表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/23

4 大傀儡(アークゴーレム)

「これが、マハガ?」

 見上げる俺は、たぶん、ぽかんと口を開けっ放しだったはずだ。

「そう、大傀儡アークゴーレム、マハガ」

傀儡ゴーレムってことは、あの傀儡馬くぐつうまみたいなものってことか?」

「そ、正解。それの、すごく大型のものだと思ってくれればあってるよ。

 巨大な怪物に見えるけど、中には乗り込めるようになってるんだ。操縦だってできるし、住める場所だってあるよ」

 ミラが手で合図を送ると、マハガは伏せる犬のように、前脚を伸ばし、後脚を曲げ、腹ばいの姿勢になった。

 思いのほか、従順だった。

「こっちから乗り込めるから、ついてきて」

「あ、あぁ」

 ミラについていくと、ちょうどマハガの脇腹のあたりの装甲が開き、扉が現れた。扉のはまり込んでいるあたりは、岩石でできているように見えた。そんなところも、傀儡馬と同じだった。


 扉が開くと、そこには狭い通路があった。

「はい、どーぞ」

「……ほんとうに入って大丈夫なのか」

「なーにびびってんの?」

 そう言って、ミラは俺の背中を押した。

 仕方なく、マハガの内部に入る。

 薄暗い内部は、なんとなく土のようなにおいがした。


 扉からすぐにある数段の階段と、少しの通路を抜けると、広い部屋に出た。

 と、そのとき。

「おかえり、ミラ」

 三十歳前後といった感じの男性が、いたるところにレバーやボタンや計器のついた魔法機器を操りながら、首だけ振り返って言った。丸眼鏡に無精髭、それにしわの出た白衣。黒髪は寝癖のようにところどころが立っていて、髪よりも深そうな黒色をした瞳は、穏やかそうであった。

「ただいまー、ロークス」

 ミラはロークスに歩み寄り、彼にほほえみかけた。

「と、いっしょの君は……」

 ロークスは眼鏡をずり上げて、俺の顔をまじまじと見てくる。

 なんか居心地が悪い。

「ティグレだよ。競技魔法で活躍していた、魔法使い」

「ということは、うまくいったんだね、ミラ!」

「うん、みんなでパーティでもしちゃう?」

「そうしたいところなんだけどさ」

 と、ロークスは手元の魔法機器を操作した。

 すると、目の前の真っ平らな壁に、地図のようなものが現れた。

 魔法描画、か。

「出たんだよ」

 にわかに、ロークスの眼が細められた。

「ありゃ、近く?」

「五キリミルター。すぐそこだよ」

 地図上に、赤い光点が現れる。

「形は?」

「ア級、トカゲ型だ。体長四十ミルターってとこだね」

「なあ、あのさ」

 俺は、二人に忘れられまいと、割って入る。

「出たって、何が?」

 ミラとロークスは、口元をかすかに笑ませて、重なる声で言う。


「「巨獣だよ」」


「そんなわけでティグレ、早速の実戦になるけど、いいかな?」

 ミラはいきなり、俺に言う。

 いやいや待ってくれ。

「実戦って? というか、巨獣って何だ?」

 その疑問には、ロークスが応じた。

「僕らはね、この巨大兵器、大傀儡アークゴーレムを駆って、巨獣と呼ばれている、これまた巨大生命体と戦っているんだ。巨獣は辺境をおびやかす存在で、街や村を襲うことがたびたびある。だから、僕らのような大傀儡アークゴーレム乗りが戦っているんだよ」

「といっても」

 と、ミラが続けた。

「巨獣も決して、かんたんに狩れる相手じゃないよ。相手も大きいし、油断したらこっちがやられちゃう。だから私たちにも、力が必要なんだよ」

 そう言って、ミラはこっちを見る。

「まさか、それが――」

「そう、君。巨獣と戦うために、君の魔法が必要なんだ。

 マハガの〈主砲〉として」

 〈主砲〉だって?

