物音(挿絵あり)
「このへんかな。シロ起きて、ここから歩いて行くよ」
助手席でよだれを垂らしたシロをゆり起こす。
よだれを左右に揺らしながら
「おきてるよーおきてるー…」
とシロは答えた。
クロはエンジンを切り車を降りて後部座席の荷物を漁り出した。
周りは街の中で少しひらけた場所で、何かが近寄った場合すぐに目視できる。
準備をするには適した場所だ。
89式自動小銃をバッグから取り出し、軽い点検をしていると、シロが目をこすりながら眠たそうに降りて来た。
「民家があるとこまで車で行こうよ〜」
「昨日も話したでしょ。ここから道が悪くて車が進入できないし、無理やり通っても車のエンジン音で奴らがくるかもしれないんだ。街中の整備された道なら車で逃げられるけど、道が悪いからそうもいかないんだ。」
クロは点検を終わらせ、シロに背を向けて小銃を構え、照準を覗き込みながらシロに言った。
「シロも早く準備をーー」
そう言いかけたとき、シロが
「シッ」
と人差し指を口の前に当てる仕草をした。
続けてシロは小さな声で
「今あそこの建物の中で何か物音がした」
シロが指差す方向には他と変わらぬ建物が1つあった。距離は大体50メートルほど離れている。
クロには到底聞こえない距離だが、シロの五感はとてつもなく鋭く、今までその五感のおかげで何度も危機を回避して来た。
クロは自動小銃をバッグに入れなおし、他のバッグから、白くて四角いオモチャのようなハンドガンを取り出した。テイザーガンである。飛距離は20メートルほどしかないが、当たれば生き物は電流を流され動けなくなるというものだ。
「シロ、見に行こう。帰って来たときの危険はなるべく排除しておきたい。早くこれを着て準備して」
そういうと後部座席に置いてあったものを渡す。
それは黒いアームカバーだった。
そのアームカバーに腕を通すと、肩まで覆うような形になっており、左右で一対となっている。
左右の肩甲骨を覆っている部分からバックルのついたベルトがでてきており、それを連結させる。
同じベルトが前側の肩の部分からも出ており、同じように左右で連結させることで装着完了となる。
手の甲から肘あたりまで幅2センチ、厚さ5ミリほどの白いプラスチックのプレートが細い縦筋のように、伸びている。
プラスチックは細かく分断されており、腕に合わせて曲がるようだ。
同じものが側腕にも付いている。
プレートの下には衝撃吸収材が埋め込まれているようだ。
拳の部分には鉄のようなプレートが付いている。メリケンサックの役割である。
このアームカバーは防刃素材で出来ており、更にこの細く伸びたプレートでバットなどの打撃も防ぐことができる。
そして前回と違う装備がもう2つ。
1つ目はズボンである。
黒のズボンなのだが、その形は変わっており、膝までは横に広がったような幅の広いシルエットなのだが、膝からは徐々に絞られている。
サルエルパンツのような形である。
これも防刃素材で、動きやすさを最大まで出せるズボンである。
2つ目は、顔の下半分を覆う黒のフェイスマスクである。動いた時にずれない顔にフィットしたものである。口と鼻をおおう意味もあるのだが、今は記述しない。
アームカバーとハンドガン一丁、サバイバルナイフ、防刃のズボン、そして鼻まで覆うフェイスマスク、これがシロの最大装備である。
全身黒で覆われた姿に、純白の髪が一際目立っていた。
手慣れた手つきでシロは1分ほどで着替えを終えていた。
一方クロは常に最大装備なので、着替えることはなかった。
防刃のミリタリコートに防弾のアンダーアーマー。これは液体がインパクトの瞬間に凝固し、玉を防ぐというものであった。
準備を終えた2人は物音がした建物へと向かうことにした。
「いい?シロが前、その3メートル後ろで私が付いていく。いきなり遭遇した場合はまず逃げる、接敵はしない。相手に気づかれないで先に発見できた場合は、私がテイザーガンを構えながらシロが近づいて仕留める。もし失敗したらすぐにテイザーガンを撃つから。それと相手が動物の場合、クマとかなら迷わず逃げる。わかった?」
シロは珍しく真剣に話を聞いている。奴らの危険さがわかっているからだ。先程あの細い路地に入ろうと冗談を言っていた少女と同一人物とは思えない。
シロが頷くと、2人は音がした建物へと向かって歩いていった。