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11 婚約解消



国王は、応接室の外で待機していた護衛官数人を呼び出す。



「第三側妃が私に虚偽の報告をし…騙していたことが判明した。すぐに捕らえ、東の塔に幽閉せよ。第三側妃の居住区は即閉鎖、全員の身柄を拘束しておけ…全員だぞ」


「仰せの通りにいたします!」



国王は、第三側妃とフィリックスに仕えていた者を一人残らず取り調べるように申しつける。



「……父…上……」


「ここにいるフィリックスは、王位継承権を剥奪する。東の塔に放り込め」


「「「…はっ!!…」」」



護衛官たちは、抵抗する気力すら残っていないフィリックスを連れて、慌ただしく応接室から立ち去って行った。



「侯爵、フィリックスはこれより王族ではなくなる。よって、この婚約を解消させて貰いたいと思うのだが…構わないだろうか?」


「構いません」


「レティシア嬢も、合意していただけるかな?」


「はい、国王陛下」


「すぐに書類を作成させよう。誰か、文官を呼べ!」



第三側妃とフィリックスは見限られた。

東の塔は、隔離塔と呼ばれる王族専用の牢屋のような場所。二人はそこで処分を待つことになる。




    ♢




フィリックスの婚約は破談になるだろうと…予め下準備を済ませていた国王は、契約の解消手続きを先へと進めていく。


書類を前に、この短時間で深く刻まれた眉間のシワを指で解しながら、自責の念に駆られる。

今では別人になったとはいえ、真っ直ぐな視線を向けるレティシアから…ああもはっきりと『絶望した』と告げられれば、転落事故を未然に防げなかったことに対して負い目を感じるのは当然だった。



成人王族となったフィリックスは王宮主催のパーティーに参加するようになり、婚約者のレティシアがデビュタントを終えてからは、パートナーとして二人揃って社交の場で過ごしていた。その姿を何度か目にして、声をかけた記憶がある。


会話が弾む様子は見られず、決められた催事以外での交流は皆無。しかし、それも政略結婚という契約で結ばれた関係ならば往々にしてある話だと…気にも留めず、気遣う配慮を欠いた。


勉学が苦手なフィリックスが羽目を外していたのは、主に学園内。身分を取り払った開放的な環境を活かして見聞を広めるどころか、好き放題に女性と穢れた日々を送っていた。その現実に蓋をして、徹底的に隠そうとしたのが…第三側妃だったのだ。



国王は、書類の末尾にサインをする。



「これで、婚約解消の手続きは終わった。侯爵、レティシア嬢、フィリックスは謝罪もせず…此度のことは本当に申し訳なかった」


「…陛下、お顔をお上げください…」



フィリックスには大きな罰を与えたものの、謝罪は元より反省した様子も見られなかった。

ジワジワと湧き上がる怒りや虚しさで胸が一杯になったトラス侯爵は、硬い表情のままそれ以上何も言えずにいる。


レティシアは、隣に座るトラス侯爵を気遣わしげに眺めた。





──────────





「レティシア嬢、一つ交わしてもらいたい契約がある」



国王は、神妙な面持ちでテーブルの上にニ枚の紙を置く。

これは、魔法石に記録された映像を流出させないために新しく作成された契約書。



「魔法石についてだが、王宮魔法使いが確認したところ“所有者”はレティシア嬢であり、全ての記録映像に高度な魔術による制約がかかっている。魔法石に直接契約魔法を施せない…つまり、手が出せないのだ。

自由に扱えるのはレティシア嬢だけであるから、映像を門外不出としたいこちらとしては紙面上での契約を頼みたい」


「私は映像をバラ撒いたりはいたしませんが、契約は当然であると思います。

ところで、廃嫡にした元王子でも…あちこちにその痴態を晒されてはやはり困るものでしょうか?」



契約書の内容は正しく、不正なものではない。

それでも、数年間“現世のレティシア”が精神をすり減らしながら集めた証拠だと思うと…あっさりとサインをする気にはなれなかった。



「無論だ。それ故、契約を交わすのだ」


「…であれば、映像は私の“切り札”になり得ますね。たとえば…トラス侯爵家の皆様や私が、そちらからの脅威を感じた時には、この契約は破ってもよろしいですか?」


「そのようなことは起こらないが…いや、契約書に書き加えておくとしよう」


「ありがとうございます、国王陛下。

実は…今日も、ここまでずっと撮影をし続けているのですが…」


「…っ…?!」



ニッコリと微笑み爆弾発言をするレティシアを、国王は大きく目を見開いて凝視する。

その後、観念したかのように声を立てて笑った。



王宮の主要な部屋には、魔法や結界によって会話の漏洩、不法な行為などを防ぐ“セキュリティ”が事前に施されている。しかし、レティシアを待機させるだけの予定であったこの応接室は別。


大事な書面のやり取りも通常ならば専用の執務室で行うもので、イレギュラーな事態が重なり…諸々詰めが甘かった。


そんなことなど何も知らないレティシアだが、応接室に入った時からこっそりと撮影を開始していた。



(『備えあれば憂いなし』…だよね)





──────────





「侯爵、レティシア嬢は記憶がない状態で…今後どうしていくのだ?」


「…レティシアは…貴族籍を抜けて、平民として生きていきたいと言うので…そうする予定でおります」


「何っ?!」


「私は、ご覧の通り貴族のことを何も知りません。今からそれを学ぶつもりも、窮屈なドレスを着て毎日を過ごしたくもないのです」


「…貴族制度のない国で育ったと言っていたな…」


「はい。自分で働いてお給料をいただく、普通の生活をしておりました。ドレスなど着る機会はありませんでした」


「…しかし…」



侯爵令嬢という身分を捨ててまで平民になる利点がどこにあるのか?国王には見当もつかない。



「処罰対象でもないのに、除籍を希望するなどあり得ない話だが…侯爵はそれでいいのか?」


「本人が自由になりたいと望むのですから、叶えてやるつもりです。陛下、どうか許可をいただきたく存じます」


「…………」



はっきりしているのは、それを許せば『トラス侯爵が完全に娘を喪う』ということだけだった。









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