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10 バカ王子



映像を全て見終わるころには…国王は眉間に深くシワを寄せ、フィリックスは床に座り込んだまま小刻みに震え、トラス侯爵は邸では見ていなかった刺激的な映像に呆然としていた。



「婚約者を愚弄する言葉の数々、学業を疎かにし、婚約者がいながら複数の女性と浮気…アンナと男女関係を深めていく様子、婚約破棄を告げる姿など、全てをはっきりとご覧いただけたかと思います。

この婚約が、フィリックス王子の一言で破棄できる簡単な契約だったのなら…前世である私が、この場に現れるような事態にはなっていなかったのかもしれません…」



見せた映像は盗撮によるもの。

正規に世に出せるかは分からないが、国王の心にそれなりの影響を与えることはできたはず。

レティシアは、国王の目をしっかりと見据える。



「国王陛下、現世の私(レティシア)は…愚かな男(フィリックス)の伴侶となる未来に絶望したのです」




    ♢




国王は、婚約の破棄や解消自体を特に問題視してはいなかった。


レティシアを“王族の婚約者”から解放する気など毛頭なく、フィリックスを退け、新たな婚約者を充てがえば丸く収まるだろうとすら考えていたのだ。



ところが…蓋を開けてみれば、二年も妃教育を受けていた侯爵令嬢レティシアはその座を拒み、この世から姿を消して今や別人。

トラス侯爵は、大切な娘を喪い憔悴していた。


一連の出来事の“引き金”となったフィリックスの愚行は目に余る上に、証拠はトラス侯爵家の手の中にある。



新たな婚約の契約を再び押し通して、トラス侯爵家を取り込もうとするなど…不可能な状況となっていた。





──────────





「フィリックス…反論があるのなら…今、申してみよ」



床に座るフィリックスを眺める国王の目は暗く、何も期待していないことが窺える。


ヨロヨロと立ち上がるフィリックスだが、一人では何もできない温室育ち…完全に腑抜けていた。

物言いたげに口をパクパクとするだけで、国王がいくら待っても反論は勿論、言い訳すら出てはこない。


撮られた映像が残っている以上、彼の言動に非があったのは明らか。何を言っても…後の祭りである。



「こうなっては…弁明の余地もないか。もうよい、形式上聞いてみただけだ。まさか、女の顔を股間に埋めて悦ぶお前の姿を見る羽目になるとは…肉欲に溺れ、いいように扱われたな」


「…父上、…大変申し訳ありま…」


「誰に謝っている?謝罪はトラス侯爵家にすべきであろう」



フィリックスが口にする…誠意の欠片もない口先だけの謝罪の言葉など、誰も聞きたくはない。

それでも、一番に謝罪すべき相手はトラス侯爵家なのだと国王は教えた。



「…え…」



ポカンとするフィリックスは、幼児のような表情で国王とトラス侯爵を交互に見る。



「…はぁ…情けない。王族が無闇に頭を下げることは確かにあってはならんが、それは絶対にするなという意味ではないのだぞ。

よく聞けフィリックス。私は第三側妃から、お前は成績優秀で人望も厚いと報告を受けていた。お前の従者からも…同様にな」



実は、その報告は国王からトラス侯爵にも伝えられていた。故に、初めて映像を見た侯爵は一瞬捏造を疑った程である。



「…母上が…?」


「なるほど…その様子では、お前は何も知らずにいたのだな。まぁ…そうでなければ、私の前であのようにおかしな発言をするわけがない…」


「…おかしな…?」

 


面倒事は全て周りに押しつけて任せっきり、学園では女の悦ばせ方しか学ばなかったフィリックス。

あまりの無能ぶりに苛立ちも萎え…国王は項垂れる。



「側付きの者が常に世話を焼き、何も指摘されずに…想像はつく…却って哀れというべきか」


「…あ…え…」


「フィリックス、お前のやっていることは間違いだらけだ。だが、その過ちに気付いていないな?ならば…教えてやろう」


「…父上…私は…その…」



最初の威勢はどこへいったのか?フィリックスの目が泳いでいる。



「レティシア嬢との婚約は、国王である私が決めた。トラス侯爵家と交わした契約は、()()()王子であるお前が『婚約破棄だ』と喚いたくらいではビクともせん。なぜなら、私の許可が必要だからだ。

アンナという令嬢は自分が『婚約者』であり、レティシア嬢を『()婚約者』だと言っていたな?私の許しもなく、簡単な口約束だけでそのように誤解をさせたのならば…お前はもう立派な詐欺師だ」


「…いえ…そ、そんな…つもりは…」


「そうか『そんなつもりはなかった』か。

では、側妃を娶ることを許されているのは国王のみということも…当然知らなかったのであろうな?」


「………へ…?」



フィリックスは空気が漏れるようなか細い声を出すと同時に、間の抜けた顔をした。



「フィリックス、お前はレティシア嬢を側妃にすると言うが…それは、私や王太子であるライアンを排除し、自分が国王になると言っているのと同義だ」



ことの重大さに気付いたフィリックスは、首を左右に激しく振り『違う!違う!』と、壊れた人形のように繰り返す。



「後で『そんなつもりはなかった』と言っても遅い。

その軽はずみな言動が、王国を揺るがす大惨事に繋がると知っているか?お前は無知で…王族として不十分で…危険な存在だ」


「…ち、…父上…お許しください…っ!!」



必死の形相で国王に縋り付き…泣き出すフィリックスは、先程のアンナと近い状態になっている。

国王はフィリックスを振り払うと『愚か者め』と呟く。



「第二王子フィリックス。お前の王位継承権を剥奪する。よって、レティシア・トラス侯爵令嬢との婚約は解消だ」








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