クロは結構こだわるタイプ
階段を降りるとそこには鉄格子があった。
鉄格子の奥からわずかな光がこちらを照らしている。
クロはその弱光を頼りに鉄格子の鍵を開ける。
ガチャッという音がなり鉄格子が動いた。
入り口に入ってすぐ、左手を水平に伸ばし、ペタペタと壁を触っている。カチッと音がして暗かった空間に明かりが灯された。小さくはないが大きいわけでもない長方形の空間。壁には一面の木目が広がっている。
が、よく見ると壁紙であることがわかる。
床もフローリングの床紙を貼っている。
少し暗めな落ち着いた壁の木目と、床の清潔感あふれる明るいフローリングが小気味のいいおしゃれな雰囲気を作り出している。
短い面の片方の壁にはテレビが設置してあり、それに対する形でローテーブル、ソファが置かれている。
ローテーブルもまた木目で、ネイビーのソファがうまく溶け込んでいる。
近くにはアイランドキッチンがあり、その前には背の高い丸テーブルと、チェアーのセットが置いてある。
シロとクロが毎朝ここで朝食をとっている。
今までの無機質な建物からは想像できない、おしゃれなカフェのような部屋が広がっている。
このインテリアの殆どがクロのチョイスである。
クロはよくインテリアの本を読み、インテリアショップやいろんなお店から家具を持ち帰っているのだ。
おそらくこれがクロの唯一の趣味といってもいいかもしれない。
ここが二人の隠れ家なのだ。
鉄格子の向かいの壁には2つのドアがあり、寝室、風呂場(トイレ、洗濯、洗面台)へと続いている。この扉は鉄格子ではなく、普通の家にも使われるようなドアだ。
そしてテレビと反対側の壁にももう1つドアがある。
この扉の向こうには小部屋があり、
生活用品や武器、工具などの調整部屋兼倉庫となっている。
中には2つの机があってさまざまな工具が並んでいる。シロはここで刃物を研ぎ、クロは重火器などの調整やメンテナンスを行っている。
作業場といったほうがわかりやすいかもしれない。
その奥には段ボールなどが綺麗に並び、日用品や食料の保管場所となっている。
シロとクロはこの作業場にたくさんの荷物を持ち込み、ドサッと地面に下ろすと、シロが並べ出した。
それを見ながらクロがメモを取っている。在庫の管理はクロが行なっているようだ。
「乾燥チーズに圧縮パン、合成肉ブロック!最高じゃん!」
シロはよだれを垂らしながら整列した食べ物を見つめている。いまにもかぶりつきそうである。
クロは一切シロを見ずにメモと戦利品を交互に見ながら忙しくペンを走らせている。
「今食べちゃダメだよ。ハンバーガー無しになるからね」
ビクッとしたシロの手は、チーズすんでのところでとまり、物惜しそうにシロの膝の上へと帰っていった。
「ハンバーガーのため…ハンバーガーのため…」
シロがブツブツと何かを言っている。
クロはメモをぱたっと閉じ、
「よし、片付けてご飯にしよっか!」
とシロに言い、にこっと笑顔を向けた。
シロは勢いよく右手を高らかにあげ
「おおー!!!」
と返事をした。