表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

大井川を突破せよ

320ポイント、ブックマーク80越え本当にありがとうございます。がんばります。

 兄上の将軍宣下のための上洛の準備に急ぎ駿府に戻ることにした俺徳川忠長が大井川に差し掛かると立派な船橋が架かっていた。


「なんじゃこりゃあ!誰がこのようなものを用意したのだ!」

「先日、京から来た立派なお公家様が『上様となられる方が京に参られるのであれば濡らすわけには行かぬでおじゃる。船橋を架けるがよい。』と指図されまして……」

「そいつはなんと名乗っていたのだ!」

「なんでも烏丸中将と……」


 烏丸少将ならば先日倒したはずだが、今度は中将か。そのうち烏丸大佐とか出てくるのか。


「大井川は江戸防御の要!こんな物を架けては父も兄も激怒するぞ!すぐ焼き払え!すぐだ!」


 そして念入りに油をあけさせ、火薬をばらまき、俺が


「焼き払え!」


 と命ずると大井川に架かった船橋は燃え上がった。三日三晩燃え続けたその姿は特に夜半が美しく、後に毎年この日になると大井川に架け渡した、現代でいうナイアガラ花火や灯籠を流して楽しむようになったという。


 駿府に着くと今度は寺社の住職が皆で押しかけてきて


「城を拡張するので城下から移れとはいかなることですか!」


 とねじ込んできた。いや、それ俺が前回やらかした事には違いないが今回はそんな事は言うつもりはない。


「どなたがそんな事を?」

「立派な公卿の烏丸中将殿が『上様を迎えるには城を立派に整えなければならぬでおじゃる。そちらはここから去ね。』と。」


 また 烏 丸 中 将 か。


 俺は慌てて真摯に土下座し、諸寺社に加増の約束をした。


「おお、若様、誤解ならばそこまでしていただけなくとも。」

「いいぇ、どうかこの忠長の誠意、受け取ってくだされ。」


 とどうにか納得していただいた。


「して若様、大井川はいかがなさるおつもりで?」


 家老の朝倉宣正殿が聞いてきた。この間新しく貰った故郷の越前の領地に一回錦を飾りに行ったのでニッコニコである。


「うむ。俺に考えがある。まずは体格の立派な力士を多く集めるのだ!」

「はっ!力士に家光公を運んでもらうのですな。」

「うむ。あ!今なら間に合うか?宣正どの、掛川の城下に虎っぽい名前の道場はあったか?」

「は、濃尾無双と称する老人の苛烈な道場が。」

「行ってくる!」


 と叫ぶと俺は天さんと十兵衛殿(兄上の近習なのだがなんか最近居着いている。)を引き連れて掛川城下の虎っぽい名前の道場にたどり着いた。間に合ってくれ。


「道場主なら今忙しくて会えませぬ。」


 という門人を強引に突破して道場に乱入する。右手には虎っぽいすごい強そうな老人、その脇には牛っぽい巨大な師範っぽい人、その反対側に……いた。なんか面妖な美青年。

まだ目は無事なようだ。間に合った。


「……わしの妾に手を出すとは許さん!死ぬがよい。」


 と虎っぽい道場主が言っている。


「ちょっとその成敗待った!」


 俺は飛び出す。


「そこの侍、身分の低いものではないな。名を名乗れ。」

「我が名は徳川忠長、話を聞いて……」

「星流れ。」


 次の瞬間。俺の首は吹き飛んでいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「おお忠長よ、しんでしまうとはなにごとだ。今度はまたえらくキツイ相手にわざわざ飛び込んだの。」

「豊国大明神さま。今回は将来のための深謀遠慮なのでございます。」

「まあなにか考えがあるのはわかるから、行ってこい!まだまだ大丈夫だぞ。」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「星流れ!」

「ふん!」


 俺は仰け反って回避した……が顔の上半分が消し飛んでいた

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「星流れ!」

「ふん!」


 今度は目の前を通過……しなかった。胴から両断。いや軌道変わっているじゃん。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「星流れ!」

「ぐはぁ!」

「星流れ!」

「うりゃ……があ!」


 やられる内にこちらもなんとかしないといけないのは理解した。速さも鋭さもすごすぎる。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「星……何だその構えは?」


 俺は床に太刀を突き刺すと体を大きく曲げて構えた。


「まあよい。星流れ!」

「逆流れ!」


 と言いつつ太刀を跳ね上げ迎え撃つ!跳ね上げた太刀は体重を載せて力を増し、星流れの横の斬撃とぶつかる!……がやっぱ力負けしていたふっ飛ばされた、けどキレテナーイ。


「星流れを防ぐとは。者ども、やってしまえ!」


 と牛っぽい人を始め門人たちが襲いかかってくる。それを十兵衛さんと天さんが迎え撃ち、峰打ちで殺しはしないが打ち据えて戦闘力を奪っていった。残るは虎っぽい道場主と牛っぽい師範とクソ真面目そうな剣士だけだ。さすがは十兵衛、天さん、と言いたいが十兵衛は切り抜けて悠然と構えているが……天さんは途中で斬られて死んでいた。まあ頑張った。死体は持って帰るから後でまたな。


