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美味しいね

「いただきまーーす!」


シロは両手のひらを合わせ部屋に響き渡るほど大きな声で言った。


「いただきます。」


それとは対照的にクロは静かに手を合わせ、目を閉じつぶやくように言った。


シロは早速皿の上にあるハンバーガーを鷲掴みにし、大きな口で一口目を頬張った。


「んん〜〜ッッ!!」


と声にならない声を発し、目をキラキラと輝かせた。


「どう?美味しくできた?」


クロは微笑んでシロに聞いた。


ごくんっと喉をならせシロは満面の笑みを浮かべこう答えた。


「美味しいよ!これなら野菜もたくさん食べられる!」


「もうほら、口の周りにケチャップがたくさん付いてる。…よし、これで綺麗」


ティッシュでシロの口の周りをふいてあげる。その間シロは片方の手はハンバーガーを持ち、片方はお膝に手を乗せてお行儀よく拭かれている。


シロの柔らかいほっぺが右に左に行くたびに、「んむんむ」とシロから声が出る。


クロはクスッと笑い、自分のハンバーガーを一口かじった。

…肉に届かない。


次こそはと精一杯口を開き、大きくかぶりついた。


…美味い。

圧縮パンはいつも通りパサパサのポロポロだが、合成肉の少ない肉汁がうまく染み込み、シャキシャキのレタスとピクルスがチーズと肉肉しさを抑え、さらにスッキリした後味を残してくれる。


口の中に味が残っている間にすかさず冷えたコーラを流し込む。

んぐっんぐっと喉が音を鳴らし、喉越しをさらに気持ちよく昇華させる。


そして残ったのは程よい余韻と鼻腔を通り抜ける爽やかさだ。


中々の、いや最高の組み合わせだ!

ハンバーガーの肉らしさがまた欲しくなってくる。


「どう?」


シロの問いかけにハッと我に帰る。


「うん、美味いよ。」


シロはニコニコしている。よほど嬉しかったのだろう。


「次は、本物の肉でしてみたいな。」


クロは合成肉をじっと見てそう呟いた。


「ジューシーだしねぇ」


よだれを垂らししてシロは薄目になる。


「あ、そうだ。今日見つけたDVD見るんでしょ?さっきプレイヤーに入れたから点けよっか。」


「賛成!」


リモコンに手を伸ばし再生のボタンを押す。


ほかのDVDでもあるように、ほか作品の宣伝が始まった。


作品ごとにシロが興味を示せばクロは興味なさそうだったり、少し難しい映画が出てくればシロの頭にはてなが浮いたり、この時間もまた、旧時代のDVDならではの時間で、クロは好きである。


宣伝を飛ばさないのもそのためだ。


宣伝が始まって、黒い画面が映る。


「あ、クロ始まるね!」


「うん」


画面が明るくなり、アニメが始まった。

荒廃した汚い世界。ゴミだらけの街には人の気配が全くない。その中で金属を漁る少女が二人。


目当てのものが見つかったようで二人一緒にゴミを掻き分け、時には登りながら少し開けた場所へ辿り着く。

そこには一隻の小さな宇宙船があった。

継ぎ接ぎでできた宇宙船には頼りないエンジンとブースターが付いていた。


少女二人は旅に出るワクワクを語り合いながらエンジンをかけた。

凄まじい轟音を響かせながら宇宙船は空へと飛んでいった。


窓から地球の丸みがわかる場所まで来た時、宇宙船には異音が鳴り響くようになる。二人があたふたしながら抱き合った瞬間、宇宙船が爆発し、二人は吹っ飛ばされる。


そして未知の惑星にたどり着く。

そこには見たことないほどの豊かな自然と、何より、生き物がいた。


二人は顔を見合わせ笑い合い、冒険を始める。

そしてどたばたの旅が始まるのである。


「この二人、私たちに似てるね」


シロがつぶやく。



二人はハンバーガーを頬張りながら夢中で映画を見ていた。


「ハンバーガー無くなっちゃった…」


シロがいまにも泣きそうなうるうるした目でこちらを見た。


クロもちょうど食べ終わっていた。


「いいものあるよ」


クロはお皿を流しへ持って行き、冷蔵庫から何かの瓶と冷蔵庫の上のカゴから袋を取り出した。


「これなーに?」


「赤ワインと干し肉。実は今日見つけてサプライズのために隠してたの。」


「いいですなー!さっそくのみましょう!」


シロはそういうと食器棚からワイングラスを2つ持ってきた。

クロがワインをグラスに注ぐ。

トクトクトクという音が待ちきれない心をさらに急かした。


シロは改めて座り直し、フッフンと大人びてみせた。クロはプッと笑い冷えた赤ワインをクイッと飲んだ。

なんとも言えない香りと味が口に広がる。


少し間を空けて、次は干し肉をぽいっと口へ入れた。干されて凝縮した肉の旨味。そして少しだけかけられたブラックペッパーがまたたまらない。


干し肉を堪能したのち、赤ワインをまた口へ運ぶ。全身に溶け込むようにワインが体の中へと入って行き、疲れがすべて消えていくような感覚が来る。


シロも隣でもしゃもしゃと食べては飲み食べては呑んでを繰り返している。


物語が終盤に差し掛かったあたりには、すでに二人は出来上がっており、シロはほろ酔い、クロは真っ赤な顔で半分寝ている状態になっている。


シロはくろをヒョイっとお姫様抱っこで抱きかかえ、ベッドへと連れて行った。


よし、とシロが片付けのために離れようとした時、クロが手を握り、


「…どこへいくの」


と頑張って開けた目でシロを見つめた。


シロはくろの頭を撫で、


「ちょっと待ってて、片付けしてすぐ来るから」


と微笑みかけた。

しかし


「だめだー!」


とクロが手をぐいっと引っ張り、シロはクロの上に覆い被さってしまった。


「ぐえー」


とクロが細い声で言った。


「ぐえー」


シロはそう言いながらクロの横に滑り込み、仰向けになった。


「片付けあしたしよ…」


誰にいうでもなくそう呟くと、クロが両手両足を使ってシロに抱きついてきた。

よだれを垂らしてもう寝ている。


シロもいつのまにかスースーと眠ってしまった。


世界で唯一平和な時間を過ごし、二人は生きていく。



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