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伊賀の天さん

 駿府城で徳川家康公と天海僧正が計画していた忍軍争いを止めた俺の所に、服部半蔵殿がやってきた。


「国千代様、客人でございます。」

「どなたかな?」

「それが名は名乗れぬ、と……伊賀の副首領と申しております。」


 うわ。副首領自ら来てしまったよ。俺は会うことにした。黒髪長髪で面長な顔をしたなかなか美形な中年ぐらいに見える男だ。忍者でありながら剣客らしい。


「国千代様、はじめまして。私伊賀の副首領であります。忍者ゆえ名は名乗れませぬが……」

「こんにちは。副首領サン、仮に『天さん』と呼ばせてもらっていいだろうか?」


 『天さん』がたじろぐ。


「な、なぜそれを……」

「なぜって貴殿天さんっぽい雰囲気をしていると思ったから。」

「では天さんでよろしいでございます。ところで国千代様、聞けば我々伊賀と甲賀の争いを止められたとか。何故でございますか。」

「うーん。俺の知るところだと伊賀の跡取り娘と甲賀の跡取り息子が近々婚姻の予定だったというじゃないですか。」

「何故それを。」

「それはおいておいて、だからせっかく凄腕の集団が仲良く一つになろうとしているのに、それを争わせて全滅でもされたらもったいないじゃないですか。」

「ぬう、やはりお主が仕組んだことであったか!許せぬ!」


 と天さんは叫んで太刀を一閃し……俺はあえなく袈裟懸けに斬られて死んでしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おお忠長よ、しんでしまうとはなにごとだ。」

「今回はあの『前やったことが残ってしまう』効果を積極的に使っていこうかと。」

「なんじゃそりゃ。でも頑張れ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「許せぬ!」


 なんと今回この場面に戻ってきた。ギリギリやん。

 天さんが叫んで太刀を一閃する!俺は自分も太刀を抜いて受け止める!ありがとう彦左衛門こんな俺でも太刀を受けられたよ!


「やるな!しかしこれでどうだ!」


 と天さんは小太刀を抜いて下側から突き刺し……それはもろに腹を刺されてしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「しんでしまうとは」

「ここは大明神急いでぱぱっと!」

「お、おう」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「これでどうだ!」


 下から突かれる小太刀を素早く体をかわし避ける!


「まだまだぁ!」


 天さんは一歩下がったかと思うと棒手裏剣を素早く投げてきて……俺の額に突き刺さった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「しんで……」

「大明神!早く!」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「まだまだぁ!」


 飛んでくる手裏剣を畳をひっくり返して防御する!そして俺は後ろの槍をむんずと掴むと、天さんの腹に向かってブスッと突き刺した。


「……なんだと……これほどまでの手練とは……」


 天さんは仰向けに倒れて絶命した。


 しばらく待った後、俺は天さんに声をかけた。


「天さん、そろそろ生き返っていいよ。」

「……なんと!」


 と言って天さんは起き上がった。


「その虫みたいのが天さんの生命の源でいくらでも生き返られるんでしょ。」

「……我が秘密を知っていらっしゃるとは……」


 と言って天さんは座り直した。


「国千代殿もなにか私のようなお力をお持ちな様子ではないかと先程から感じているのです。」

「というと?」

「先程から何度も国千代様を討ち取った感触があるのですが、気がつくとそのたびに国千代様が立っている。どうにもその秘密がわかりませんが国千代様からは私同様、何度も死をくぐり抜けたものの空気を感じるのです。」

「その秘密を明かすわけには行かないが、天さん、推測は大体あっている、と言っておこう。」

「で、なぜ私と話をしようかと。」

「天さんとしては伊賀と甲賀の闘いが行われて、そのスキを縫って伊賀の棟梁の娘を手に入れようとしたのだろうけど。」

「ですからどこでそれを。」

「神託とでも思っておくれ。」

「神託、ですか。」

「そうしか言えない。だけど戦わせれば上手くやっても伊賀の方の手練が失われるし、甲賀の嫡男に惚れ込んだ伊賀の娘、最終的には絶対天さんを滅ぼそうとしてくると思うぞ。」

「うう。」

「天さんほどの人でも惚れた弱みはあるか。でも俺はあえてここで言いたい。つまらない伊賀甲賀の争いを離れて俺に仕えるのはどうだ?将来領地をもらえたら士分に取り立てる。」

「士分に!そんなことあろうはずもありませぬ!愚弄するおつもりか。」

「そんな事ないって。例えば織田信長公は滝川一益を始めとした甲賀の忍者一族を大名にまで取り立てている。太閤豊臣秀吉公も出自は上級農民か足軽の家かもしれないが、若いうちは忍び働きをしていたと思われるし。」


『わしの密かな歴史を勝手に出すな』、と頭の中で大明神さまの声が聞こえたが、『まぁまぁ』と宥めて続ける。


「なんと太閤様も。」


 本人に聞いたから確かだけどねー。『ワシの若い頃は。』とか言って嬉々として話していたもの。


「だからここは忍びらしく忍んで俺に仕えておくれ。娘御も栄華を手に入れれば自由に手に入れられよう。」

「国千代様も面白そうな方ゆえこの天さん、仕えさせていただきます。よろしいか?半蔵殿。」


 いつのまにか控えていた服部半蔵もうなずいた。


 こうして俺は不死身の凄腕伊賀忍者、天さんを配下に加えたのだ。


「……ということがありました。」


 大御所に報告したのは服部半蔵。


「ふふふ……わしの命もそろそろ終わりと見えるが、徳川の行く末は面白そうじゃのう……」


 しばらくして大御所、徳川家康公はその生涯を閉じられた。俺はその年、甲府23万8000石を拝領し、甲府藩主となった。

今日はこの一話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 南條範夫大先生の小説のおかげで忠長大嫌いになったけど、家光もちょっとなんで ここは忠長さん頑張ってもらいましょう! 鎖国しなかったらどうなるかは分かりませんが、鎖国は失敗だと思うんですよね…
[一言] 家光が将軍するのは良いんすよ 問題は子供をどう作るかなのですが… 衆道が極まると、背孕みとして男も妊娠するからまあいいか(山田風太郎感
[一言] 国千代様がまた死んでおられるぞ!(12敗)
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