【phase10】ほんとうのこと
ユリウス「ミーリャ。君は、ルカールサという名の悪魔に取り憑かれていたんだ」
ミーリャ(成人)「ルカールサ? あの、カルカト地方の伝承にある『水の悪魔』……?」
ユリウス「そう。あの悪魔に取り憑かれると子供の姿になってしまう代わりに、悪魔の体液に由来する、強力なポーションを作り出せるようになるそうだ。古来の伝承だったが……真実らしい」
ユリウス「司教は過去何十年の間、女性に悪魔を憑依させて人為的に『呪われ聖女』を作り続けていたんだ。『呪われ聖女』を塔に閉じ込め、ポーションを生成させていた――呪われ聖女が作ったポーションは、高値で取引されるからね」
ユリウス「幽閉した呪われ聖女が死んだら、悪魔を回収して次の女性に憑依させる。……そんなことを、繰り返していたらしい。そして現在の呪われ聖女がミーリャ……君だったんだ」
痛ましい表情で、ユーリさまは私の頬に触れながら語った。
ユリウス「僕は何年もの間、失踪したミーリャの行方を探し続けていた。……そして君が『呪われ聖女』にされて幽閉されているのだと知ったのは――ほんの数ヶ月前。居ても立っても居られなくなり、奪うような形で連れてきてしまった」
疲れ切った様子で、ユーリさまはベッドに横たわった。
悪魔にしか効かない毒らしいけれど……やはり、人間の体にも負担になってしまうらしい。
アポロ「呪われ聖女を作り出すために、人為的に悪魔を憑依させていたとはな。ユリウスの働きがなければ、司教の悪事を暴くことはできなかっただろう」
アポロ殿下は腕を組み、険しい表情をしていた。
アポロ「昨日、ユリウスにすべてを打ち明けられて……驚いたよ。司教の卑しい行いにも、幼い『呪われ聖女』が本当は成人女性だったことにも。私はユリウスとともに、中央教会の教皇猊下にこの件を直訴する。だからもう、心配はいらない」
アポロ殿下が私に笑いかけてきた。
ミーリャ(成人)「……アポロ殿下はどうしてさっき、ユーリさまのふりをして、私を足止めしようとしたんですか?」
アポロ「時間稼ぎのつもりだった。毒を飲んだユーリが倒れている姿なんて、君に見せたら面倒だろう?」
アポロ殿下がくすくすと笑っている。柔らかい表情になると、この人はユーリさまに少し似ている。
アポロ「とっさに三文芝居をしてしまったが……、一瞬で見抜かれてしまったな」
ミーリャ(成人)「少し、意外です。おふたりは仲が悪いんだと思っていたので……」
アポロ「弟の真意が聞けたので、わだかまりが溶けた。いつも無責任で気まぐれだったユリウスのすべての振る舞いは、君を救うことが目的だったのだと知って……嬉しかったんだ。兄として、支援したいと思うのは当然だろう?」
アポロ「それで、どうなんだ? 弟のことを、君はどう思う?」
ミーリャ(成人)「私……私は、」
いきなり起こった自分の変化に戸惑うばかりで。
何をどう受け止めたら良いのか、わからない。
ミーリャ(成人)「私、昔の記憶が……曖昧なんです」
アポロ「ゆっくり思い出せばいい。弟は、何年でも君を待つだろうからな」
私は頭痛に耐えながら、昔のことを必死に思い出そうとした。
ユーリさまのことを、たくさん思い出したかったから。
ミーリャ(成人) (――そうだ)
ミーリャ(成人) (何年も前、)
ミーリャ(成人) (私が暮らしていた白葉月の森に。1人の男の子が迷い込んできた……)
ミーリャ(成人) (オオカミに襲われていたその子を、私が助けた。とても可愛らしくて、心のきれいな男の子。心に孤独を抱えながら、一生懸命耐えていた子……)
その子は深青色の、まっすぐな目で私を見つめていた。そう……
ミーリャ(成人) (目の前のユーリさまと、同じまっすぐな目をしていたわ)
私は震える手で、ユーリさまの頬に触れてみた。
ユーリさまの目が、私だけを見つめている。
ミーリャ(成人)「……大きくなりましたね、ユーリ。わたしのこと、覚えていてくれたんですか?」
ユリウス「一日だって忘れたことはなかったよ、ミーリャ。僕の妻になってくれる?」
ミーリャ(成人)「――喜んで」
私たちは、もう一度口づけを交わした。








