明石ジュスト
土日は朝に各一話ずつ投稿いたします。よろしくお願いします。
松平忠輝殿、宮本武蔵殿という力強い味方を得た姫路城を出発した。その際、姫路から荒木又右衛門という青年も一緒についてきた。なんでも柳生十兵衛三厳の門弟で、姫路に来た十兵衛を見て
「お師匠、お久しぶりにございます。」
と会いに来たのだ。十兵衛三厳曰く又右衛門は『強い。とても強い。』とのことで
「お師匠が西国巡りをなさるならご相伴させていただきたく。」
と来たのであった。
俺たち一行は豊臣の世を蘇らせるべく暗躍している明石ジュスト全登を探し、備前岡山城に来ていた。明石全登はもともと備前岡山の太守、宇喜多秀家殿の家臣であり、生まれ故郷の備前で蠢いているとの情報を得ていたのだ。
岡山城では城主、池田忠雄殿が出迎えてくれた。
「忠長様。よく来てくださった。」
「忠雄様、いかがなさったのです。」
「それがご禁教のお触れに従い、領内のキリシタンは厳しく詮議しているのですが、どうも最近キリシタン共がいたとされる村々から人が消えているのです。」
「それは面妖な。」
「さらにはその地域の近辺で『鬼が出る』と囁かれておりまして。」
「おお。鬼とは。備前岡山といえば桃太郎卿の伝説が伝わる鬼退治の本場ですが。」
「にも関わらず鬼が出る、それは池田家の失政だろう、と何者かが吹聴している始末でして。」
「それは困りますな。」
「それだけではなく、最近城下では『小早川秀秋の亡霊』なるものが闊歩して城下を焼いたり狼藉している始末。なんでも小早川殿が徳川家康様に暗殺された恨みから蘇り、徳川家縁戚の当家(池田家)にたたっていると噂されまして。我が母は家康様の娘なれば。」
「伯母様もそう因縁をつけられてはお困りでしょうな……そこまで来るとなにか陰謀の香りを感じますな。」
「そのとおりなのです!放置するわけにも行かず苦慮していた所に忠長様から明石ジュストの話を伺いまして。」
「これらの背後にジュストがいる、と。」
「その通りです!どうか明石ジュストを見つけ出し、池田家をお救いください!」
「了解いたしました!」
そして俺たちは備前の村々を天さんの配下の伊賀忍者に探らせた。すると
「鬼が出た、と言われた場所の近くの廃村が夜灯りがついております。近づこうとしましたが厳重に警戒されておりました。」
と報告があった。
「その廃村が明石の根城か。」
と俺達は岡山城を出て向かうことにした。
備前の山中に向かい、川辺りで休息を取ろうとすると娘を従えた一人の老人が声をかけてきた。
「お侍方、こんな辺鄙な所になんの用かな?」
身なりは一見その辺にいる農民のようだが、妙に眼光が鋭い。娘も見た所それなりの所の出のようである。粗末な服のように見えて良い生地を使っている。
「この辺に鬼が出る、と聞きまして。」
「ほお、桃太郎ばりに鬼退治ですか。」
とのんびりした様子で老人が答える。しかし背後の方でざわめく気配を感じる。
天さんがそっと耳打ちして
「配下の者が何人か消されました。囲まれております。」
「ご老人、なんでもその鬼はデウスの教えに帰依しているというのですが、ご存知ありませんか?」
「デウスの教えですか……その昔高山右近という殿がおりましてな。」
と老人は続ける。
「デウスの教えのためにはすべての民衆に自愛を注ぐ素晴らしい殿であった。しかし徳川の狸に呂宋に追放され、熱病に倒れましたがな!」
「キリシタンをその様に擁護するとは貴様、やはり明石の手のものか!」
「いけない天さん!そいつは手のものではなく……」
と言いかけた俺の前で天さんが真っ二つになった。
「そう、『手のもの』ではなく、我こそが明石ジュスト全登。狸の作った仮初の世を破壊してデウス様の慈愛に満ちたパライソを作るのだ!」
と先程まで被っていたボロ布、と思しきものが覆い隠していた下から出てきたのは、銀に輝く南蛮の全身甲冑と巨大な十字架の形をした剣であった。
「我を探りに来るとは小童!貴様どこのものだ!その隻眼は柳生十兵衛か!やはり狸の手のものか!」
狸狸ってうちのお祖父様あまり悪く言わないでくれ。天さんもやられたしここは一旦ごまかしてもよいかと思ったが
「ここに在るは前征夷大将軍徳川秀忠公のご子息、駿河大納言徳川忠長どのであるぞ!この印籠の紋所が目に入らぬか。控えおろう!」
と松平忠輝殿がやってしまった。ちなみに印籠は忠輝殿の私物で俺のですらない。
「名乗りバッチリ決まったろ。」
と小声で言ってこちらに目配せするが、いや、それ、どっかの悪代官とか弱い人相手にやってほしいです。
「狸の孫か!ここで会ったが百年目、この明石ジュスト、デウスと豊臣家のため貴様を討つ!」
と大剣を振り上げた。それと同時に明石の配下と思われる西洋甲冑をつけた騎士が数十人現れて攻撃してくる。
しかしこちらの柳生十兵衛や宮本武蔵達の活躍で明石の兵は見る見る間に討ち取られていった。しかし、明石ジュスト本人は伝説通り鬼神の活躍である。十兵衛と武蔵が同時に打ち込んでも大剣で受け止め、逆に押し勝って二人を転ばせてしまった!こんなときこそ松平忠輝殿……は見かけによらぬ機敏さで遠方から鉄砲でこちらを狙う伏兵を片付けているところであった。うう。よく働いてくれているがこちらからは遠い!明石ジュストがこちらに進んでくる!
「子狸め!あまり似てはおらんが討ち取ってデウス様への手土産にしてくれるわ!」
と鬼のように迫ってくる。その隣には可憐な美少女。なんの南蛮美術だこの光景。
「(豊国大明神様―)」
と俺は小声で呼びかける。
「(どうした?)」
と一応場を気遣ってくれたのか豊国大明神様が小声で応えてくれた。
「(あの人あなたの一族のために俺をぶっ殺す、っていっているのですけど、どうにか説得してもらえませんかねー)」
「(あやつ信じているのは豊臣家じゃなくてデウスだからだめじゃー。)」
「(じゃあそのデウスになんとか言ってきてくださいよー)」
「(いまローマにいるから神の力でも行き来に三月ほどかかるがのー)」
「(そのあいだにこちらがやられちゃうじゃないですかー)」
「(強い味方も増えたんだからじぶんでなんとかしろー)」
と言って消えてしまった。
「なんじゃ狸の孫!貴様も超常の力を使うのか?」
と明石ジュストがこちらに言ってくる。
「い、いや超常の力などという大層なものでは……」
と言いかけた俺の前で明石全登は言った。
「ならばわしもデウス様に与えられた力を使おう!暗黒闘気術!」
と言った途端、黒いグニャグニャしたものが明石全登の鎧を覆い、そのまま膨れ上がって禍々しい巨大な甲冑のようになった。
「いや、それ、絶対デウスの力じゃないでしょ!」
と俺は絶叫した。どうなる俺。