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あたしと私(挿絵あり)

「さて、まずは周りを見ることからだな」


クロはそう言うと、今から探索する赤い一軒家を見上げた。

暗めの赤に、所々に使われた黒がよく映える一軒家だ。いわゆる「おしゃれな建築」だったのだろう。一目でデザインへのこだわりが見てとれる。


「かっこいいお家だね」


シロは後ろで手を組みそう言った。


「そうだな」と答え、クロはまず玄関のドアノブに手をかけた。

音が出ないように注意深く、ゆっくりと回す。

が、ドアノブは回らない。やはり鍵がかかっているようだ。仮に空いていたとしても入る事はなく、先に家の周りを確認するつもりだったのだが。


そもそも空いていたとしたら、少なからずいたであろう人間の生存者が、既に中を探索しているかもしれないのだから、これは良い結果でもあると言える。


「蹴破る?あたしならこのくらいのドアいけるけど」


「やめてよ、すごい音出るでしょ。中に奴らがいるかもだし、確率は低いけど、そこらの民家にも潜んでるかもしれないんだ。一匹ならシロが居るからまだ良いけど、大勢になると絶対に敵わない。車もないから逃げることも難しいんだ。」


「それはあれだね、ごめんつかまつる」


シロはキリッと決めた顔で言った。

そういえばこないだ時代劇も見てたな…桜吹雪の刺青が肩に彫ってあるやつ。


クロは気にせず周りの探索を始めた。

前回の豚さん騒動と同じく、シロが前衛クロが後衛の陣形だ。こんな時のシロはすこぶる頼りになる。それほど戦闘能力が秀でているのだ。


シロは凄まじい筋力、身体能力、運動センスを持っている。一度見た動きを完璧にトレースし、体重の移動、重心のずらし方、全てを動きの中で理解し、覚える。

達人が数年かけて(DVDで言ってた)たどり着いた重心の移動による重い一撃も、シロは数回で使いこなす。

さらにその才能をさらに恐ろしく昇華させるのがシロの異常なまでの筋力だ。医学本に書いてある成人男性の平均筋力を優に超え、プロレスラーの平均記録ですら及ばない。

唯一比肩するのは、霊長類最強の男、ミケランジェロ・カロリンというレスリングの選手くらいだ。

その怪力は、レスラーやあらゆる人間の中でも群を抜いて突出しており、生涯無敗の伝説となった。


シロの筋力は16の時に少し劣るがカロリンとほぼ同等となっていた。パンチ力は体重の差でやはり多少劣っていたが、完璧な重心の移動によりその差を埋めるほどの重さ、スピード、瞬発力を持っていた。

もう一度書くが、測ったのは「16歳の時」である。一年前、ある施設で測っている。最新鋭の機器なので誤りはないはずだ。その事はクロが点検をし、データの調整を行なっているので間違いはない。


長々と語ったが、まだ一つ、恐るべき能力が備わっている。防御力である。


以前上階からコンクリートの塊、約3キロがシロに

落ちてきたことがあった。ヘルメットは視界の妨げになり、奴らに気づかないため、あまり付けないのだが、ここで致命傷となった。

クロにはこの瞬間がゆっくりと見えた。以前本で見たことがある。危険が迫った時に脳の情報処理能力が跳ね上がり、遅く見えるのだそうだ。


シロは落下物に気づくと、身を素早く翻し右手の甲で落下物を強打した。コンクリートは割れ、粉々になった。

しつこいようだが、3キロのコンクリートである。

それが2階ほど上、8メートルの高さから落ちてきたのだ。気づいて的確に攻撃を入れる事は普通の人間にはまず無理だろうし、そもそも何も付けてない素手でコンクリートを割ることなんてできるはずがない。


この時シロが負った怪我は手の甲の擦り傷だけだった。


シロのこの異常な能力はおそらく私と同じ出生によるところがある。

私とシロはかなり特殊な生まれなのだ。

しかし、よくもまあこんなに私と違うものだ。

私は記憶力には少しは自信はある。勉強だって少しはシロよりできるけれど、あくまでその程度だ…。

シロは、何があっても死なせない。それは私の生きるためでもある。何より、シロがいない世界には、意味などない。


「シロ、気をつけるんだよ。何かあったらすぐ私もサポートするからね」


シロは振り返り、フェイスマスクを右手でぐいっと下げると、ニヘヘっとわらった。

フェイスマスクを元に戻し、再び前へ向きなおった。




ーー大丈夫、クロはあたしが守る。


シロはそう自分に言い聞かせて、右手のナイフを強く握り、腰の後ろにあるハンドガンを一度手でポンッと叩き、有無を確認した。


あたしは体力や腕力に自信がある。でもクロがいなくなったら絶対に生きていけない。

この子はとてつもない能力を持っている。

あたし達がいた施設の図書室、数万冊の本を読破していて、さらにその全てを記憶している。歴史、建築、重火器、化学、薬学、植物学、地理、サバイバル術、心理学など、あらゆる本を読み、その脳に蓄えている。

更には銃の扱いに長けており、撃った弾はほぼ確実に標的にあたる。それは距離、弾道、風速、天候全てを把握し計算できる脳があるからだろう。


10年間で数万冊、1日に何冊読めばそうなるのかあたしには分からないけど、とにかくクロはすごいんだ。あたしの知らない事は全部知ってる。何かあればすぐ作戦をたてて、生き残る術を示してくれる。クロはあたしであり、あたしはクロなんだ。

決してこの子だけは死なせない。


「よしクロ、行こう」



挿絵(By みてみん)

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