198 消えない刻印4
「……ン……」
眉をピクリと動かしたアシュリーが、顎を上げて微かに呻いた。
レティシアは、隆起した胸筋の麓で儚く光る花宝の紋様を指先でゆるりとなぞる。こうして触れただけで身体の芯が火照って疼き出すことは、身を以て経験済みだった。
視覚を遮ると、その分聴覚と触覚が敏感になる。何度も抱き合った関係だからこそ、小さなきっかけ一つで緊張や焦りは期待へと上書きされやすい。快感を得るには最適な方法だと考えた。
眼下に横たわるアシュリーの姿に妙な征服感を覚え、自分にも支配欲があったのかと不思議な気持ちになる。手をしっかりと絡めて握り、淡い白銀色にも見える花弁の模様に沿って隙間なく丁寧にじっくりと…スタンプを押すようにキスをした。
単調だった呼吸音が不規則に変化して、天蓋幕で囲まれた狭い空間が妖しい雰囲気に染まり始める。彼の新鮮な反応と徐々に熱量を増す魔力香の双方から煽られて、否応なく感情が昂った。
(…すごくドキドキしているのに、気分がいい…)
羞恥心の鈍くなったレティシアは、アシュリーの肌の表面を軽く吸って跡を残そうとする…が、上手く行かない。
「…レティシア…もう目を開けてもいいか…?」
「はい」
堪え切れない様子で上擦った声を上げたアシュリーは、瑠璃色の瞳を煌めかせて自分の胸元に唇を寄せている恋人をまじまじと眺めた後、繋いでいたレティシアの左手を引き寄せて強く抱き込んだ。
「…あっ…」
硬い胸板に頬を押し当てた格好で、派手に脈打つ心臓の音を聞きながら…レティシアは目を瞬かせる。
アシュリーに覆い被さった体勢でも体重を掛けないよう筋トレの成果を発揮して頑張っていたはずなのに、濃厚な魔力の香りと素肌の熱に包まれた途端、全身の力が容易く溶けていくのが分かった。
(…あぁ…何て幸せなの…)
たとえ思考を放棄したとしても安心して身を委ねられる安堵感と、如何なる難解な要求をも受け入れたくなる程の愛しさは、きっとレティシアが彼に対してのみ抱く貴い心情だ。側にいるだけで幸福と安寧を与えてくれる唯一の存在とは、それこそ来世もその先も…永遠に手放したくない。
♢
「気持ちよかったですか…?」
レティシアの問い掛けに、アシュリーは黙ったまま少し腰を動かした。柔らかな下腹部に逞しく成長した一物がドンと突き当たって、無意識にその切先へ手が伸びる。
(…んんっ?!)
これまで実物を直接観察する機会にこそ恵まれなかったものの、布越しの感触ではいつもよりかなり立派に思えた。彼の答えは見事に可視化され、察して欲しいと言わんばかりに上に乗ったレティシアの腹を押し返して来る。その神秘的な変化を確認しようと膨らみを撫でれば、強靭な張りと太さ、長さに驚く。
本来、個人差が顕著で繊細な生殖器を評価するのはマナー違反。しかし『大きい』と、心の声が漏れ出るのを止められなかった。
『君のせいだ』頭上から拗ねたような口調の呟きが聞こえ、悶々とした目つきのアシュリーがレティシアを胸に乗せた状態でゆっくりと身を起こす。
「…そこは…私もまだ覚悟ができていなかった…」
「はっ!…触ってごめんなさい」
「…子猫みたいに、私の身体を舐めるから…」
「な、舐めたのではありませんわ…アシュリー様がするのを真似して、私も跡を残そうと……ひゃんっ?!」
話の途中で突然ベッドに押し倒され、視界がグルリと回転する。フワッと舞い上がったナイトドレスに慌てるレティシアの一瞬の隙を突いて、固く閉ざしていた太腿をいとも簡単に左右へ押し広げたアシュリーは、脚の間に素早く身体を滑り込ませて不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、今度は私の番だ」