「いままでうちのマハガは、殴りかかるしかできなかったんだ。殴り合いって危ないんだよ、巨獣の力のほうが、ぶっちゃけ強いし。けれど、君が来てくれたから、戦術の幅がぐっと広がるってこと」

 そう言うと、ミラは部屋の片隅のはしごに向かった。

「ティグレ、ついて来て?」


 先ほどまでいた操縦室から、はしごで上へ登る。

 登りながら見えた空の色は、かすかに赤みを帯びていた。あと半刻もすれば、日は地平線に沈みはじめるだろう。


 登りきると、そこはマハガの外、言うなればマハガの「背中」の上だった。

 出てきた先は、直径二ミルターに少し足りないぐらいの、円形の空間だった。胸元ぐらいまでの金属製の壁が周りを覆い、そこから上は開けていた。

「ここが砲座。君には、ここから魔法を撃ってほしいんだ」

 これを着けて、と言われて渡されたのは、体を固定するためのハーネスだった。

 腕と足を通してハーネスを装着すると、砲座を囲うように立つ金属の壁から伸ばしたフックを、ミラがハーネスに引っかける。

「こんなに固定する必要あるか?」

「そりゃだって、マハガは動くからね。それも、激しく」

 はいこれ、と言われて渡されたのは、耳に装着する小型の魔法道具だった。

「これで操縦室と話せるからね。それじゃ、私は下に降りるから」

「ちょっ、ミラ! 俺はどうすればいいんだ?」

「タイミングのいいときに、てきとーにぶっ放しちゃって」

「適当にって、おい!」

 雑にもほどがあるだろう!

 そんな心の叫びもむなしく、ミラははしごを掴んだ。

「だいじょうぶ。君の魔法なら、やれるよ」

 そう言うと、ミラは親指を立ててウインクした。


「ティグレ君、聞こえるかい?」

 耳元で、ロークスの声がする。

「あぁ、聞こえる」

「感度良好だね。さて、これから僕らは、五キリミルター先の巨獣と戦う。操縦は僕がしているけど、かなり派手に動くから、覚悟しといてね」

「うおっ」

 ロークスがそう言うやいなや、大きな揺れに襲われる。そして、視界の高さが上がっていく。

 マハガが立ち上がったのだ。

「ミラ艦長。指示を出してくれるかい?」

 艦長、だって? ミラが?

「これより、巨獣の討伐を行いまーす。マハガのみんな、戦闘態勢に移行してください」

 ミラの声は、これまでどおり、緊張感のかけらもなかった。

「目標、ア級トカゲ型巨獣。戦闘は格闘戦ならびに――」

 一拍の間が空いた。

「魔法式主砲による、砲撃戦を以て行いまーす」

 魔法式主砲。

 俺のことだ。

「マハガ、前進してー」

「前進、宜候ようそろ

 ロークスの声とともに、大地を踏みしめたマハガの、足音が響き渡る。


 一歩、そしてまた一歩。

 戦いに近づいていく実感。

 そのたびごとに、砲座に立つティグレの、心臓の鼓動が高まっていく。

「……やってやろうじゃん」

 俺の気持ちの高まりは、競技魔法の試合に臨む前と、まったく同じだった。


 マハガの速度は上がり、歩くというよりも、走るに近い動きに変わっていた。

「ティグレ、そろそろ進行方向に敵が見えるはずなんだが、どうだい」

 ロークスの声に、俺は目を凝らす。

 いた。

 夕暮れ近い光の中ではっきりとは見づらいが、真正面の荒れ地の中に、巨大な影がひとつ。

「見えた――」


 細長い身体に、横に張り出した四本の脚。

 そして、胴体の倍はあるかという、長い尻尾。


 あれが、巨獣か。

 思わず唾を飲む。

 マハガが進むごとに、巨獣の影は迫ってくる。

 その巨獣の、深緑の色までもが、はっきりとする。

「ロークス、間合いを取っていったん止まってくれるかな?」

「了解」

 ミラの指示とともに、マハガは足を止める。

 目測、五百ミルターほどだろうか。

 巨獣も、こちらに気づいたようだった。


 ミラは、深く息を吸い込んで、つぶやくように言う。

「それじゃ、やっちゃいましょっか」

普段は1話ずつアップ予定ですが、冒頭だけ、話をまとめてアップいたしました。


さて、ご覧くださり、ありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが気になる!」など思っていただけましたら、

ぜひブックマークをお願いします!

そして、下方の広告下の☆☆☆☆☆に、評価を入れてくださいましたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