する話が出ていました」


「ファーストダンスは譲れないが、エスコートならば仕方がない。姉弟という組み合わせも悪くないと思う。ラファエルは後継者教育も順調だ、経験させてもいいのではないか?」


「はい、お義父様もそのようにお考えのご様子でした」



王宮で催されるデビュタントでは、アシュリーは王族席に座って成人した淑女たちを祝う側となる。よって、会場へ入場する際のエスコート役は家族に委ねられていた。



「ラファエルに恥をかかせては大変ですから、私自身もしっかりしなければなりません」


「君なら大丈夫だよ、今夜もよくやってくれた。…確か、ドレイクスの娘も成人だったな」


「えぇ、ベラ嬢の妹君です」


「子爵家の二人と親しくなれたようで何よりだ。しかし、フェイロン家の令嬢はあの場にいる予定ではなかったはず…」


「サンドラ嬢から先にお声を掛けていただきました。実は、お聞きしたい話があったのでお誘いしたのです」


「…ほぅ…」



密着したまま湯船で温まっていると、ただ会話をしているだけなのにアシュリーの下半身が徐々に存在感を増して来る。



「その話にも興味はあるが、私の誕生日が終わってしまいそうだな」


「…あっ、大変。アシュリー様は、私が正式に婚約者となることが一番のプレゼントだと仰いましたよね?」


「うん」


「私を…受け取ってくださいますか?」


「喜んで貰い受けよう。生涯手放すつもりはない」


「…お誕生日おめでとうございます…」


「ありがとう。愛している…レティシア」


「私も、愛しています」



アシュリーは腕の中のレティシアをきつく抱き締め、荒々しく唇を重ねる。今夜の口付けは一際熱くて激しかった。


咥内を余すところなく舌で愛撫した後は、湯着の上から豊かな胸を弄り敏感な中心部分を指先で愛でると同時に、熱気と快感で蕩けそうになりながら喘ぐレティシアの首筋へ吸い付く。



「…ンッ…ぁ…アシュリーさま……ダメ…ベッド…へ…」


「…ごめん、もう…」



アシュリーは恍惚状態のレティシアを抱えて立ち上がり、湯船の縁へ深く腰掛ける。

のぼせる寸前で助け上げられたレティシアは、蜂蜜色の瞳の奥底に余裕のない赤い輝きを見た。



「…ここで…入れてもいいか…」



艶っぽい声にレティシアの背中がゾクゾクと震える。この熱烈な求めに応じる以外、選択肢はない。


愛する人の欲望で下腹部をいっぱいに満たし、勢いよく突き上げられ揺さぶられ、最奥に放たれた愛情を何度か感じたころには…日付が変わっていた。




読んで下さる皆様、誠にありがとうございます。


次話の投稿は5/27~31頃を予定しております。よろしくお願い致します。

        ─ miy ─

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