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工具大好きクロ

家の周りは危険がなかった。他の民家からも物音などは全く聞こえない。奴らがいる可能性はかなり低いだろう。


いくつかある窓は全て、中から板を貼りバリケードが作られていた。窓から中の様子を見る事は出来ず、以前として中の状態はわからないままだ。


バリケードがあるという事は、この家主はパンデミックを一時しのいで、生き残っていたという可能性が高い。更にはそのバリケードも、家の全ての壁も、壊されたり侵入されたりした形跡はない。おそらく現在に至るまで生きている事などはあり得ないと思うが、短い間だが生き残ってこの家にこもっていたのだろう。


いや、家主は死んで、ガラ空きになった家に放浪した者が住み込んだのかもしれないが、パンデミックを生き残った者が、更に放浪をしてこの家に住み着くなんて事は考えにくい。恐らくだが、ここにたどり着く前に、外に出た瞬間に死ぬだろう。当時は奴らの数も多かったはずだから。


まあこれは全てあくまで仮定の話だ、とりあえず侵入経路を確保しよう。


周りを見てみたときに、二階の窓も見たが、流石に二階はバリケードされていなかった。音なく入るのなら、二階から入るのがベストだろう。


「シロ、二階から入ろう。ハシゴをだして組み立てて。あたしはいつもの出すから」


「りょーかい!」


シロは敬礼をし、手押し車に戻った。クロも一緒に戻る。

クロは手押し車に戻ると中から腰袋を取り出し、コートの上から腰に装着した。いくつかの工具が腰袋にセットされている。


そしてまた手押し車からプラスチックの箱を取り出した。30センチほどの箱だ。数がたくさんあり、年季が入っている。

シロは隣で手押し車に載せていた収納式のステンレスのハシゴを出し、カタカタと伸ばしている。


クロは箱を開けた。

中から黒いガラス用サークルカッターを取り出した。

プラスチックでできた吸盤から細い金属のような棒が伸びており、その棒に貫かれる形で丸い取っ手のついた刃が付いていた。


「やっぱこれだな」


クロは誰にいうでもなくそう呟くと、サークルカッターとスポイトをもってまた家に戻った。

家にはちょうどシロがハシゴを二階にかけた所だった。


「ありがと」


「どーいたしまして」


とシロは満面の笑みを浮かべる。下げたフェイスマスクをまたグイッと上に戻し、


「クロ、登って。下はあたしが警戒しとくから」


と言った。

クロはうん、と頷くとハシゴを登っていった。

クロが登り始めるとシロはハシゴに手をかけ右足を一番下の足掛けに乗せ、グッと体重をかけた。

ハシゴが動かないようにするためである。


クロは二階の窓の前までくると、そーっと中を見回した。どうやら寝室のようだ。奴らの影などはない。生き残っているかもと心のどこかで思っていた期待も、放置された室内の様子を見るとあっけなく消えてしまった。シーツや絨毯にはシミが大きくついており、蜘蛛の巣や、何かの小動物の骨などがある。骨の形状を見る限り猫だろう。

部屋の中で所々に空いた穴から草のような者が侵入し、人間の手が加えられなくなって久しい事を示していた。


頭を切り替え、先ほど取り出したサークルカッターの吸盤を窓に押し当てた。吸盤のてっぺんについたスイッチをカチッと押すと吸盤は完全にひっつきビクともしなくなった。


吸盤から伸びた棒についた刃をガラスにあて、スポイトでカッティングオイルを刃に垂らしながら軽く二週させた。カリカリカリと嫌な音を立てながら刃はガラスに直径15センチほどの丸い切れ込みを入れた。するとクロは腰袋から小さなハンマーを取り出し、打つ方とは逆の尖った方でコンコンと切れ込みを叩いていった。

切れ込みがヒビへと変わる。

コンコンとする間、いつ窓の中から奴らが出てくるかと思うと、心底緊張した。


クロは続けて吸盤を外し、棒から刃を取り外した。そしてカッティングオイルを切れ込みを入れた丸に平たく塗り、取り外したカッターの刃で格子状に細かく切れ込みを入れた。

カッターや吸盤をそのまま腰袋に入れ、別の腰袋からまた小さなハンマーを取り出した。


今度は少し雑に格子状の切れ込みをコンコン叩いていく。すると四角い破片がぽろっと二、三枚落ちた。クロはハンマーを戻しヤットコ(平たいペンチのようなもの)を、取り出した。


ヤットコを入れ込み、まだ取れていないガラスを掴みベリベリとガラスを引きちぎるように取っていく。そうした全ての破片を取り終わるとある程度綺麗な円形の穴が空いていた。


「本来と少しやり方が違って雑だけど、まあ綺麗に仕上がる必要もないしな」


と独り言を言いながら空いた丸に腕を入れ込み鍵を開けた。カラカラと窓を開け、下でキョロキョロしているシロにハシゴを少しカンカンと叩き、コチラを向かせ、大きく手で丸を作った。


シロはまたマスクを下に下げニコッと笑う。


クロはゆっくりとハシゴを降り、シロに言った。


「やっぱり人はいない。奴らの影も二階の部屋には無かった。とにかく入ってみよう」


シロはおっけーと快諾した。

クロは腰につけた腰袋を手押し車に戻し、テイザーガンを取り出してハシゴの前まで戻った。


「よし、行こう。いつもと同じ、あたしが後ろから行く。先にシロが登って中を確認、侵入。クリアしたらあたしにサインを送って。そしたらあたしも登るから。入った時に奴らが出てきたら窓から飛び降りて、シロならこの高さくらい平気だろうから。


「わかった。3階から降りても平気だけどね」


「いい?戦闘は最後の手段。二階からシロが逃げれば多分追いかけて二階から落ちるはず。そうなれば足なり手なり折れるから、あとはどうにかできる。」


クロがそう言うとシロは親指を立てハシゴに手をかけた。



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