宮本武蔵
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松平忠輝殿を仲間に加えた俺たち一行は備前にいるらしい明石全登を探しに行くことにした。その前にまず俺たちは京に到着し、前関白の九条公の屋敷に行った。
「ぬしらは……ひぃ!忠長ではないかぶぶ持ってくるのじゃ!ぶぶ持って!」
「その慌てよう。なにか企んでおりますな。」
「しらぬ。麿はもう隠居の身ゆえ知らぬでおじゃる!全ては烏丸中将が仕組んでいること!」
「まぁそういう事にいたしましょう。公達の論理は我々武家のものでは測り知る事ができません。しかし表立って烏丸中将の動きを助けるようなことがあれば。」
「ひぃ!しないでおじゃる!しないでおじゃる!他の公卿共にもよく行って聞かせるでおじゃる!」
「是非是非お願いいたしまする。もし破られた暁には一族郎党姫も含めて全裸で東寺の五重塔に逆さ吊りにいたしますぞ!」
「忠長殿なら本当にやりますな。」
と行って十兵衛がカラカラと笑う。
「おお、それはむしろ見てみたい気が。」
と忠輝殿。
「麿はともかく姫の裸なぞ絶対に見せないでおじゃる!この鬼!悪魔!でも悔しいけど従うでおじゃる。」
「よろしく。」
と言い残して旅の資金に金品などをご提供いただき、俺たちは京を出発した。
あとに残された九条卿は、
「徳川忠長……恐ろしい男でおじゃる……やはりあの男のほうが天下の主にはふさわしいのかもしれぬ……しかしそんな事になっては我々が操るのも難しそうでおじゃる……」
とブツブツ言い続けていた。
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京を出た俺達は播磨姫路城に到着した。姫路城には我が姉、千姫が城主本多忠刻殿の妻としているのだ。
「姉上!久しぶりであります!」
「おお、忠長よ、大きくなって。」
と姉妹の再開の挨拶も程々に、姉上の元夫だった秀頼について聞く。
「……忠輝殿との書状を読んだのですね。」
「随分子供っぽい方のように見えますが。」
「ホント、子供そのもの。だから大坂の時もお祖父様とろくに交渉もできず、逆に戦となって出ていくこともできなかった。でも侮っては駄目。」
「たんなる駄目坊っちゃんに思えますが?」
「これで家光みたいに体格も可愛かったらよかったのだけど。そこの忠輝殿と並ぶような巨漢で、さらにデブよ。」
「うげ。でかいデブ。」
「教えるものが多いから剣技も弓術も免許皆伝よ。馬は乗れる馬がないから乗れないけど。」
「すばしっこくて強いデブ。」
「しかもね、普段はニコニコとおとなしいけどキレると平然と残酷なことをするの。大坂の陣の時は城壁の上から敵兵を掴んでは投げ、掴んでは投げ、と投げ殺していたわ。そういえば力士と戦ってもほとんど負けなかったんじゃなかったかしら?」
「力自慢のデブ……ちょっと勘弁して……」
ふと振り返ると松平忠輝殿の表情が厳しくなってきていたのでゲフンゲフン、とやめる。いえ、忠輝殿ことではありませぬ。
「果心居士がね、大阪に来たの。」
といきなり姉上が言い出した。
「なんでも未来の英雄に色々なぞらえてくれる、というのよ。真田信繁殿なんてまさに大英雄『スタア』として数々の活劇や『映画』なる物語が作られて国民的英雄になる、とか。」
「はぁ『スタア』ですか。果心居士は未来も見通す力があると言いますからな。」
「そこで秀頼様が、『わしは未来の活劇や英雄なら誰になるじゃろうな?』とニコニコしながら聞いたの、そしたら」
「そしたら?」
「果心居士はうーん、と考えて『はあと様』と応えたわ。はあと様がどんな人なのかは教えてくれずはぐらかされたわ。」
「なんなんでしょね?その『はあと様』とやらは?南蛮の話でしょうか?」
「それが『南蛮のようであるが南蛮ではないのである……』と言って押し黙ってしまったの。」
「うーん。お祖父様も『秀頼は恐ろしい男であった』と言っていたから余程の者なのでしょう。」
と秀頼について分かったような分かってないような事を教えてもらった。そしてもし本当に生きていて会えたら、と姉上から書状を預かった。こっそり覗いてみると
『このデブうじうじ生きて生き恥晒していないでさっさと自分の人生に決着つけろ。』
と書いてあった。姉上ニコニコしているのに恐ろしい。イケメンの本多忠刻殿に嫁がれて未練はまったくなさそうだ。本当に男は過去の女を書棚にしまう、女は上書き保存、という事をつくづく実感した。
「ところで忠長。」
「はっ!」
「秀頼の所に向かわれるならばこの男を連れて行くがよい。」
と言って一人の剣客を紹介してきた。中年ぐらいだが、その魁夷な眼光の鋭さはまるで鷹だ。
「拙者、宮本武蔵と申す。備後福山藩主水野勝成殿のご縁でいま本多忠刻様にお仕えしております。養子の三木之助が忠刻様の近習をしておりまして。」
「おお、あの吉岡一門を倒したという。」
「覚えていただいていて光栄。」
「あの明石全登相手となりますと、武蔵殿の存在は心強い!」
と柳生十兵衛。
「ぜひよろしくお願いします!」
と俺は武蔵殿の手を取ってお願いし、共に旅立ったのであった。明石全登が潜む備前はもう目前である。
今日はここまでです!次はついに対明石ジュスト始まります。