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大久保彦左衛門

 大久保彦左衛門忠教殿の教えはまさに鉄拳制裁であった。


「若君!そんな軟弱さでは三河者を率いることはできませぬ!」


 といって腹に正拳。


「ぐはぁ!」

「なにがぐはぁ、ですか。三河武士たるもの全身傷だらけでないと格好がつかぬ、とわしは習いましたぞ。」

「そんなことを教えたのはどの御仁で。」

「本多重次殿にござる!わしも思えば若君のように知恵の回る可愛らしい少年でござった。」


 絶対ウソでしょ、それ。


「しかし作左殿の信念の籠もった拳を受けてわしは変わったのです!」


 いや変わったお陰でお祖父様は助かったから良いけどもう戦国の世はそろそろ終わりでしょ。


「ですからわしは若君に作左殿の信念、魂を伝えて徳川家に対する忠義というのもの全身で学んでいただきたく。」


 しっかし鬼作左かぁ!そりゃ鬼作左は傷だらけだったと言うけど。


「たしかに家中の老臣の皆様は皆傷だらけですが……本多忠勝様は生涯無傷だったと言いますから傷は負わなければいけないというものではないのでは?」


 次の瞬間、俺は下から顎に入る拳で天井まで打ち上げられていた。


「あの本多平八郎忠勝と自らを同等と考えるとはなんたる傲慢!あの者はもはや軍神と言っても良かった存在。それとも若君は在りし日の本多様とわたりあえるとでも?」


 首をブンブン横にふる。


「でしょうな。本多平八郎忠勝様と渡り合えるのは立花宗茂様、水野勝成様、そして本多様の娘婿の真田信之様ぐらいでしょうな……」


 と遠い目をする。


「まぁ!国千代、そんなに傷だらけになって。」


 と声がしたので振り返ると我が母上、江がいた。


「いやぁご母堂様、三河武士の魂を伝えるためには傷など厭うてはいけないのですよ。」


 とあっけらかんと応える大久保彦左衛門殿。いや、厭いたい。


「まぁ、それはそうですが国千代は徳川家の一門衆、それが顔が傷だらけでは『この者弱いのではないか。』と侮られるばかりでしょうし、京で公卿や主上とも折衝をしなければならない身ですから………。」

「これはご母堂様!大変失礼いたしました。この彦左衛門、そこまで考えが至りませんでした。かくなる上は腹を切って……」

「いや斬られたら困ります。」

「ありがたきお言葉。なれば若君の顔や表に出る部分には手出しを控えるということで。」

「それならばよかろう。」


 母上様、よかろうではありません。


「ははっ!これからは若君の顔には気をつけて鍛錬してまいります!」


 いや彦左衛門、ひこざえもーーん。


 俺の叫びも悲しく、日々彦左衛門からの肉体的な鍛錬と三河武士についての異常に詳細な歴史の講義は続いた。


 そんな日々を過ごしていた俺だが、ただ鍛錬を積んでいただけではなかった。


「国千代様!またおいでですか!」


 と『どうしよう』という顔で出迎えたのは幕府の重臣、土井利勝様である。


「えー。だってわたくの乳母の朝倉局さまは利勝様の妹御ではござらんか。ということは私は利勝様の義理の甥も同然。天下にその名を轟かす名臣土井利勝様と行動をともにして将来の政を学びたいと思いまして。」

「国千代様……もともと才が立つとは思っておりましたがそこまでお考えで。しかし。」

「利勝様の邪魔はいたしませぬからお仕事を脇で拝見させていただけましたら。」


 と言って一応『可愛らしい』と評判の瞳で見つめる。


「……しかたありません。邪魔しなければどうぞご覧くだされ。」


 と強引に許可をとって大久保彦左衛門殿の鍛錬がない時は土井利勝様にへばりついて行動するようにしていた。土井利勝様は冗談抜きで当代一級の名臣であり、その仕事っぷりは実に勉強になった。ていうか前の人生で俺家臣にやらせてサボり過ぎていたわ、と反省。


 そうして過ごす内に、どうやら土井様の方も少しはこちらになんだか馴染みというか情が移ってきたようで、よく菓子などを与えてくれるようになった。


「若君、共に将軍・幕府を支える身としてともに高め合いましょうぞ!」


 などと時々熱く語ってくれる。そうして土井様と江戸城にいたとき、井伊直孝様とすれ違った。


「お!国千代様ではありませんか!なにか私のことを上様にえらく褒めてくださったそうで!これからもよろしゅう!」


 と非常に気さくな表情で肩を叩いていった。それからも井伊様も俺になんかよくしてくれるようになったのだが。


 疑念を持った俺は夜寝室で豊国大明神様に呼びかけてみた。


「豊国大明神様!とよくにだいみょーじんさま!ほうこくこう!」

「いや大声出さんくても聞こえるわ。てか誰かに聞かれたら命の危機じゃろ。」

「あ、出てきてくださった。」


 豊国大明神様が目の前にプカプカ浮かんでいる。


「処されたわけでもないのにわしを呼ぶとはどうしたのじゃ?」

「実は……」


 と最近の井伊直孝様の話をした。確かに俺は直孝様を尊敬しているが、父徳川秀忠や祖父徳川家康に直接言ったことは(駿府城の大広間を生き延びてからは)ない。

 父に聞いてみたが


「直接大御所様と一緒にお前が言ったのは聞いたことはないと思うのだが……でもなんかそういう話を聞いた気がするんだよな。」


 と言い出す。お祖父様に聞いても


「うーむ。国千代がそう言ってたと思ったんだが、どこで聞いたのかは分からんな。もし真田信繁とか言ったら処すぞ!」


 とちょっと怖い顔で言われた。


「……うーむ。どうやら生き残るために分岐した時に行った行動が、失敗した方もある程度影響が残ってしまうらしいな。」


 と豊国大明神さま。


「え?となると。」

「うむ。おそらく褒められた井伊直孝やお主の父はなんか好感度が増していると思う。」

「逆にいうと大御所様はなんか俺のことを油断できないってどこかおもっているってことじゃないですか!」

「まぁそうなるな。」

「そうなるな、じゃないですよ!」

「まぁまぁ、不味いところはやり直せるんだからこれから頑張ればいいのじゃよ。」


 といってふわっと消えてしまった。これからどうなる駿河大納言(予定)。

今日はここまでです。土日は各1話ずつ投稿します。よろしくお願いします。

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