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終わらせる(挿絵あり)

ドドドドっという音とともに階段を駆け上がって、奴が姿を現した。狂ったように走ってきた「人型のそれ」は、階段を上がりきった曲がり角で急に動きを止めた。


そして、ゆっくりとこちらを向いた。


挿絵(By みてみん)


見た目は、成人男性と変わらない。

だがボロボロの服を着ており、あちらこちらの破れた場所から肌が見えている。異質なのはその肌で、淡い緑色をしているのだ。極限まで脂肪がなくなってガリガリに痩せたその腕や体には、大きく肥大化し真っ赤になった血管が、緑の肌を蛇のようにその身を走らせ、どくどくと大きく脈打っていた。通常は皮膚に隠れて見えない血管の赤が、まるで皮膚の上にあるかのように体に張り巡らされていたのである。


目は白く濁り黒目があったのかさえわからない。その白い目が、左右別々にいろんな方向へビクビクとヒクつくように動いていた。


ーー感染者だ…。


クロは心の中で呟いた。


人型のそれと、クロ達の間にしばしの沈黙が続いた。

なぜすぐ襲ってこないかはわからないが、感染者はこちらを向き、大きく肩を上下させながら口で「ハッ、ハッ、ハッ」と息をしている。

よく見ると口の中と、頭の後ろの方から、植物のツタのようなものが皮膚を引き裂き、生えていた。


互いの息遣いだけが、静寂を支配していた。

2人が声を発さず動かなかったのは、そのままにすれば感染者が帰っていくかもという淡い期待があったからだ。そしてその考えに及ぶ一つの理由が白く濁ったその眼だった。黒目すらなくなったその眼はこちらを捉えているとは言いがたく、頭の方向も、いろんな方向に向けている。

まるで何かを探しているような。


その静寂を破ったのは人型のそれだった。

大きく上下させていた肩をさらに大きくゆらし、息にも声が混じってきた。


「はっ、はっ、ばはっ、ばはっ」


と、どんどん大きくなっていく。

シロは全身の毛が逆立ち、危険を察知したセンサーが、頭の中で大きく警鐘を鳴らした。


ーー来るっ…!


「ばはっばあっあっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


と声ともつかない奇声を上げながら、こちらへ走ってきた。

シロの前まであっという間に間合いを詰めると、右手を振り上げシロに殴りかかった。


「格闘概念が残ってる!?」


クロはそう叫んだ。初めて見るタイプである。手を振り上げ、その腕をぶん回して攻撃を仕掛けて来ることはあったが、拳を固め、不恰好ではあるが「殴る」という技術を使ったのは初めてだ。


シロは、顔色一つ変えず感染者の殴りかかってきた右手を、前に出していた左手で受け、外側に逸らした。

感染者のバランスが崩れシロに向かって前のめりに倒れてきた。それに合わせてシロは右半身を前に出し変え、右足が地面に着くと同時に、エルボーを感染者のミゾオチに叩き込んだ。

感染者は「ばへっ!!」と体液を口から吐き出し、クロのほんの少し前の地面に顔から倒れた。


感染者はうつ伏せのままもがいている。


すかさずシロは後ろから覆いかぶさるように抱きつき、右腕を感染者の首の下にいれ、左手でロックした。足で胴体に巻きつき、振り落とされないようにしながら、頚動脈を締める右手に力を入れた。

3秒ほど感染者は暴れたが、フッと意識をなくし全身の力が抜けた。意識を失う前に、


「み゛、み゛な゛……ざえ、ご…」


と言いながら、落ちた。


シロが感染者の背から降りると、感染者を先ほどの部屋へ引きずって持っていった。


何か布のようなものをかけている音がする。

そしてすぐに、ザクッという音とともに「う゛っ」という断末魔が聞こえた。


シロが短く切り取った布でナイフを拭きながら部屋を出てきた。


「…終わったよ」


"終わった"という言葉が何を指しているのか、"何"

がナイフについていたのか、クロにも明らかだった。


「さぁつかまって」


シロがそう伸ばした右手のアームカバーには、なんの体液も付いていない。おそらくあの布の音はシーツカバーか何か感染者にかけ、その上からナイフで"終わらせた"んだろう。


右手を掴み、ありがとうと言いながら踏み抜いた穴から脱出する。パラパラと穴から木材の破片が階下に落ちていった。そこにテイザーガンもあった。


「ごめんねシロ、ミスしちゃ…」


俯き加減のクロがそう言い終わる前に、


「こういう時のために、2人でいるんでしょ?」


と、シロが言葉を重ねた。

先ほどと同じく、マスクをずらし、ニヒヒと笑ってみせた。

クロは少しだけ微笑むと、またすぐ悲しそうな顔に戻った。


「さっきの、楽にしてあげたんだね」


「うん、きっと辛いと思うから。それに、まだ記憶が残ってたみたいだからね」


そういって、動かなくなった感染者が置かれている部屋を2人で見た。なぜここで2人とも部屋を見たのかわからない。けれどこの先、私たちのどちらかが、いや2人共がああなるかもしれない不安をぬぐいきれず、その時の自分を重ね合わせて見ていたのかもしれない。


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