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124 目覚め4




「殿下、お話は…少し落ち着いてからにいたしませんか?」



アシュリーが改めて『話をしたい』と告げたところ、何かを察したレティシアは困った顔をして予定を先延ばしにしようと提案をする。


倒れている間に元々約束をしていた夜会の日は過ぎてしまっていて、これ以上待てないくらい破裂しそうな想いを抱えているのにどうしろというのか?

今のアシュリーは、目覚めたばかりの体調を気遣う優しさを求めてはいなかった。自分でも、冷静ではないと感じている。




─ 執着していると思われてもいい ─




ふつふつと湧き上がる熱い感情が魔力香となり、徐々に強くなっていく。止まれないアシュリーは、話をするか?薬を口移しで飲ませるか?どちらかを選べとレティシアに迫った。



「…なら、薬を…」



レティシアの選択によって最後の薬を飲み干したアシュリーは、熱い感情をぶつけるように無我夢中で唇を貪る。その結果、魔力香に酔って気を失ったレティシアを胸に抱き締めたまま…深く眠り込んでしまった。





──────────

──────────





「レティシア、おはよう。…レティシア?いないの?」



サオリが治療室を訪ねると、いつも必ず笑顔で出迎えてくれるレティシアの姿が室内のどこにも見当たらない。


暫くして、アシュリーの腕の中でスヤスヤと安らかな寝息を立てて眠る可愛い妹を見つけたサオリは、驚きのあまり飛び上がる。



「…なっ…えぇっ…?!」


「おや、サオリ?おはよう。そんなところに突っ立ってどうしたのさ、今朝は早いねぇ…」


「お…おばあ様!ちょっと、来てください!」


「何だい何だい」



丁度、欠伸をしながらやって来たスカイラを呼び寄せたサオリがベッドの天蓋幕を開けると、そこにはピッタリくっついて眠るアシュリーとレティシアの二人がいた。

思ってもいなかった展開に、流石のスカイラも目を丸くする。



「…これはまた大胆な…大公が夜中に目を覚ましたに違いない…」


「きっとそうよ。レティシアは前にも大公のために添い寝をした経験があるから…それとも、寝ているレティシアを大公がベッドへ運んだのかしら?」


「まぁ、起きるまで放っておこう。幸せそうに眠っているじゃないか」


「こういうのって、実際目にすると想像以上にビックリするものね…見てはいけないものを見てしまったみたい」




    ♢




「……うぅん……」



うっすらと目を開けたアシュリーは、眩しそうに数回瞼の開閉を繰り返した。



「ようやくお目覚め?大公」


「………その声は…聖女様…?」


「えぇ、ここは聖女宮の治療室よ…安心して」


「…ありがとうございます…」


「体調はどう?目は視えているの?」


「…はい…身体も大丈夫です…」


「よかった」



受け答えには問題がなく、しっかりと目を見て頷くアシュリーの様子にサオリの黒い瞳がわずかに潤んだ。



「待ち兼ねたよ、大公」


「……っ……まさか……大魔女殿っ…?!」



レティシアから何の話も聞いていなかったアシュリーは、突然ひょっこり顔を出した大魔女スカイラの姿に瞠目する。慌てて身を起こそうとして、毛布に埋もれたレティシアの存在に気がつくと…表情が固まって動かなくなった。



「病人は大人しく寝ているといい。その子も、ここ数日まともに眠れていなかった。起きるまで休ませておやり」


「…こ…このような姿で…申し訳ありません…」


「大公が倒れている間におばあ様とレティシアはすっかり仲良しだから、何も気にすることはないわ」


「…え?」


「驚かせてしまったようで、悪いねぇ…」



レティシアとの寝姿を見られて動揺を隠し切れないアシュリーに、スカイラとサオリがニヤッと微笑み掛ける。



「おばあ様が、大公を治療してくださったのよ」


「……大魔女殿が?」



アシュリーは、サオリ以外から治療を受けたことがない。瞬時に思い当たるのは、初めて飲んだ九回分もの薬だった。



「まぁ、それについては後で話をしようじゃないか」


「申し訳ありません…真夜中に目覚めはしましたが、私自身状況がよく分かっていないのです。ご迷惑とご心配をお掛けして、深くお詫び申し上げます」


「大公、大事な娘を抱えて横になった状態で…そんなに賢まるもんじゃないよ」


「………はい…」



抱き込んでいたレティシアを手放そうとして一度は毛布に包んだものの、離れた温もりを追って無意識に逞しい胸へと擦り寄って来てしまうのだから…どうにもならない。

アシュリーは愛おしそうにレティシアを側へ引き寄せ、柔らかな感触を確かめて頬を染める。



「なるほど…こりゃあ焦げる」


「そうでしょう」



全員から大注目される中、目を覚ましたレティシアは…恥ずかしさに心臓が爆発した。





──────────





「大魔女殿も、感謝祭へ参加しておられたのですか?」


「そうさ、こういった派手なパーティーは久しぶりだ。おめかしして来たんだよ」



老婆姿とは比べものにならないスカイラの若々しい見た目に、アシュリーは納得をする。

幼いころ、会う度に変化の術を使い違う容姿で登場をする大魔女に翻弄されていた。今では魔力の強さではっきりと見分けができる。



「大公とはとんだご挨拶になったね」


「…面目ありません…」


「では、少し大切な話をしようか。ちょいと長い話になる、楽な姿勢で聞いてくれればいい」


「はい」



アシュリーはベッドで半身を起こす。

レティシアは、側付きのメイドに呼ばれて治療室には不在。敢えてこの場から席を外していた。




    ♢




「…呪い?…私は、あの時に…呪いを受けて…」



今回倒れた理由が呪いの暴走であり、全ては過去の忌わしい事件が始まりであったことを知る。

父アヴェルを恋い慕うが故に憎悪の念を抱いた女の狂気は、身を滅ぼした後も歪んだ想いを遺してアシュリーに取り憑き…心と身体を蝕み続けていた。



「だが、呪いは私が解いた。自由になったんだよ」


「…自由…」


「解放された気分はどうだい?」


「…気分…よく…分かりません…」



呆然としながら長い前髪を掻き上げて頭を抱えたアシュリーの両手は、小さく震えている。あの日の辛い記憶を掘り起こそうとすると、いつも頭が割れるように激しく痛んだ。幼かったアシュリーには、それが恐怖となって刷り込まれ…考えずに忘れるしかないものだと思っていた。



「…痛くない…」



頭の中身が半分空っぽになったみたいに軽く感じる。これこそ、呪いが消えた証なのだと実感をした。



「大公、今こうして近くにいる私たちは…女性だ」


「そうよ…どうかしら?」



顔を上げると、スカイラとサオリの明るい笑顔が目に入る。神経を逆なでする不快さと苛立たしさは全く感じられず、わざわざ壁を作って身構える必要もない。



「お二方のお顔が光って見えます…嫌悪感はありません。とても不思議な気持ちです。私がおかしいと思っていた感覚は、何の異常もない普通の状態のことだったんですね。気付かなかった…」



密かに感じていた違和感の正体がやっと分かったアシュリーの視界は、じんわりと歪んだ。









いつも読んで下さいまして、本当にありがとうございます。


この先、少し次話の投稿に時間がかかることがあるかもしれませんが…頑張って書いていきます。

お許し頂けますと幸いです。


次話の投稿は、7/2を予定しています。宜しくお願い致します。


          ─ miy ─

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