宇土城
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俺、徳川忠長一行は島津家久公から手形をいただくと、薩摩の国境を出ようとした。すると、
「忠長殿、またれよ。」
と声をかけてくるものがある。
振り返ると完全武装の島津隼人三千が控えていた。
「こ、これは?」
「豊臣秀綱は真田信繁と毛利勝永に奉じられて肥後へ行きもうした。」
と先頭の馬上は島津家久公ご本人だ。
「となれば数百、加藤家の内で内応するもんもおりましょうから千は越えてもおかしくないでごわす。彼奴らは宇土城に籠もっている可能性が高く、城攻めには5倍の兵力が必要でごわす。我らが加勢致そう。」
「おお、島津殿が加勢してくれるなら百人力、いや千人力でありましょう!」
と松平忠輝殿が応えた。
「さりとていくら島津の精鋭と我等といえど、少し数が足りないのでは?」
柳生十兵衛がふと疑問に思って口にした。
「それは今しばらくお待ちくだされ。」
と家久殿が応え、暫く肥後の道を宇土に向かって進んでいくと、また一隊の軍勢と出くわした。
「騎馬武者?敵か?」
宮本武蔵が逸る。すると、
「おーい、そこにおられるのは島津殿の軍勢か?」
と誰何してきた。
「おお、相良長毎殿、そうじゃ!島津じゃ!」
と言って合流したのは肥後人吉城主、相良長毎殿の軍勢だった。
「相良殿、こちらが忠長様じゃ。忠長様、相良殿には文を送って助勢をお願いしていたのだ。」
と家久殿が紹介してくれた。
「音に聞く勇猛な相良勢が加わってくれるとなれば大きな力になります。どうかよろしくお願いします。」
と俺は頭を下げる。
「忠長様、どうか顔をお上げください。当方としても国境に近い宇土で不穏な動きが続き、遺恨を立ちたいところなのです。」
こうして俺達の軍勢は総勢5千となり、肥後加藤家との国境に到達した。
国境では再び軍勢が現れた。今度は明らかに肥後加藤家だ。すわ、敵かと色めき立つ俺たちに向かって大将らしい騎馬武者が進んでくる。
「そこにおられるのは徳川忠長様の軍勢ではありませんか?ご無沙汰しております!飯田!飯田直景でございます!」
「おお、直景殿。」
俺は先に肥後に入った時に世話になった加藤家の家老、飯田直景殿に挨拶をした。
「して、豊臣秀綱は宇土城に?」
「おっしゃるとおりです。宇土城は清正様が隠居城として整備され、亡くなった後は廃城に名目上はしたのですが……」
「設備を少し取り除いたぐらいで残置していた、と。」
「恥ずかしながらおっしゃるとおりでして……そこに秀綱が真田や毛利を引き連れてまた城を修理してしまったのです。」
「なんと。」
「流石に軍勢を引き連れて我が方の城に立てこもる、となれば看過もできず、討伐の軍をこうして五千ほど率いてきたのですが……」
「飯田殿ほどの名将でも迂闊には攻められぬ、と?」
「いえ!真田や毛利に遅れを取るつもりはありませぬ!しかし、実は。」
「実は?」
「殿と若君が烏丸中将に唆されて一緒に入城して立て籠もってしまったのです。」
「なんと。」
「……加藤忠広、光広親子はやはりバカか。」
と島津家久殿。
「弁明のしようもありませぬ……清正様に顔も向けられませぬ……かくなる上は腹を切って」
「飯田殿、ここは貴殿が責任をという場合ではない。」
俺は押し留めた。
「そうじゃ。ここは一致団結して宇土を落とし、『囚われになっている加藤忠広父子を救助』するのじゃ。」
と松平忠輝様が言った。なんて素晴らしい助言。
「そうであるな。『殿は佞臣共に押し込められている』のであるな。」
と流石は飯田殿である。納得が早い。
「となれば城攻めでござるな。」
俺たちは軍議を開いた。宇土城は肥後国人一揆の時はあっさり落ちたが、その落とした本人が
「この水野勝成、宇土城ならばいくら拡張されていても元をよく知っておれば。」
と力強いお言葉。
「して、その策は?」
「しれたこと。ネズミ一匹逃さぬように包囲した上で大手門から突っ込むのよ。」
……やはり勝成様は脳筋だった。
「おお!さすが勝成殿!それに限りますな!」
と盛り上がる島津家久殿。かくして作戦?は決まり、俺たちは宇土城を取り囲んだのであった。
宇土城は見事に修復されており、あろうことか三重の天守と思しき大櫓まで上がっている。
「……飯田様、これのどこが破棄しているので?」
「……面目ござらん。」
「おお、わしが落とした時はもっとみすぼらしい砦に毛が生えたようなものだったがのう。」
と豪快に笑う水野勝成公。
「とはいえ、やることは一緒ですな。」
……勝成様、強いのは分かっているけどもうちょっと策はないのか。
「私が探ってまいりましょう。大手門の前で弁当でもいただこうかと。」
と天さんが立ち上がり、包囲陣から大手門の方へ進んでいく。
その刹那、凄まじい轟音が鳴り響き、天さんは撃たれて消し炭のようになってしまった。
「……忠長殿、あの忍びは大丈夫なので?」
と不安そうに飯田直景殿が聞いてくる。
「……おそらく夜になれば帰ってくると思いますのでどうかお構いなく。」
どうやら大手門の周囲には凄まじい数の鉄砲隊が配備されているようだ。
「あの数、まさか鹿児島から持ち出したので?」
と荒木又右衛門。それに島津家久殿は
「いや、流石に鉄砲は持たしておらん。」
「あれは当家の鉄砲でござる……今頃熊本城の武器庫は空っぽであろう!」
と飯田直景殿が嘆息した。
さて、宇土城、どう攻めようか。