五八と五郎八は字面が近い。
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将軍宣下が無事に執り行われてからしばらくして、俺と十兵衛殿は江戸城に呼ばれた。
「上様、ご機嫌麗しゅう。」
「おお、忠長か。」
と兄、三代将軍徳川家光公が声をかけてくる。
「本日はいかがなさいましたか?」
「うむ。お主が余に引き合わせた五八、よく励んでくれておるぞ。」
「はっ。」
「しかし困ったことがあってな。」
「と申しますと。」
「それは妾から申し上げます!」
と見目麗しき姫が出てきた。
「上様、この御方は?」
「うむ、伊達政宗公のご息女で先の余の叔父上の妻であった五郎八姫じゃ。」
「その五郎八姫様がいかに?」
「だまらっしゃい忠長卿、五八とは妾に対するあてつけか?」
「は?」
「妾の名、五郎八をパクったのではないのか?五も八も同じではないか!!」
「あ……いえ……そのようなつもりはありませんでした。」
と俺は滝汗。
「ほれ五郎八姫、忠長も考えてつけたわけではないと申しておるではないか。」
「ぐぬぬ……ならば致し方ありませぬ。」
「ところで五郎八姫、その名と言い勇壮さと言いまるで若武者のようだな。」
「若武者とはお戯れを。妾のほうが年上でありまする。とはいえ父、政宗が男を期待していたがゆえ男の名をつけられ、男のように育てられました。上様、不作法をお許しいただけましたら。」
「いやいや、そうではない……五郎八姫、後ほど我が私室に来るように命ずる。これは幕命である。」
「え?」
「聞かねば仙台藩は改易じゃ。」
「……上様の仰せのままに。」
…………俺しーらない。
ちなみに兄上は毎晩無事に成し遂げられ、五郎八姫の悲鳴が毎晩響き渡ったそうである。
「ついにおなごと……」
と感極まって喜んだ春日局様と天海僧正の手により、家光公といろは姫の関係は秘義中の秘義とされもみ消された。
五郎八姫様はクリスチャンであり、忠輝殿と離縁してからは生涯再婚せぬ、と貞操を固く守っていたため、
「妾は破戒してしまった……もうキリシタンとして顔向けできぬ……」
と泣く日々であったが、ついに子を授かってしまった。本来ならば征夷大将軍と伊達政宗の血縁、という飛び切りの血統であったが、
「キリシタンとして破戒してしまった私から生まれたこの子を表に出すならば江戸城のすべてを焼き払って死にまする!」
と泣く五郎八姫に一同そろって情をほだされ、市井に出して密かに護衛や援助を付けて育てることになった。
「妾はキリシタンゆえそのようなことは眠っている間になされたのであろう。妾を襲うようなものは狂人に違いない。とはいえ我が子はそう、あの武田四郎勝頼様のような『強すぎる』大将に育ってもらいたいものじゃ。」
との五郎八姫の仰せにより、紛うかたなき転びキリシタンと日本人の象徴たる将軍の子は『眠狂四郎』と名付けられたのである。
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兄上が五郎八姫と事の練習に励んでいたある日、俺と十兵衛はまた兄上に呼ばれた。
「おお、忠長か。この間は世話になったな。おかげで余も男としての自信がついてきたぞ。」
「……それはちょっと微妙な事情もありますがなにはともあれ祝着至極にございます。」
「うむ。ところで十兵衛、お主もなかなかの美形ではないか。」
「……いえいえ、この様な武辺者にそのようなことを仰られても。」
「それに忠長よ、お主もますます大伯父の織田信長公そっくりになってきた、と母が常々言っておる。」
「いやいや俺なんて信長公に比べましたら。」
「両名、謙遜するな。ところで本題なのだが、両名のお陰で余は五八と五郎八姫相手に新しい夜の世界を知ることができた。」
「はい。」
「しかしな、こうなったらなったで、元のようにな……その、なんだ、受け身の立場も懐かしくなってきてな。」
「それで上様?」
「両名に夜伽を……」
「この十兵衛!上様の勘気を受けましたので全国に修行行脚のたびに今すぐでかけまする!」
「忠長!烏丸中将の陰謀の調査のため西国へ今すぐ旅立ちまする!失礼!」
と両名転がり出るように江戸城を脱出した。ひとまず駿府城まで逃げおおせると天さんと合流して家老、朝倉宣正殿を呼び、
「領内の統治はおまかせします。とかく角が立たないように。こちらの動向や指示は天さんの部下から随時連絡させますからお願いします。こちらへの連絡も天さんの部下にしていただけましたら伝わりますので。甲斐は鳥居忠次殿によろしく。」
と大急ぎで言い残すと駿府城から大急ぎで脱出して甲斐に向かい、中山道を下ることにした。駿府城から出る時に遠目になんか上使っぽいのが見えていたけど気にしない!
「忠長殿、とりあえずどうしますか?」
と十兵衛に聞かれたので
「烏丸中将が暗躍していたのは本当なので西国へ向かおう。しかしその前にもう一箇所寄りたい所があって。」
「そこはどこで?」
「飛騨の金森殿のところ。」
「なぜ飛騨に?」
「そこに叔父の松平忠輝様がいるのだ。」
「おお、あの『捨て童子』忠輝様ですか。」
「ちょっと会っておきたくてね……」
こうして俺たちは一路、飛騨に向かって行ったのだった。