お猿さん
真っ白な太陽の光が暗かった通路に差し込む。
どうやら屋外に出たようだ。
暗い通路を歩いてきた2人にはかなり強い光に思えて、とっさに片方の手で視界を遮った。
それでも少しずつ目は慣れていき、次第には扉の外の景色がぼんやりとわかってきた。
扉の外にはたくさんのレーンと併設して乗り場が並んでいる。
天井はあるものの、壁はなく、柱だけが天井を支えている。
一つ一つの乗り場には「○○行き」と書かれた看板が設置されてある。ある程度錆びてしまい文字が分からなくなってしまっている看板や、そもそも看板の足が折れてしまっているものすらある。
周りは木々に囲まれ、自然の中にこの駅が作られていることがわかる。
レンガで作られたノスタルジックな乗り場にはヒビが這い、そこから草が生えておりレンガの茶色と風景、苔、草の緑がまた映えていた。
「クロ、あそこ!」
シロが小さめの声をだしながらクロの肩を叩き、レンガから生えた草むらの一つを指さした。
クロが草むらを注視すると、一瞬ガサガサっと草が揺れたのが見えた。
草むらの高さは1メートルも無いほど、あいつらが隠れている可能性は考え難い。
少しだけ警戒しつつも2人はしゃがんで様子を見てみる。
するとその草むらから一匹の小さな猿がピョンっと現れた。
白いモコモコの体だが、手首から先と足首から先、そして尻尾は黒くなっている。
大きさは30センチほどの猿だ。
そして一番おかしいのは耳である。
猿の耳ではなく犬のような熊のような、顔の半分はあるだろうおおきな丸い耳が上についていたのだ。
「かわいー!!」
シロはそう言いながら駆け寄って行った。
クロは不思議に思い咄嗟に
「まってシロ、その猿何かおかしい!」
シロはピタッととまる。
「この乗り場には絶対に動物は入ってこれないはず、しかもそのサイズでその色の猿なんて見たことない、存在するはずがないよ!」
「新種かもよ?」
「この施設には人間が捕獲した動物しかいないはず、新種なんて居ないよ。それにやっぱり、ここに侵入できるわけがないんだ、何か怪しいよ」
クロがそう言って警戒していると、猿はこっちに気づき、ピョンピョンと飛んできた。
「わっわっどうしようクロ!」
シロがあわてふためいていると、猿がシロの目の前で止まった。
近くで見るとかなりモコモコしている。猿の毛並みではない、猿の体に猫の毛がついているような、そんな感覚だ。
クロはとっさにハンドガンに手を伸ばす、毒、罠、攻撃性、すべての要因を考え処理する方が無難である。
が、
クロは可愛いものが好きであった。
撃てない、くろはハンドガンの手前で手が止まりプルプルしている。
猿は自分のお腹に手を入れた。
なんとこの猿は有袋類のような袋を腹に持っていたのだ。毛に覆われ見えないが、袋の中を手でゴソゴソと探っている。
クロはもうなんの生き物なのか分からずに混乱していた。
すると猿は大きな耳をピコンッと動かし、袋の中からさくらんぼを取り出して、高々とシロに向かって差し出した。
「え、これくれるの?」
シロは膝に手をかけ屈み、猿の手に乗っているさくらんぼを指さした。
猿はどこか嬉しいような表情をしているようにすら見える。表情などあるはずがないのに。
「シロ、危ないよ、せめてパッチテストで毒性をたしかめてからー…」
「匂い的にだいじょーぶ!」
そう言ってシロは片方をパクッと食べてしまった。
「おいしー!ありがとうねお猿さん!」
猿はニコッと笑った。
「え、表情があるの?意思疎通ができてる?そもそもさるなのになんで袋が?」
クロは興味深そうに観察している。警戒心よりも好奇心が勝ってしまっているようだ。
「でもどうやって管理自然区域からきたんだろう、ここにはパスキーがないと入れないのに」
この乗り場にあるレーンの先は、一つ一つゲートがあり、管理者しか開けることができない。
したがって、管理自然区域から動物が入ってくるなんてことはありえないのだ。
「意思疎通がもしできるのなら…」
クロはそう呟きながらしゃがんだ。
「ねぇ君、どうやってここまで来たの?どこから来たの?」
と、猿に向かって話しかけてみた。
猿はゴソゴソと袋を触りだした。
「なんてね、いくら科学の街でも、動物が言葉を理解するわけー...」
クロが立とうとした瞬間、猿が袋から一つのカードを取り出した。
カードには
(パスキー Revel4)
と書いてあった。
「もしかして言葉を理解したの!?いや、それよりもRevel4って、最高幹部のカードだ、どうして持ってるの!?」
猿はまた袋から一枚の写真を取り出した。
完全に言葉を理解しているようだ。
その写真には研究施設のような場所で1人の女性と今より小さい猿が写っていた。
「これって…」
そして猿は毛で隠れていたネックレスをクロに見せた。
そこには(実験生物No.42)と書かれていた。
「まさか君、実験で生まれた子なの?」
猿はニコッとしながら何度もうなずく。
そして写真を両手でギューッと抱き寄せた。
実験動物とはいえ、大切にされていたのか、愛おしそうな目で写真を眺めている。
猿は少し悲しそうな顔になっていた。
「家族だったんだね…」
シロがそうポツリと呟いた。
クロがネックレスをみてあることに気づく。
「これ、開くみたい」
「え?」
よく見るとネックレスには割れ目があり、こじ開けられそうだ。
「ねぇお猿さん、開けてみてもいいかい?」
クロは猿にそう話しかけた。
さるは両手で頭を抱えしばらく考え込んだ。
そしてゆっくりと猿は首からペンダントを外し、恐る恐るクロに渡した。
「ありがとう、壊さないからね、大丈夫だよ。」
そう言ってポケットから七つ道具を出し、ドライバーでパカッとペンダントを開いた。
「これ…」