駿河大納言のやりなおし
気がついたら関が原にいる石田三成になっていたけど何度やり直しても徳川家康に勝てない
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の作者四郎壱郷です。2作目の作品になります。どうかまたお付き合いいただけましたら。
俺は駿河大納言徳川忠長。三代将軍徳川家光の弟だ。駿河・甲斐75万石の太守を務めていたが、寛永10年12月6日(1634年1月5日)、幕命により高崎の大信寺において自刃させられてしまった。
理由は父が苦労して攻め落とした大阪城を欲しがったのは徳川家にケンカを売るつもりだったからだの、防御上わざと橋をかけていなかった大井川に橋を架けただの、加藤忠広のバカ息子が冗談で討幕するとか書いたのに乗せられてしまっただの、そもそも兄にケンカを売りすぎて父にも見捨てられた、だの気が狂って酒に酔って家臣を切り捨てただの、城下で真剣で御前試合やらせて屍累々だっただの、女中を酒で責め殺しただの、聖地の猿を大量虐殺した祟りだの…我ながら枚挙に暇がなさ過ぎて逃げも隠れもできない状況になっていたのは確かだ。
しかしどれもこれも
兄 よ り 優 秀 な 俺 を 将 軍 に し な か っ た
世の中がすべて悪いのだ。
兄よりよりすぐれた弟なぞ存在しねぇ!!
なんて言葉は知らぬ。どうしてこうなったのだ……。
介錯されて首を斬られた記憶はあるので、俺は間違いなく死んでいるはずなのだが、なんだか暗いのだか明るいのだかわからない妙な空間で考え事ばかりが浮かんでくる。これが未練というやつか。ヒヒヒ、幽霊にでもなって祟ってやろうか、と思っていると声が聞こえた。
「おお忠長よ、しんでしまうとはなにごとだ。」
目の前に立派な衣冠束帯をつけた後光が刺した人物がプカプカ浮いている。
「これが死後の世界というやつか?お前は誰だ?どうせ俺は地獄行きだろ。さっさと連れて行け。」
「まあ急くな。こちらの話を聞け。」
そしてその人物は話し始めた。
「我が名は豊国大明神。」
「豊国大明神……豊臣秀吉か!大阪城を焼き払い、一族を滅ぼした上に猿を大量に殺した恨みを晴らそうとして出てきたのか!」
「……まぁお主の祖父と父が我が子秀頼を殺し、大阪城を焼き払い、豊国大明神を廃したのには思うところはあるが……わしは猿と呼ばれるのは好きでないので猿は関係ないぞ、猿は。」
「しかしてその豊国さまがいかなる御用で?」
「うむ、忠長よ、お前の行状は目に余り、死を与えられたのは自業自得だ。」
「それは言われないでもわかっているって……」
「しかし年若くして狂わざるを得なかったその境遇にちと同情してな。ひとまずこれを見よ。」
と豊国大明神がいうと俺の前に四角い白い膜のようなものが出てきて、そこにまるで本当にそこにあるような感じで映像が流れ出した。
『……この様に徳川家光は武家諸法度、禁中並公家諸法度などの制度を整備し、参勤交代制で諸大名の力を削ぎ、鎖国を完成させて幕藩体制を確立した名君となったのです…』
「おお……兄上!これほどのことを成し遂げるとは。楯突いた俺がバカだった。この様な素晴らしい将軍となられるとはまさに兄より優れた弟など存在しない、だな。俺が後継者争いで破れたのもむべなるかな……むしろ日本のためにはその方が良かったのだ。」
と俺が感動して涙を流していると、
「もうちょっと続くのじゃぞ。」
と豊国大明神が言い出し、まだ映像は止まらない。そこに映し出されたのは
柳生友矩とあ“―――っしているところ。
ちなみにあ“――――しすぎて14万石も与えそうになって友矩が密かに抹殺されたところ
あ“―――にハマりすぎて女性と関係が持てず、なかなか世継ぎができず締め上げられたところ
女性とできるようになってからは畳屋の娘にまで手を出していたこと
夜な夜な江戸に辻斬りに行って、柳生宗矩に怒られたこと
などなど。
「……いや、俺も狂っていたとは思うけど、兄上も大概じゃね?」
「じゃろじゃろ。」
「ということは兄上と俺って。」
「うむ。実は大差ないというか紙一重だな。」
……俺は考え込んだ。後の世で名君であった兄上と俺、同じ様な所が欠点だったのだ。ではこの差はなんだ。かたや名将軍、かたや狂気の出来損ない。
「だからな。」
豊国大明神が言い出した。
「おぬしの人生やり直してみんか?」
「人生やり直しですか?」
思わず俺は敬語になる。
「うむ。その不憫な人生、この豊国大明神にまかせてくれればやり直しできるぞ。」
「おお!豊国大明神さま!ではぜひお願いします。」
「うむ。ではこれからお主の人生を戻すぞ。」
「はい。」
「なにか聞いておくことはあるか。」
「今度はがんばります。」
「うむ、それがよい。さりとてそれでも上手く行かぬことはある。」
「そこで俺のやりなおし人生、終了、でございますか?」
「いやそんなケチくさいことは言わぬ!心ゆくまでやり直してみるがよかろう!」
「おお、豊国大明神様!でもってもしことがなった暁には俺は何をすれば良いので。豊臣家再興はさすがにどうやっても処されてしまいそうですが。」
「あはは。そこまでは望まぬよ。荒れ果てた豊国神社を立て直してくれればそれでよい!」「はっ。必ずや。」
「では忠長よ、行くが良い。今度は慎重にやるのじゃぞ…」
という豊国大明神の声を聞きながら俺は意識が遠のいた。
※今回は中の人は忠長卿なので現代技術チートはありませぬ!ないといったらないのだ!