最後の戦い、さよなら異世界
目を覚ますと俺はベッドの上だった。
「お気づきになりましたか?」
「ジャンヌ・・・ここは?」
「ここはソニア村の宿屋です。」
仲間である僧侶のジャンヌに言われ、おぼろげだった記憶が鮮明になって、俺はベッドから飛び起きた。
体の節々が痛むが、宿屋の窓から外を見る。ソニア村からなら王都が見えるはずだ。
予想通り窓を見れば王都アーザスが見えた・・・だが、燃えていた。王都アーザスからは炎が上がり、巨大な黒竜の姿がここからでも視認することができる。
「クソッ・・・魔王め。」
俺は異世界から転移した勇者ケン。パーティを組んで旅に出て、旅の途中で魔王軍が王都を襲い始めたという一報を聞き、転進して王都に戻った。そうして魔王との決戦に挑み、激闘の末に魔王を追い込んだ。すると魔王は禁断の秘術を使って黒竜に変化。形勢は逆転して俺達は敗走。王共々近隣の村まで逃げてきたというわけである。
宿屋の広い部屋に傷だらけの負傷者たちがベッドに寝かされており、暗い雰囲気が漂っている。
「勇者様、お体に障ります、今はベッドで休んでください。」
「・・・ジャンヌそうはいかないよ。まだ王都には人が残ってるかもしれない。僕は行くよ。」
俺は走って宿屋を飛び出した。こんなところで泣いてても魔王は倒せない。俺の涙で人は救えないのだ。
「勇者様!!待ってください!!」
ジャンヌ、追ってきたか。本当に優しい子だ。
「ジャンヌ、ここは俺に任せてくれ。絶対に魔王を倒してみせる。」
「む、無茶ですよ!!私達全員で戦って手も足も出なかったのに!!」
確かに今の姿のままでは勝ち目はない。だが俺には切り札がある。
「ジャンヌ聞いてくれ、俺が異世界の人間という話はしたよな。」
「は、はい。」
「実はもう一つ隠してることがあるんだ。僕は・・・僕は外宇宙から来た宇宙人なんだ。」
「はい?・・・宇宙人??」
やはり宇宙人という存在を知らなかったか、この世界には宇宙という概念も無さそうである。詳しい説明をしている時間はない。
「つまりこの体は偽りの借り物で、本当の姿は銀色の巨人なんだ。俺は次に元の姿に戻ったら、遠い俺の故郷に戻らねばならない。もう俺の体は長い戦いで傷つきボロボロなんだ。」
前の世界で怪獣や星人と幾度も戦った俺。一緒に戦っていた人間達の特殊組織の仲間も基地ごと怪獣達の総攻撃によって失った。一人残った俺は孤独に戦い続け、怪獣を生み出す結晶体と激しい戦いを繰り広げ、結晶体を壊すことには成功したが、その時の衝撃で異世界に転移してしまった。
そこから何故か勇者と祭り上げられ、旅の仲間もと共に魔王退治の旅を始めたのだが、一度も変身はしなかった、体が変身に耐えれないというのもあったが、過剰な力は新たな戦の火種になる。出来ればこのまま魔王退治を終えたかったが、状況が状況だ、俺はこのまま苦しむ人達を見過ごすことは出来ない。
「俺は今から最後の力で変身して、命懸けで戦う。今まで世話になったな。皆にも宜しく言っておいてくれ。」
俺は懐からサングラス型の変身アイテムを取り出し、それを装着しようとした。
「ま、待ってください。言ってることはよく分からないですが、要はケンさんは命を懸けるってことですよね?・・・お願いですからやめて下さい!!」
「ジャンヌ、ここで問答してる時間はない。今も命が消えている。俺は行かねばならん。」
しかし、ジャンヌは後ろから俺のことを抱きしめて、俺が変身するのを妨害した。
「ジャ、ジャンヌ、話聞いてたか?」
「行かないでください!!私はアナタのことが好きなんです!!」
「ジャンヌ・・・。」
俺は色事に疎い。だからジャンヌが俺のことを好きなんて微塵も分かってなかった。この世界でジャンヌと細々と幸せに暮らす。そんな未来もあるのだろうか?・・・いや、無いな。とにかくあの黒竜を倒さない限り、そんな未来は無いし、もう一度変身したら生死を問わず俺はこの世界を去らねばならん。俺はゆっくりとジャンヌの手を振りほどき、ジャンヌの頭を右手でポンポンと叩いた。
「世界一の魔王を倒さなきゃならない。だから行かなきゃな。俺のことを好きって言ってくれたこと忘れないよ。」
「・・・ケンさん。」
涙を流すジャンヌを背にして、俺は久しぶりにディフェンダーアイを装着した。
そうして銀色の巨人、ディフェンダーマンに俺は変身したのだ。
ジャンヌです。今、銀色の巨人となったケンさんと、魔竜の魔王の戦いを固唾をのんで見守っています。
何度も何度も倒されるケンさん。それでも彼は立ち上がった。
立っているだけでやっとの筈なのに、その目からは闘志が消えることはありません。
そして・・・。
「ダァ!!」
魔竜となった魔王を持ち上げ、横回転を加えながら大空に投げました。
「ダァアアアア!!」
ケンさんは両手を十字を組んで、魔王に向かって光り輝く光線を発射。
"ビィイイイイイイイ!!"
「ギャアアアアアアアア!!」
"ボォオオオオオオオオン!!"
光線の当たった魔王は断末魔の悲鳴を上げ、大きな音を立てて爆散しました。これが世界を恐怖に包んだ魔王の最後です。
魔王を倒し終わったケンさんは足元がふらつき、その場に倒れ込みそうだったけど、何とか踏み止まり、私のことを見てくれました。遠くからでも私のことを見てくれていると分かります。
これがケンさんとの最後の時間。もう会うことは無いのでしょう。すると私の頭の中に彼の声が響きました。
『さよなら、ジャンヌ。君が幸せになってくれること、それだけが私の最後の願いだ。』
空に大きな穴が空いて、ケンさんがそれを見上げました。きっとあれを通ればケンさんは元の世界に帰るのでしょう。
「ダァッ!!」
飛び立つケンさん。私はその姿を涙ながらに見送りました。
ケンさんが穴を通ると穴は閉じてしまい、まるで何事も無かったのように静寂が辺りを包みます。
その内に誰かが呟きました。
「光の巨人が私達を守ってくれた。」
きっと光の巨人伝説として、今日のことは遥か未来まで語り継がれるでしょう。
ありがとうケンさん。アナタは私のヒーローでした。