【phase2】名もなき君に、愛しき名前を
@ユリウス王子の自室
宰相「殿下! なにをお考えなのですか!? よりにもよって『呪われ聖女』を妃に選ぶとは……少女どころか、幼児ではありませんか! そういうご趣味がおありでしたか!?」
宰相さまがユリウス殿下の部屋に来て、真っ赤な顔で怒鳴っている。
ユリウス「ダリオ、口が悪いのが君の欠点だ。好きな女を選べと命じられたから、僕はこの子を選んだんだ。年齢制限はなかったはずだよ?」
ソファに腰かけたユリウス殿下は、ゆったりと笑っていた。
宰相「くっ……! ユリウス殿下はそうやって、いつも気まぐれなことばかりするから困ります。少しはアポロ王太子殿下を見習ってください!」
ユリウス「兄上と僕を比べるのはやめたほうがいい。君が疲れるだけだからね」
言いながら、ユリウス殿下はわたしの髪を撫でている。
ソファで殿下の隣に座らされていたわたしは、緊張でガチガチに固まっていた。
彼の気まぐれでお城に連れてこられたわたしは、今日から『呪われ聖女』としての役目を解かれ、彼の住まう離宮で生活することになった。
宰相「殿下! 教会と揉めごとになっても、私は知りませんよ!?」
ユリウス「ダリオ、僕は君を信頼しているんだ。頭の固い司教をうまいこと丸め込むくらい、君なら簡単だろう? 期待しているよ」
宰相「また私の仕事を増やすおつもりですか!! まったく!」
宰相さまは怒って部屋から出て行った。
ユリウス「――さて。うるさいのが、ようやく出て行ったね。幼い子どもを泣かせて作るポーションなんか、本来は利用すべきではないんだ。君もそう思わないか?」
微笑みながら、殿下はわたしを見つめた。
ユリウス「君は――あぁ、名を聞いていなかったね。なんと呼べばいい?」
ミーリャ「わたしに名前はありません。司教さまからは呪われ聖女と呼ばれていました」
ユリウス「そんなものは名前とはいわない。では、僕は君をミーリャと呼ぼう」
ミーリャ「ミーリャ……だれのお名前ですか?」
ユリウス殿下は悲しそうに笑って小さく首を傾げた。
……聞いちゃいけないことだったのかもしれない。
ユリウス「君は長いこと塔に閉じ込められていたようだが。どれくらい前から、こんな扱いを受けていたの?」
ミーリャ「……分かりません」
質問に答えないと、殿下の機嫌をそこねてしまうかもしれない。
気まぐれで拾ってくれただけだから、気が変わったらまた捨てられてしまうかも……
ミーリャ「でも……本当に、名前も年も分からないんです。ずっと塔のなかでポーションだけを作って生きてきました。もしかしたら生まれたころから、ずっとなのかもしれません……」
ユリウス「可哀そうに」
撫でてくれるユリウス殿下の手は、優しい。
ミーリャ「ありがとうございます、ユリウス殿下」
ユリウス「できれば、僕をユーリと呼んでほしい。昔、君によく似た女性が僕をそう呼んでいた」
――あぁ。そうか。
ユリウス殿下が、わたしを選んだ理由が分かった。
きっと、殿下はミーリャという人に恋してるんだ。
でも、手に入らないから……代わりにわたしを、気が変わるまで近くに置くつもりなんだ。
できるだけこの人に捨てられたくない……。独りぼっちの生活に戻るのは、怖いから。
日間コメディランキング2位(2022/9/30)のこちらも、よろしければどうぞ!
『灰色の悪役令嬢は婚約者に溺愛され「ざまぁ返し」の手ほどきを受ける。「…ところでレオ様、ざまぁ返しって何ですか?」』
https://ncode.syosetu.com/n1064hw/








