島津領に潜入せよ
俺たちはついに島津領の国境の峠に来た。『島津飛脚』と言われる誰も潜入が成功したことがないと言われる薩摩藩についに潜入するのだ。
国境を超えるとそこは雪、では流石になかった。鬱蒼と茂る木々の中を歩いていくと、にわかに数人の侍が現れた。
「ぬしら、どこのものでごわす。」
「わしら島津家久公に用が会って向かっている上使でごわす。」
我ながら完璧な鹿児島弁だ。と思った次の瞬間
「チェスト!」
と斬られていた。
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「おお忠長よ、しんでしまうとはなにごとだ。というよりな、今回はあまりにも考えがなかったのではなかっただろうか……わしとしても擁護し難い。」
「豊国大明神様!次回はちゃんとやりますゆえ。」
「ホントかの・・」
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とぼやきつつも豊国大明神様は俺を元の場に戻してくれた。
「チェストォ!」
俺は素早く退いて避け……られなかった。
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「もうとにかくなんとかする気はあるのだろうから行ってこい。しかしお主死ぬのになれすぎてないか。」
「最近天さんに、『殿は私を超えたかも知れません。』などと言われました。」
「うーむ。」
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「チェスト!」
「ふん!」
と手槍で受け止めたのは水野勝成公!
「各方!ここは押して参るぞ!」
と勝成公の掛け声で勝成公が、宮本武蔵が、荒木又右衛門が、柳生十兵衛が各々あっという間に島津藩士を切り捨ててしまった。
「すごい……」
「なかなかやりますが、この程度でしたら俺等の敵ではありませぬわ。うはははは。」
もしかして勝成殿、前回も問答無用で島津に押し入ったのか?
「この先は俺に考えあり、先に俺に行かせてください。」
「若殿に考えがあるならこの勝成、背後に控えておりましょう。」
とお願いして山道を下る。そこには集落があった。村の広場のような所に進むといつの間にか数十人の薩摩隼人に囲まれていた。
「おぬしら!島津のものではないな!」
と誰何すると同時に
「チェスト!」
と切りかかり、俺は斬られてしまった。と同時に『チェスト』寸前に時間が巻き戻る。
「チェスト!」
「チェスト!」
「チェスト!」
「チェスト!」
「チェスト!」
「チェスト!」
「チェスト!」
「チェスト!」
「チェスト!」
……
とやられている間になんとか見切った俺は今度は
「チェスト!」
「星流れ!」
と垂直方向の斬撃である『チェスト』に対して水平方向に反撃を放った!
が、相手の勢いを殺しきれずに斬られた。でも今度はちょっぴりね。
どう、と音を立てて倒れた俺に、松平忠輝様が駆け寄るが、俺は目配せしてちょっとだけ手を動かして皆を制した。
「お、この若侍、葵の紋の印籠を持っておるぞ!」
「チェスト関ヶ原?」
「チェスト関ヶ原!」
「チェスト関ヶ原!」「チェスト関ヶ原!」「チェスト関ヶ原!」
と激しく盛り上がる島津隼人達。
「チェスト関ヶ原!」「チェスト関ヶ原!」「チェスト関ヶ原!」
となぜか俺は高く掲げられ、胴上げされるような感じのままで鹿児島まで連れさられた。
「そこにいらっしゃるは水野勝成様では?」
と島津勢の上役らしき侍が声をかけてくる。
「いかにも。あの若殿とともに島津家久様の所に連れて行ってはくれまいか。」
「……先の国境と言い、迂闊に扱えば我々のほうが屍を晒すことになりそうですな。よろしいでしょう。ところであの若君はあのままでよいので?」
「うーむ。よいのでは?」
という感じで俺たちは鹿児島に到着した。
鹿児島で起き上がった俺を見て、島津家久公は
「チェストセキガハラできてないではないか~。」
と落胆すると同時に俺に声をかけてきた。
「葵の御紋、先の家光公将軍宣下の際にお会いした徳川忠長様とお見受けいたしますが、この薩摩にいらっしゃるとはいかなる所存で?」
「こちらに匿われている豊臣秀頼が陰謀に巻き込まれておりまして、その確認に。」
「うーむ。秀頼などおりませぬ、が。」
と区切って家久公は言った。
「ここまで堂々と乗り込んでくるその勇気に免じまして、忠長様が『肝練り』を乗り越えることができましたら私が知っていることをお話しましょう」
そして俺は家久公に『肝練り』に招かれた。円座に座っている中央に火縄に日が付けられた火縄銃がぶら下がっていて、周囲で平然と茶を飲んでいるのである。
ダーーン!
大きな銃声が響き渡った。
「ひ!」
と俺は声を上げてしまった。家久公は
「いけませぬな。」
と言って……俺は斬られてしまった。
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「忠長よ。」
「まあお願いします。」
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銃声が響く。今度は俺は声もあげずに平然と茶を飲む。そして何発目かの銃声が響いた時に、俺の眉間は銃で撃ち抜かれていた。
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「おお忠長よ、しんでしまうとはうんがない。」
「本当に運がなかったのですが、ここは気張って行ってまいります!」
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銃声が響く。あらかじめ着座位置をずらしていたので今度は大丈夫だ。しかし……そこで肝練りは終わらず、なんどか銃が発射するうちに……俺は胸を撃ち抜かれて死んでしまった。
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「おお忠長よ、なんとかできるのか?これ」
「大丈夫です!算段は付きました!」
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俺は最初の銃弾が放たれる位置からすごく微妙に位置をずらして座った。そして銃声が響いたとき、銃弾は俺のこめかみをかすめた。しかしおれは平然と茶を飲み、隣のものと話し続けたのだ。
「おお、忠長殿よ。」
家久公が声をかけてきた。
「貴殿は真の武士の心をも持ち合わせているようだ。私が知っているすべてを話そう。」
全然潜入じゃなくなっちゃったけど許して。