「ぬう……星流れを防ぎ、我が門弟をも倒すとはお前は誰だ。」

「徳川忠長。」

「おお、殿であったか。してご用件は?」


 だからさっき名乗ったってば。


「道場主殿、道場主殿を剣術師範として600石で迎えたい。」

「召し抱えていただけるのは光栄の至りですが、600石とはなんとも。」

「将軍家師範の小野忠明様と同じですが。」

「おお、ならば過分なご評価と言わざるを得ませんな。どうかよろしくお願いいたします。」

「ところでそこの青年は?」

「わが妾と密通しおってな……成敗しようとしていたのです。」

「そこを曲げてこの青年、私にいただけませんか?」

「いくら殿の仰せでもそこは曲げられませぬ。」

「では知行は千石とし、流派は御留流として我が駿府藩最高の扱いとすることでは?駿府にも屋敷と道場を差し上げます。」

「そこまでしていただいては……いたしかたありませぬ。おい、そういうことだ。命拾いしたな。」


 と虎っぽい道場主が声をかける。


「そこの青年。」


 と俺は声をかけた。


「俺に仕えれば道場の中で競い合うより旗本になれるぞ。道場主殿に悪いから最初は10人扶持だけどな。どうせ今名乗っている名前も偽名なのだろ。伊……だから伊五八、ごーやと名乗るがよい。」

「ごーや、でございますか?」

「琉球名物の野菜だ。苦いが栄養がある。俺の役に立て、という意味だ。」

「ありがとうございます!この五八ごーや、命を尽くして忠長様に仕えます!」


 こうして虎っぽいすごい強い道場の内紛をどうにかして五八を得た俺は、駿府に急ぎ戻った。


「宣正殿!間に合った!大井川にはこの準備を。」


 と書いた絵図を差し出す。それは力士が並んで神輿のように組んだ木の台を担ぎ、その上に畳を敷いて兄上を乗せるようになっている一種の御輿だ。


「おお、これならば橋がなくても上様が快適に渡れますな!して、殿、間に合った、とは?」

「うむ。それはだな……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 しばらくして将軍宣下のため、徳川家光は京に向かって進発した。大井川に差し掛かると焼け焦げた残骸のようなものが見える。


「……これはなにか戦でもあったのか?」


 家光が聞くと


「橋をかけようとする不逞の輩がいて忠長様が成敗したそうでございます!」

「おお、忠長め、よく分かっておるわ!」


 と感心して川岸に来ると力士が担いだ御輿が待ち受けていた。


「上様にはこれに乗っていただきたく。」

「おお。これならば座ってあまり濡れずに渡れるな。しかし上から落ちてしまわぬか。」

「そのためには私がおりまする。」


 と伊五八が進み出た。そして家光を上に乗せると隣に伊五八が座り、家光が落ちないように支えたのである。家光は最初はちょっと揺れたりした時に五八に押さえてもらっていたが、


「お主、なかなかなであるの……(顔がな)」


 と言い出した。五八は


「はっ!一生懸命務めさせていただきます!」


 と応えたが、だんだん家光は揺れてもいないのに五八にしがみつくようになり、川を渡りきる頃には完全に抱きついていた。


五八ごーやとやら、ご苦労であった。」

「は、上様となられる方の役に立ててこの五八、光栄の限りであります。」

「うむ。五八よ、この後も役に立つがよい。寝所に共に参るのだ。」

「はっ……!?伺います。」


 そしてその夜、五八の『あ“―――っ!』という声が一晩中家光の寝所の周りに轟いたという。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後、俺、徳川忠長が駿府城で兄上に続いて上洛の準備をしていると、兄上の一行にいた土井利勝様が声をかけてきた。


「忠長様、あの御輿は良い考えであった。橋をかけさせぬように奮闘した話と言い、大御所様、上様(まだ正式に任官していないが事実上決まっているのでこの呼び方)共にいたくお喜びであった。」

「それはなによりであります。」

「うむ、それでな、上様があの五八というものを譲ってもらいたい、と。直参に取り立てるそうだ。」

「おお。直参とはえらく良い扱い。でもいきなり新参者がそのようになってよいのですか?」

「それがだな……」


 土井利勝さまがちょっと話しにくそうに続けた。


「上様は知っての通り衆道に熱心でお世継ぎが不安なのだが。」

「そのとおりですよね。」

「上様は衆道でな、その、いつも『される』方ばかりだったのだ。」

「掘られる、ということですか。」

「……まあ有り体にいうとそうだな。それがな、五八相手だと『する』方に目覚めてな。」

「おお、ならば。」

「そうよ、掘る方に目覚めたら後は女人に行ける筋道もできたというものよ!」


 言ってしまって直截的すぎた、と赤くなる土井殿。


「そのとおりですね!これで将来は兄上がお子をなせる道筋につながるというもの!」

「五八というものが衆道の嗜みがあったかどうかは分からんが。」

「まあそれで栄達できるならそれはそれで悪くないのかも知れませぬ。」


 というわけで伊五八は近習として兄、家光の直参に取り立てられたのであった。伊五八はそれなりにお役目をこなし、兄上に泣きついて莫大な資金とともに虎っぽい道場主の妾も引き取ったそうだからまあ、幸せだったのではないだろうか。


 兄上は無事京にたどり着いて将軍宣下を受け、三代将軍、徳川家光となった。同時に左大臣に任官され、俺は大納言へ位を進めたのであった。こうして大井川架橋事件を突破した、と安心していた俺に新たなる危機が迫っているとは今、俺は知らなかった。

すみません。家の風呂の工事など入り本日はこの一編です。続きは明日になります。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