扉の先の扉の先
化学の結晶である街を中心に広がる広大な自然。
その自然を200km、高さ30メートルの巨きな壁が囲んでいる。
さらにはその壁の中の自然を巨大なドームでいくつかに分け、温度、湿度、気圧に至るまでを管理し、様々な環境を作り出すことに成功している。
しかし現在、管理する人間はいない。
なのに電気が来ている。温度が保たれている。環境が保たれている。
なぜなのか?
この巨大なドームには化学の街が作り上げた人工知能が搭載されている。一つのドームにその人工知能がおよそ12ほど配置されている。
一つ一つに役割と担当があり、相互にコミュニケーションをとりながら管理、ケアを行なっている。
人間がいなくなっても、人工知能が壊れない限りこの動物園は存続していくのだ。
その動物園へ続く職員専用の通路に、二人の少女がいた。
むき出しの配管やメーター、ダクトなどが通路のあちこちを走り、熱気、蒸気が通路を満たしている。
「大きな生き物の体の中みたいだね」
シロは周りの配管を見ながら呟いた。
「そうだね。それならこの配管が血管で、この轟々となってる音は筋肉の擦れる音かな。」
「きんにくの擦れるおと?」
「そう、指で耳をふさいでごらん」
「こう?」
シロは両手の人差し指で耳を抑えるポーズをとった。
「うん、塞いだらゴーって音がなるのわかる?」
「やってみる」
人差し指で耳を塞ぐ。
ゴーーーという音が頭に響く。
人差し指を下ろしてシロは輝く笑顔でクロにこう言った
「ほんとだ!これが筋肉の音なの?」
「そうだよ」
シロは感動したように何度も耳を塞いでいた。
この通路は普段あまり通らない。
狩をするときに利用するのみだ。
しかし二人はさほど警戒はしていない。
通路は一本道で横道や隠れられる隙間がないので、感染者がいたらすぐにわかる。
更にはこの通路に入るためにはセキュリティカードがいる。
先ほどクロがスキャンさせていたカードキーだ。
感染者がスキャンをして入るということは考えにくい。
生前の記憶が強く残り、その行動を反復する奇行タイプならあるいは可能性があるが、仮にいたとしてもこちらは万全の装備があり、音の心配もないので銃火器が使えるのである。
少し歩くと通路の終わりに突き当たった。
そこには一つの鉄製のドアがあり、同じくセキュリティカードをかざす機械が横についていた。
「ここが体内ならあの扉はおしり…」
「やめて」
シロの言葉を遮り、クロは胸元のポケットからカードキーを取り出した。
ドア横の機械にかざすと扉はガシャンっという音を出し、ゆっくりと開き出した。
薄暗い通路へ煌々とした光が差し込み、徐々にその範囲を広げていく。
クロの吸い込まれるような黒髪にすら反射し、シロの純白の髪はさらにその輝きを増した。
二人は手のひらを前にかざし、目を細めながら外を見た。