「…へっ?」
丸見えになった下半身を隠そうとドレスの裾を引き下げるのに必死だったレティシアは、早過ぎる展開に呆然とする。
「一度、目を閉じてごらん」
「………はい…」
アシュリーがついさっきまでの自分と同じ行動をしようとしていること、そして…目を瞑る以外に選択肢がないことを理解した。“策士、策に溺れる”とは、きっとこういう意味なのだろう。
──────────
湿った黒のレース生地が、レティシアのツンと尖った胸の先にピッタリ張り付いている。アシュリーはいやらしく濡れ光る頂を満足そうに眺め、満を持して白い乳房に吸い付いた。
「…んっ…」
「跡を残したいなら…柔い場所を狙うといい」
アシュリーは豊かな双丘を揉みしだき、きめ細やかでしっとりした肌に口付けるのが好きだが、レティシアは夜着の上から胸を優しく撫でるだけでも秘部を濡らす。感じ易くて、愛すべき可愛い肉体の持ち主だ。
胸の先端を布ごと口に含んで散々吸い上げた後でも、指先で少し弄っただけで腰をくねらせて悶える。
とにかく、狂おしい程に愛しい。華奢な彼女との体格差を考え、最初は壊さないよう大事に大切に抱いていた。今ではすっかりアシュリー自身の形を覚え、そそり勃つ雄芯を難なく受け入れてくれる。
「…も……やぁ…」
「レティシア、目を開けても構わないよ」
潤んだ碧い瞳が開いたと同時に、熱い吐息を漏らす唇を塞ぐ。咥内を隅々まで愛撫し尽くし、舌を絡めて唾液を啜れば、レティシアが酸欠になって小さく震え出す。
夢中になり過ぎると、息を吸うのを忘れてしまうところはずっと変わらない。
口付けから解放されたレティシアは、快楽に浸って恍惚とした表情のまま力の抜けた四肢を暫くベッドの上に広げていた。今夜の彼女は、細い腕とナイトドレスからスラリと伸びた両足が全裸の時よりも艶かしく感じられる。
「気持ちよかったのか…確認してもいい?」
「……確認?」
「うん、ほら…私も子猫にならないとね」
「…もういっぱい甜めたはずでは…ふふっ…アシュリー様は猫といっても、ライオンなのではありませんか?」
「…ライオンか…ならば、私が噛み付かないように…君は大人しくしていないといけない」
♢
この後、アシュリーはレティシアの秘所に顔を埋めて、トロトロと溢れ出す甘い蜜をたっぷり味わう。ライオンではなかったが…子猫でもなかった。
初めて舌で陰核を刺激されて甲高い嬌声を上げたレティシアは、達した瞬間頭が真っ白になって理性が弾け飛ぶ。
パンパンに張り詰めた猛りを蕩けた蜜口へ一気に突き入れたアシュリーは、濡れた隘路を抉るように最奥まで擦り上げる。獰猛な男根を咥え込んだ蜜壺が時折ギュッと強く締め付ける度に、歯を食いしばって堪えた。
「…アッ…ぅン……あっ……気持ち…いっ…」
「……るり……るり……」
「あッ…アシュリー…さま…ぁふっ…んんっ…」
互いの名を呼び合い、深く口付けを交わす。腰を打ちつける乾いた音と愛液に塗れた結合部の淫らな水音が、どんどん激しくなる。
「…るり……愛してる…」
「…私もっ…あっ…愛して…います…」
レティシアは絶え間なく揺さぶられ、途切れ途切れに愛を囁いては喘ぐ。番の甘美な香りが充満する中で絶頂を迎えたアシュリーは、熱い飛沫を勢いよく放った。
ここまでお読み下さいまして、誠にありがとうございます。
次話の投稿は、3/6~11頃を予定しております。宜しくお願い致します。
─ miy ─