幸せな夢を見ていた、目覚まし時計に起こされるまで
ピピピピピピ………………
時計が乗員の起床を告げている。
探査宇宙船26481号機の管理コンピューターが、冷凍睡眠カプセル内で眠る乗員の起床を促す。
「時間だぞ! 起きろ! 起きろ!」
私と妻は広い農場の真中に建てられている家で、子供達や沢山の孫達に囲まれクリスマスを楽しんでいた。
「お爺ちゃん! お星さまが綺麗だよ」
窓から澄みきった夜空を見上げていた孫娘の1人が告げて来る。
「本当だね」
ソファから腰を上げ窓際に近寄り夜空を見上げた。
一緒に夜空を見上げる孫娘の頭を撫でようとした時、突然見ていたものが星空もクリスマスを楽しむ家族も全てが消え、頭に声が響きわたる。
「時間だぞ! 起きろ! 起きろ!」
声に促され目を開ける。
見開いた私の目に映ったのは、計器類が並ぶ狭くて無機質な小部屋。
「目覚めたのなら、任務を遂行しろ」
これまた無機質なコンピューターの声が私の耳を打つ。
耳に響くコンピューターの声で私が体験していた今までの、生を受け両親と兄や姉達に慈しまれて育ち、妻と結婚し子供達を授かり沢山の孫達に囲まれた幸せな生活、全てが夢だった事を思い知る。
私は世界統一政府宇宙軍情報局の軍人で、乗機している探査宇宙船26481号機のただ1人の乗員。
探査宇宙船26481号機は、放射性廃棄物等によって大気も大地も海も汚染され人類の生存に適さなく成りつつある地球から、人類が移住可能な惑星を探しに数百年前飛び立った沢山の探査宇宙船の内の1隻。
指定された宙域で数十数百の惑星を探査したが人類が移住できるような惑星は見つからず、地球に帰還する途上にある。
太陽系に進入する直前に冷凍睡眠から起こされるように時計の時間を設定したのは私自身。
数百年ぶりに見るモニターに映る母なる地球。
懐かしさはある、無事に帰還出来た喜びもある。
でも…………、でも…………、数百年前に飛び立った時より煤けて見える地球を見ていると、沢山の子供達や孫達に囲まれて過ごしたあの夢の中に戻りたいとの思いが募るのだ。