2人で1つ
一台の四駆車が、廃墟と化した街の中を走っている。
周りには建物や電柱に突っ込んだままの車や、黒焦げの車が所々に放置されている。
街のアスファルトを、下から緑が押し上げ、隆起しているところもある。
整備されなくなった道は、スピードを出して通るにはあまりにデコボコで、落ちているものや、穴の空いている場所を避けて通らなければならないようになっている。
そんな道を、2人の少女を乗せた車がゆっくりと進んでいく。
助手席に座っている純白の髪をした少女が、建物と建物の隙間にある小道を指差し、こう言った。
「ねえあの小道入ろうよ」
運転している小柄な黒髪の少女は、チラッと指差した小道を見る。
おそらくこの小道を入った先は、細い路地が交差する、迷路のように入り組んだ道となっているだろう。
ビルがジャングルのように建っているこの街では、その隙間を縫うように小道が巡らされているこのような道は、珍しくもない。
「だめ。もしこんな細い道で奴らに囲まれたら、逃げられないじゃん。危ないよ」
黒髪の少女はスピードを落とすことなく障害物を避けながら進んでいく。
純白の髪の少女はあきらめず、黒髪の少女に顔を向け、身を乗り出しながらこう続けた。
「その時はアタシがクロを守るよ。熊とだってまともに戦えるんだ。奴らが何人来ても、まとめてぶっ飛ばせるよ!」
「負けたじゃん、シロ。全身血だらけで」
「でも追っ払うことはできたよ。だから引き分け。次は勝てるよ」
腕を組み自信ありげにシロは笑みを浮かべた。
少し間をおき、クロは前方を見たまま答える。
「次なんてなくていい、勝てなくてもいい。死んじゃうかと思ったんだよ。もうあんな思いはしたくない。だから危険もなるべく侵さないし、危なければすぐ逃げる。…シロがいなくなったら、私は生きていけないよ。」
クロは少し恥ずかしそうに、しかし前を向いたままシロを諭した。
シロは、この面白そうな小道に入ることを諦めてくれたようだ。…というよりかは、嬉しくてもう忘れている、という方が正解かもしれない。
シロは上機嫌で鼻歌を歌い出した。
しばらくすると、シロは思い出したように上体を前へ曲げると、クロの方を向き
「そういえば今日って何しにいくんだっけ?」
と言った。
「今日は民家の探索。もう少し先に、一軒家が集まってる所があるから、そこに行くんだよ。今不足してるのは、野菜シート、小麦粉、それとこないだシロが割った丸皿とかかな。他は全部紙に書いてるから、見ながら集めよう。」
「げっ、野菜シートなんかいらないよー。肉ばっか食べよーよ」
シロはそういうと、顔を歪ませ手をヒラヒラとしながら座席にもたれた。
「野菜シートたべなきゃ、栄養が偏って病気になっちゃうんだよ。だからちゃんとたべなきゃ。本当は本物の野菜を食べられるのが一番なんだけど、こんな街の中に畑なんてないしね。自分たちで育てて見るのもいいかもだけど」
クロがそういうとシロはまったく違う話題を話し始めた。もう興味がなくなったらしい。
「民家かー。暮らして見たいなぁ」
と、シロはクロに聞こえるように独り言を言った。
「奴らがいなくなったら、無防備な一軒家でもいいかもね。」
クロが何気なく言ったその言葉に、シロは目を輝かせ、
「もしも住むならこんな一軒家」という妄想を語り出した。この話は、30分も続き、一軒家が巨大ロボになるという設定が出るまで続いた。
もしも奴らがいなくなったら、そんな世界はやってくるのだろうか。もしそうなったとしたら…と自分でも考えながら、クロはゆっくり、ゆっくりと、目的地へ向かっていた。