まずは駿府城で徳川家康公にお目通り
俺が目を覚ますとそこは城の広間だった。上段には恰幅の良い老人が座っている。初代将軍で俺の祖父、徳川家康公だ。
「これ、国千代、こちらに近うよれ。」
お祖父様が声をかけてくる。国千代、というのは俺、徳川忠長の幼名だ。ここは見覚えがある、と思ったら懐かしき我が居城、駿府城の広間のようだ。お祖父様の手前に座っている俺の父、二代将軍徳川秀忠もこちらにむかって
「国千代、お祖父様が呼んでおるぞ。前に。」
と手招きをしてくる。兄の竹千代(徳川家光)は先に吃りながら挨拶を済ませたようだ。どもりは兄の持病だが、兄は頭自体は良いのでどこか気の毒と思っていた。
ここで俺の頭にピキーン、となにか閃光のようなものが閃いた。そして頭の中に豊国大明神の声が響いてくる。
「国千代よ、ここは大事な場じゃぞ……ここでお前は傲慢にバリッと挨拶をして、兄や父には警戒され、長幼を重視する家康殿は竹千代こそを後継者に、と心に決められたのじゃ。」
「大明神!どこから話しているのです!」
「これ、周りのものが不審な目で見ているではないか!わしの声はお前にしか聞こえぬ。」
「なんと。」
「じゃから声を出したら家康殿が『こいつ大丈夫か』と疑いの目を向けているではないか……このままでは駿河大納言どころか童の間にどこかの寺に押し込めぞ!案ぜずともわしへの返事は頭の中で考えるだけで大丈夫じゃ。」
「しかしてここはいかに?」
「うむ。お主がうつけではないことを示しつつ、兄、竹千代に忠義を尽くす、という姿勢を見せて祖父達の警戒感を解くのじゃ。」
「わかりもうした。」
「……どうした国千代、独り言など言って固まって。」
お祖父様が疑わしそうな目で見てくる。
「国千代もおじいさまの前で緊張したのでございましょう。」
おお、父上、この時点では明確に我が味方。そのご期待、裏切らないようにいたしましょう!
……挨拶をしてしばらく話をした後、祖父、徳川家康公が俺に語りかけてきた。
「国千代は賢いのう…竹千代も負けないように研鑽せねばならぬぞ!」
「はっ!」
兄が答える。うん。なかなかいい返事だ。これでこの場は乗り切った、と思ったらおじいさまが聞いてきた。
「しかして国千代よ、お前はどの様な者になりたいのじゃ?」
「どのような、と申されますと。」
「お主はどのような武将に憧れているのか、ということじゃよ。」
と言って家康公はジーッとこちらを眺めてくる。いやホントお祖父様怖い。
俺は必死で考えて応えた。
「国千代は、いうならば武田信繁様の様に兄に忠義を尽くす武将になりたいと思います!」
うむ。我ながら良い答えだろ。武田信繁といえば兄、武田信玄の対抗馬として祭り上げられながらも決して兄を裏切らずに忠義を尽くし、最後は川中島の戦いで兄を守って戦死した忠義の将だ。
「信繁……信繁だと!!」
突然お祖父様が大声を上げ!立ち上がって太刀を抜いて暴れだした。
「父上!父上!いかがなさった!落ち着いてくだされ!」
我が父、徳川秀忠が声をかける。
「信繁といえば真田信繁!あの真田信繁じゃ!大阪夏の陣でわしの目の前に現れわしにむかって『内府!死ねぇ!』といって迫ってきたあの鬼神じゃ!」
「国千代は『武田信繁』と申しておりますれば。」
「知るか!信繁といえば真田信繁じゃ!許さぬ!絶対に許さぬぞぉ!そこの童は処すのじゃ!処すのじゃあ!」
とお祖父様は怒り狂い、俺は背後から現れた屈強な男たちにガシッと抱えられて部屋から連れ出された。そしてそのままなにか暗い部屋に連れて行かれると
「若様御免」
と一言かけられたかと思うと胸をぶすっと刺されてしまったのだった……
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「おお忠長よ、しんでしまうとはなにごとだ。」
俺の前に豊国大明神さまが立っている。
「いやまさかあんな事でお祖父様がキレるとは。」
「うーむ。よほど真田信繁が恐ろしかったのであろうな。」
「これにて一貫の終わりでございますか?」
「いや、この豊国大明神、そんなケチケチしたことはしないぞ。」
「おお。では。」
「よっしゃ胸はってもう一回行ってみよう!」
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……気がつくとまた駿府城の広間だった。
「しかして国千代よ、お前はどの様な者になりたいのじゃ?」
お祖父様が聞いてくる。俺的には一刻ぶり2回め。ふふふ。今度は間違えないぞ。
「豊臣秀長様のような武将になりたいと思います。」
今度こそ完璧だろ。兄である関白豊臣秀吉を陰ながら支え続け、早く死んだことで豊臣の世が終わる原因になったのでは、と言われる文武両道の名将だ。豊国大明神さまもこの選択、喜んでくれよう。
「国千代!貴様豊臣家のものに憧れるとは!徳川の世を滅ぼすつもりか!許せぬ!許せぬぞ!!……」
「若様御免」
……俺はまた処されてしまった。
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「……忠長よ、しんでしまうとはなにごとだ……お前も大変だな。」
「今度こそなんとかしてまいります。」
「うむ。幸運を。」
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「小早川隆景様のようになりとうございます。」
「関ヶ原で敵になった毛利とは!許せぬ!」
「若君御免」
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「島津家久様の様になりとう」
「関ヶ原で我が陣を敵中突破で襲い、お前の叔父忠吉と井伊直政を死に至る負傷に追い込んだ島津豊久の父とは!貴様徳川家に害をなす気か!死ね死ね!」
……お祖父様もはや言葉遣いも気をつけなくなっておりまする。とはいえ。
「若君御免」
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「しんでしまうとはなにごとだ。」
ちょっと忙しすぎて豊国大明神さまもなんか省略している。
「豊国大明神さま。俺思ったんですけど、なんか『兄に尽くした弟』って徳川の敵率高すぎません?」
「うーん。とにかく徳川家の敵は避けないとな…そもそも家康殿に『信頼できる弟』というのがいなかったのがそもそもの問題な気がするが。そこだけでもわしは内府に勝ってたのね。」
「あ、思いつきました。存命の人ですが今度はなんとかなるかと。」
「おお、頑張れ、してどの御仁じゃ?」
「井伊直孝公にしてみようかと。」
「おお、敵ながら大阪夏の陣でも活躍された名将にして」
「兄、家光の治世を支えた大老です。」
「であるな、よしいっちょ行ってみよう!」
明日から1-2話ずつでも連載続けてまいります。どうか今後ともよろしくお願いします。